第7話 オーク狩り(配信あり)

 俺が五つ目の村で女性をゴブリンから助けて数日、途中で大きな街が見えてきた。

 村って感じじゃなくて街!って感じ。

 原始的な村じゃなくて快適に過ごせそう。


 街は低いながらも石壁で周りを覆ってるし、門番みたいな人が立っている。

 周りは塹壕が掘られ水で埋まっている。

 俺は普通の冒険者って顔をして門番の前を通り過ぎた。

 すると当然だが門番の人が俺を止める。


「待て、身分を証明するものはあるか?」


 俺は無用な返事を避けるため、バックからスッと冒険者カードを取り出す。

 便利だよね、これで身分証代わりになるんだから。


 この世界の冒険者は、便利屋さんとして機能している。

 勇者や軍、衛兵達の手が回らないところの依頼を解決する。

 実に都合のいい存在だ。

 偉いね!


 あとカードの偽造は難しいらしい。

 なのでこんな風に身分を示すのには絶大な効力を発揮する。


「確認しました。ヴァンピさんですね。ちょうどよかった、今オークの集団が近くに集落を作ろうとしているらしく、今から討伐隊を組んで出発するところなんです。ご一緒お願いできませんか?」

「我にオーク退治だと、いいだろう。討伐隊の場所へ案内せよ」


 今度はオークかよ。豚が大人の男くらいに大きく、二足歩行をしている魔物だ。

 こいつらもきっとゴブリンよろしく女性を繁殖用に攫うんだろうなあ。

 しかもゴブリンより遥かに大きい。力も強い。

 

 俺は参加するとは言ったけど、目立ちたくないので後ろの方で戦力の把握をする。

 結構な人数が集まっていて、俺がいなくても大丈夫そうだ。

 そりゃそうだ、俺は想定外の訪問者で、元々オークの集団を討伐するために組まれているんだから。


 そして俺は補給要員として参加することになった。

 まあ危なくなったら助けにいけばいいよね。

 俺最強だし。


「それでは今からオークの討伐へ向かう。全員準備はいいか!出陣!」


 討伐隊の人達が集まっている広場で、隊長っぽい人が号令をかけて部隊が進んでいく。

 街を出てしばらくすると、鬱蒼うっそうとした森が見えてきた。

 整備などされていないその森の獣道を、草を掻き分けて前進する。


 オークの集落はまだ見えてこない。

 集団って何体いるんだろう。

 これだけの人数揃えたってことは中々の数だろう。


 そう考えていると、部隊の行進が止まり、前の方から伝令が伝えてくる。

 どうやらオークの集落まで辿り着いたらしい。

 こりゃ勝ったな。戦力も足りているはず、偵察もしているだろうし。


「突撃ー!!」


 前方から隊長らしき人が叫ぶ声が聞こえた。

 どうやらオークとの戦いがが始まったらしい。


 補給要員、すなわち荷物持ちとして参加している俺は、弓兵に弓の補充をしたり、下がってきた怪我人の手当てをした。

 勝っているのか負けているのか、まだ分からない。


「オークソルジャーだ!」


 どこからか叫ぶ兵士の声が聞こえる。

 名前からして強いオークの個体だろう。

 部隊全体に動揺が走っているのが伝わっている。どうやら想定外の戦力だったらしい。


 怪我人が増えてきた、疲労の色を確認できる兵士が数多くいる。

 このままじゃ負けるな……。


 俺は身を翻し、後方へと走り出す。

 きっと俺の姿はオークソルジャーに恐れをなして、逃げだした冒険者に見えるだろう。

 甘んじて受け入れようその侮蔑、しかし必要なことなのだ。


 部隊から遠く離れ、誰もいないことを確認して俺は変身する。

 俺はいつもの格好漆黒のコートに目元を隠した仮面に身を包む

 吸血鬼ヴァンピ見参!!


 俺は森の中で戦っている部隊をぐるりと迂回して、オークの集団がいるひらけた土地の後ろを取る。


 森を抜けた先にあるそこは、切り立った崖があり、オーク達は後ろからの奇襲を気にせず戦えている。

 

 俺は切り立った崖の上で叫ぶ。


「愚かなる者たちよ、今日が晴天であることを幸運に思うがいい。闇夜で我と相対あいたいしていれば、その命、刹那で消え失せるぞ」


 皆ー助けに来たよー。

 安心してね!


「うわあああああ昼間なのに吸血鬼がきたああああああ」

「おしまいだああああああ。撤退しろ撤退だあああああ」


 あれ? すごい悲鳴、オークソルジャーより怖がられてる。

 逃げなくてもいいよ~。

 これからオークを殴殺するからさあ。


「見るがいい我が力、その一端をここで。披露するは艶美えんびな舞、そのまなこに焼き付けるがよい」


 今からオーク倒すから見ててねー。

 それじゃあいくよー。


 俺は崖の上から飛び上がり、敵陣の中央に空中から降り立つ。

 突然の乱入者である俺に混乱してるオークの集団。

 それを殴る。ひたすらに殴る。

 爪や牙は使わない、だってこいつらの油ひどいんだもん。

 ゴブリンには吸血してた?

 あれはこう、雰囲気で……


「この程度か! 所詮はオーク! 只のブタということか!!」


 なんか無双ゲームしてるみたいで楽しくなってきた。

 大人の背丈くらいあり、力士みたいに筋肉と脂肪の鎧を纏っているオークを、細くてそれでいて締まっている、まあそこそこいい体してるね、ていう感じの俺がバッタバッタと殴り倒してく。

 それ~ぶっとべー!


 俺が気付いた時にはすべてのオークが地に付していた。


「ふう、これは恥ずかしいところを見せてしまったかな、我を忘れて暴れるなどといささか優雅さに欠ける行為だった。お目汚しを」


 みんな~倒したよ!

 辺りを見渡して残っている人を探す。

 

 あれ?

 部隊の人誰もいない。

 まあ逃げてたししょうがないか。


 死人がでなくてよかったよかった。


 俺はその場から去り、辺りに誰もいないことを確認してから、人間に変装して街に戻った。

 すると部隊の人達が広場で震えながら集まっていた。


「どうしたのだ、皆の者」

「オークだけじゃない、吸血鬼まで出たんだ、もう終わりだよ」

「こんな街簡単に滅ぼされちまう」

「王都に伝令を出せ!勇者を、聖女を要請するんだ」

「今出ても間に合いません!それよりも住民の避難を」



 あるえ?

 なんか大事おおごとになってるんだけど。

 今俺が出ていって、「オーク全滅してましたよ」ってうまく伝えられる自信ない。

 てかどうやって確認したんだよって詰め寄られるのが落ちだ。



 ……うん、逃げよう。

 幸い街から離れている人影も多い。

 混じっていけばバレないだろう。

 せっかく街で快適に休めると思ったのに、なかなか上手くことが運ばないなあ。


「ご主人様~街はもういいの?」

「俺が出る幕じゃないよ、オークは全滅させたし、安全だから問題なし」

「そっか~」


 段々デビアイちゃんが可愛く見えてきた。

 一つ目の圧迫感は未だにあるがな。


 俺は後ろで騒がしく動く人たちを知る目に、街を去った。

 次はもっとうまくやらないといけないな。

 そう心に誓って。

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