第6話 蔓延る魔物達

 ヴァンピとして転生した時にいた村から、さらに離れた村に泊まって、一夜を過ごしてから俺は王都に向かって歩いていた。

 俺の後ろにはデビアイちゃんが誰にも見られずに付いてきている。

 ちょっと怖い。


 俺はいつデビアイちゃんが配信モードにならないかと、ビクビクしている。

 これが一番精神的に来てるかもしれない。

 突発配信は心臓に悪い。


「ご主人様~、元気ないね」


 デビアイちゃん、よく見てるね。

 一つ目だからかな?

 そりゃ今は昼間だしな。

 若干ではあるがこの体のステータスはダウンしている。

 しかし吸血鬼なのに昼間自由に動ける時点で充分破格である。


 あとこの体になって分かったことがある。

 夜に寝なくても結構活動出来る。

 吸血鬼だから体が丈夫なのかな?

 なんで分かったかって?

 それは実際に経験したからだよ。



 ▲▽▲



 俺は初めて泊まった村を出て、次の村に着くまでひたすら歩いた。

 その日はまた変なセリフを交えながら村に泊めさせてもらった。

 みんな対応が神、誰も嫌な顔しない。

 この世界の人間頼もしすぎる。


 そして次の日、村を探して歩いていくが一向に村や街が見えず、この日は夜通し歩くかと覚悟を決めた。

 しかし真夜中になるとなんだか元気になってきた。

 昼間は少しだるいくらいだったのが、力が漲ってくる。

 月の光か?

 こんな深夜まで起きていたことがなかったので気付かなかったことだ。

 これが吸血鬼の力かあ……

 なんか何でもできる気がする!

 万能感が俺を支配する。


 俺が自分の力に酔いしれていると周りに狼の群れが俺を囲んできた。

 なんかグルグルいってる! 怖い!!


 でも俺最強の吸血鬼だからね! 強いんだぞ!!


 ガーっと威圧するように周りを睨みつける。

 すると、狼達は怯え始め、しっぽを股の下に入れたかと思うと、お腹を見せて服従のポーズを取った。


「くぅ~ん(殺さないで)」


 犬のような鳴き声を出す狼。

 そんな、俺は目についたもの全て殺す!みたいな怖い存在じゃないから!


 むしろそっちが襲おうとしてたよ!?

 俺はどうしようか思いながら、モフモフの腹を撫でた。


 んっ、もふっ!!


 無駄な殺生は避けたいけど、これ放っておくと人襲いそうだなあ。

 やっぱり殺すか。

 そう思っていたら後ろの方から人一倍大きい狼が出てきた。


「アナタハ、キュウケツキ、デハナイカ」


 ! 人語をしゃべった、俺は驚いてモフモフから手を放す。


「しゃべれるのか?」

「イシノソツウハ、トレル」

「そうか、ならこれから一切の人間への襲撃を禁止する。破った場合俺が殺しに来るからな」

「ワカッタ」


 まあこれが落としどころだろう。

 狼は吸血鬼と親和性高いっていうし。

 なんか通じるものがあったんだろ。

 そういうことにしておこう。

 決してモフモフに屈したわけではない。

 ホントだぞ!


 森へ帰っていく狼たちを見送る。

 よく見ると俺は街道を大きくはずれたところにいた。

 そりゃ狼も獲物が来たって思うわ。


 この日は夜通し歩いた。

 次の村につくのは朝になったころだった。


 でも全然元気だった。

 何日でも徹夜出来そうだった。

 相当タフネスっぽい。

 夜の俺はまさに最強って感じだ。

 吸血鬼、夜で活躍せずにどこで活躍するというのだ。



 ▲▽▲




 俺は王都へ向けて歩みを続けていた。

 その途中の五つ目の村で、女性がゴブリンに攫われたという話を聞いた。

 俺はそれを聞いて激しい怒りを覚え、すぐさま行動に出た。

 心のヴァンピが人を助けろと叫んでいる。

 俺は後ろで潜伏しているデビアイちゃんに語り掛ける。


「デビアイちゃん、魔力の残滓は?」

「ん~こっちに続いてます」


 アイサーチ、デビアイちゃんのなんでも見通す目だ。

 千里眼のような使い方や、透視のようなこともできる。

 万能だがそれ相応の魔力を消費するので、デビアイちゃんが大きな力を使うことは簡単なことではない。

 今回のような魔力を見ることは軽めの部類だ。


「急ぐよ!」


 俺は人間に偽装したままの格好でその残滓を追っていく。

 共有された視界にはっきりと白い糸のように線が引かれている。


 またゴブリンだよ。

 ゴブリンばっかかよこの世界。

 しかもご丁寧に女性まで襲うおまけつき、典型的な設定だ。


 作品によってはゴブリンは繁殖用に女性を確保したりせず、敵にあったら殺しに行くような純粋な敵意を持っている魔物でもあるのに。

 

 設定に文句を言っても仕方がない。

 そもそもいくら細部まで作りこまれた設定とはいえ、世界観という大きな枠組みは設定に入っていないはずだ。


 この世界が、ヴァンピが生きていたのは紛れもない事実。

 その長い人生を否定出来るほどこの世界は浅くない。

 彼女が彼を作ったのか、彼がから彼女が作れたのか、それを知ることは出来ない。


 あのイラストレーターもよく思い出せばやたらヴァンピにだけ熱かったんだよな。

 俺と同じイラストレーターを使っている配信者と話をしたことがあるけど、ヴァンピほど凝った設定は作られていなかった。


 あの人間、なにものだ?

 人間、か?


 そんな無駄なことに思考を割いていると、ゴブリンのいる拠点が見えてきた。

 俺は洞穴の奥に続いていく白い線を辿っていく。

 外に見張りのゴブリンはいない。

 俺は急いで洞穴の中に駆け込んでいく。


「無事か!?」


 中に入って影が見えると俺は叫んだ。

 俺の目の前には今にも凌辱されそうな女性と、ゴブリンの姿があった。

 俺はバックの中から剣を取り出し、目の前のゴブリンを斬る。

 数体いたゴブリンを一体も残らず剣を使い、切り倒していく。

 爪や牙はもちろん使わない。


 見ている人がいるからね!


 あくまで人間らしい助け方をする。

 これが重要。

 俺は周りに敵がいなくなったことを確認し、震えている女性に手を差し伸べる。


「もう大丈夫だ、我が来た」

「あ……あぁ」


 衣服の乱れた女性にバックから服を出して、掛けてあげる。


「女性の肌は、そうやすやすと見せるものではない」


 震えていた女性はようやく安堵したのか、気絶するように倒れこんだ。

 それをそっと支えてあげて、お姫様だっこするように抱えてあげる。


 俺が女性を抱えたまま村へ戻ると、村の若者が装備を整えて女性の救助に出発しようとしていた。


 大丈夫だよ! もう助かってるから。


 俺は女性を近くの林にそっと置き、誰かに気付かれるように音を出す。


「誰だ!」


 俺の予定通り、敏感になっていた村人が反応してくれる。

 その声に反応して俺は逃げる。

 人との無用な接触は避けないといけない。

 正体がばれるからね。


 だって流れの吸血鬼だから。

 バレちゃ困るでしょ。

 倒れた女性も意識が朦朧としてたし顔も覚えてないっしょ。


 今回は配信モードにならなかったな。デビアイちゃん。

 何の条件があるんだろうか。

 今のところ困ってないけど、投げ銭とかギフトあると嬉しいよな。

 特にギフト! 届くかわかんないけど。


 俺は逃げだしながらそんなことを考えていた。




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