第9話 王都到着

 俺が馬車に乗ってから幾日か立って、ようやく王都が見えてきた。


 はえ~おっきい。

 街を見た時もそれなりに大きいなあとか思ったけど桁違いにでかい。

 例えるなら東京ドーム三個分が街だとして東京ドーム三百個分が王都って感じ。


 東京ドームってどれくらいの広さなのかは知らない。


 とにかくすっごい大きくて街を囲う壁の端が見えない。

 こんだけ人がいそうなら、ヴァンピも目立たずに生きていけるだろう。

 変人として見られる可能性も考えたが、どうもこの世界の人はヴァンピを素直に受け入れている。

 

 吸血鬼じゃなかったら人気者だったんだろうなって思う。


「見えてきましたね、王都です」


 ダンショウさんが言う。

 やっぱり王都なんだ、これでただの街ですよなんて言われたらぶっ飛ぶところだった。

 俺達は門に続くいくつかある列に並び、王都に入れるのを待つ。


 しばらくすると俺達の番になった。

 

「身分証を、いえ、ダンショウさんでしたか、どうぞ」


 ダンショウさんが顔パスで入っていった。

 え、すごい。もしかしてお偉いさんなの。


「恥ずかしながらこれでも王都に商店を構えております」


 すっげー!

 大商人じゃん。ていうかそんな立場の人なら護衛一人連れて王都出るとかあぶなくない?

 危機感が足りんよ危機感が。


「申し訳ないです。初心を忘れべからずとたまに旅商人として回っているのですよ。さすがに今回のこともあり、今後は辞めようかと思います」

 

 偉いけど危ない。

 でもよかった、今後は危険なことはしないようだ。

 俺が通りかかったからよかったものの、下手したら死んでたしね。


「それではノーズさん、こちら依頼のお金です。ヴァンピさんにはお礼のお金とこちらを」


 お金だー!

 結構ずっしりしてる。

 それと、木札?

 何に使うんだろう。


「こちら私の商店のサービス券となっております。私への取次にも使えますので、何か御用がありましたら、是非寄ってください」


 あ、このお店ね。

 店の場所は、まあ今度誰かに聞けばいいか。


「過分な謝礼、感謝する。では我はここでお暇させ頂こう」

「はい、こちらこそありがとうございました。また会える日を楽しみにしています」

「俺も、ヴァンピさんみたくもっと強くなります」


 うんうん、人間だからね。

 ヴァンピみたくなるのはちょっと難しいけど頑張って。

 勇者くらいになればいいのかな?

 結局勇者ってどれくらい強いのか見当もつかないや。


 めっちゃ敵視されてたけど、相手の力量とか測れないんだよね。

 俺強いはずなのに。

 普通強者なら相手のオーラを感じ取って、こいつやるな!みたいな感じでわかるかと思ったんだけどそこらへんはポンコツらしい。


 デビアイちゃんがいるから、そこらへんで判断してたのかもしれない。


 俺は考え事をしながら、記憶にあった宿へと到着する。

 人気ひとけのなく、どこか寂れた宿屋。

 俺にぴったりだね。


「いらっしゃい、おうヴァンピか、また遠くまで行ってきたらしいな、ごくろうさん」

「毎度毎度気安く話しかけてくるな、その強面で言うセリフではないぞ」


 ハゲた目つきの鋭いいかついおっさん。

 この宿の主人だ。

 左目には古傷なのかすっごい傷がある。

 いたそ~、古傷って回復魔法じゃ治せないんだよね。

 治せるのか? いや無用なことはやめよう。

 なんかダンショウさんびっくりしてたし。


「相変わらず廃れた宿だ、だがこのような佇まいこそ我に相応しい」


 ぼっちだからね、俺。

 多分。

 いや意外と人気者か?

 どっちかわからないけど、今日は宿に泊まってから明日ギルドに行こう。


「部屋はいつも通りだ。もうお前さん専用みたいになってるがな」

「ふん、では行かせてもらおう」


 ありがと、おっさん。

 俺は鍵を受け取り部屋へと向かう。


 意外にも部屋は綺麗に片付いており、外観に比べて内装は綺麗だ。

 見た目ももっと気にすればこの宿も人気なのになあ。

 でもそうすると俺の居場所がなくなっちゃうしこのままでいいか。


「さて、もう外で散策するには微妙な時間だし、夜まで寝るか」

「ご主人様~今日も出掛けるのですか?」

「うん、結構な頻度でやってるみたいだし、俺も経験しておこうかなって」


 俺はそのままベットに入り、少し睡眠をとった。





 夜になる。

 人通りが少なくなり、少し路地裏に入ればもうそこはならず者に襲われても文句は言えない暗さだ。

 そこに急いでいるのか、女性が一人入り込んでしまった。


「ちょっと危ないけど近道近道」


 女性は気付かない、自分が狙われていることを。

 視線を受けていることに。


「むぐっ!」

「動くな、動くと痛い目にあうぜ」


 女性の口を乱暴に塞ぐと、男がナイフを腰に突きつける。

 突然の出来事に女性は涙を流し、抵抗はせず男にされるがままになる。

 はずだった。


「ふむ、婦女子を襲うとは感心せぬな」

「誰だ!!」



 俺だよ~!

 吸血鬼ヴァンピ参上!


「王都に蔓延る悪の実に多いこと、我の目をもってしても全ては刈り取れん。しかし今宵はいい月夜だ。潔く我の糧となるがいい」

「う、うわあああああああ」


 俺は悲鳴をあげる男を女性から引き離し、男の腹を殴り気絶させる。

 そして男を縛り上げて、女性の前において颯爽とさる。

 この間わずか三秒。

 早すぎて見逃しちゃうね、女性も。


 殺しはしない。命を取ったら取られる覚悟のあるやつということで殺すかもしれないけど、基本的にヴァンピは人を殺さないし、血も吸わない。


 なにが彼をそうさせるのか。

 頭にはもやがかかって見えない。

 意外と重要なことが分からず、この先が不安になる。


「ご主人様~今日はうまくいったね」

「ああ、さすがに毎日は出来ないし、こんなこと頻繁に起こってもらっても困るんだけどさ」


 見えないところで人助け。

 これが流れの吸血鬼、ヴァンピなのだ!

 今夜の警戒はこれまで。

 宿に戻って、休むことにしよう。


 明日は冒険者ギルドに顔を出すぞ!

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