第4話 勇者との会敵

 ゴブリンを殲滅し、一息入れていた俺は、バックに何か入るような感覚があることに気づく。

 実はこのバック、中が空間拡張されており見た目よりたくさんの物が入る。

 便利だね! でもこれお高いんでしょう、多分。

 こういうのは希少品だと相場が決まっている。

 

「増えたのは……これか? えーっと銀貨……? こっちのお金か、なんで増えて……あ、投げ銭!」


 こっちの配信で貰った投げ銭がそのままこっちに入るシステムになってるのか?

 それならアミゾンギフトも届くかも。

 よしっ、配信も無駄にならない。

 でもいつ配信が開始されるか分かんないんだよなあ。


 デビアイちゃんに聞いても分かんないっていうし。

 意識はあるけど、ぼっーっとするって言ってた。


 イベント時に自動的に発生する感じか?


 俺の定期配信は夜から朝方までの配信がほとんどだ。

 長時間配信をして寝落ちしてしまうリスナー達から広告収入を得る見事な作戦だ。

 体が夜型になって、昼間の日の光が眩しくてしょうがなかったな。


 いいんだよ配信のことは。


 これからどうしよう。


 恐らく目的である魔物の退治は終わったけど、今後の予定が未定だ。

 とりあえず、村に戻って魔物は倒されてましたよーって言うしかない。

 倒したのは人間の俺じゃなくヴァンピだ。

 後から確認に来た人たちにこの大人数をどうやって……と疑われかねない。


 目立っちゃダメなのよ。


「普段は人間に偽装して王都で冒険者をやっているからな」


 剣術も普通、魔法も普通、どこにでもいる只の冒険者、それがヴァンピだ。

 冷静でいるうちはその設定を守っていこう。


 確かに情報が集まるのは王都だろう。

 いくら流れの吸血鬼だとはいえ、情報がなければ助けることも出来ないからな。


 俺がうんうんと考えながら休憩しているとガサガサと音が近づいてきた。

 誰だ! まずい!!

 俺は佇まいを優雅にして、出てくる相手を迎える。


「この辺に魔物がいる痕跡が…!! 吸血鬼! 何をしている!」


 頭に兜をかぶり、グリーンの軽鎧に身を包んだ勇者っぽいやつが、俺を見て叫んだ。

 あんなコテコテの勇者みたいな恰好の奴本当にいるのかよ。

 いるわあ……。あれって勇者か?

 俺はファーストコンタクトを間違えないように、丁寧にあいさつをした。


「おや、脆弱な人間風情が、何用かな、我はたった今食事を終えてティータイムとしゃれこもうかと思っていたのだが」

「俺達は街の人達から魔物の被害を聞いて探しに来たんだ」


 残念!それもう俺が倒しちゃったんだよね。

 来るのが遅いよ全く。君がさっさときてくれてれば俺はこんなところにこなくてよかったのに。

 てか今ここで勇者っぽいやつと敵対するのまずくね。

 俺は安全であることをアピールした。


「その魔物とやらはどこにいるのか?」

「今目の前にいるじゃないか!」

「我を魔物と……ククク、虚仮にされたものだ」


 魔物じゃないですよー。

 皆と仲良くしたい吸血鬼でーす

 敵意はありませんよー。


「ここで、お前を倒す」

「何故? 我とお前が戦う理由などあるまい、やめておけ」


 そうだよ、危ないことやめよ、ね


「ユウトさん、やめましょう、今は街に戻って魔物がいなくなったことを報告しなくては、ほら、吸血鬼の足元に干からびたゴブリン、街の被害を聞くに畑を荒らされたり、家畜を襲ってきたとか、吸血鬼がとる行動ではありません」


「セイリンさん……君の聖魔法ならどうにかなるんじゃないか?」

「いえ、まだまだ私は未熟、それにここは日の入らない森の中、不利です」

「くっ、覚えておけよ、次に会った時は必ず倒す」


「ふん、聞くに堪えんな」


 やめてー殺さないでー。

 てか聖魔法とかまじ弱点ついてくるじゃん。

 ヴァンピの弱点は聖魔法と銀だから、銀のナイフとかでも致命傷になるのでご飯食べるときは気を付けないといけない。


 聖魔法も普通に効いちゃうよそれ。

 二人とも、早く帰って帰って。


 俺は捨て台詞を吐いて帰っていく勇者達を見送ると、足早にその場を去った。


 この村はだめだ、遠くへ行こう。


 そうだ、王都へ行こう。

 勇者は多分辺境の街とか、魔王を倒すための旅に出ているだろうから、逆に王都の方が安全じゃね?


 そうだ、王都へ行こう。(二度目)

 そうしよう。

 とりあえず遠くの村にいこう。

 あの村はだめだ。勇者がいるし、ここに戻ってくるかもしれない。


 でも依頼の証印貰わないと。

 俺は急いで人間に変装すると、去っていく勇者にバレないように、迂回して追い越す。 

 そして勇者より先に依頼者に報告する。


「我が到着したときにはすでに魔物たちはこと切れていた。己が幸運に感謝するといい」


 これで依頼達成、やったね!


 そこから勇者が来る前に急いで村を出て、近くの森に入り身を潜めた。

 そして日が落ち夕方から夜になる辺りで、空を飛び移動を開始する。


 空を飛んでは降りて、飛んでは降りてを繰り返した。

 長時間飛べないんだよな何気に、それでも十分くらいは飛べるから充分だと思うけど。

 飛びながら周囲を見渡し、人里を探す。

 お、あっちにいい村があるな。

 ちょっとお邪魔しよう。



 そこはどこにでもありそうなのどかな村だった。

 俺はコンコンと手頃な家の戸をノックする。


「はーい、あら、どなたさんですか」

「しがない冒険者さ、今宵は風に導かれてこちらにやってきた、どうか泊めていただけないだろうか」

「あら、冒険者さん、悪いね~うちには余裕がないのよ、あそこ、村長の家だからそっちいってくれない?」

「感謝する、麗しき淑女よ」


 俺は何も考えず村長の家に向かった。

 一々反応しててもキリがない。

 こういうものだと、早めに割り切らなければならない。


 村の中では少し大きめの家である村長の家の前までくる。

 同様に戸をノックして同じようなセリフで村長に頼み込む。


 村長は俺を快く受けてくれた。

 ありがとう村長。


 この世界いい人多いな。

 なんかどうにかなりそうな気がしてきた。


 そんなことを考えながら、ベットに入り眠りについた。

 明日起きたら現実に戻ってないかなあ。





 ダメでした。

 朝、目が覚めると俺の目の前にデビアイちゃん。


「うわっ!」

「ご主人様~おはようございます」

「デビアイちゃん、驚くから起きるときは目の前にいないでね」

「いつもこうやっておこしてたのに~?」


 中々図太いなヴァンピ。

 これくらい普通なのか?

 俺の感性が間違っているのか?


 もやもやしながら服を着て、身だしなみを整えて村長の家を出る。


「昨晩は世話になった、貴方のこれからに幸あらん事を」


 キザとかじゃなくて、天然でこれなのか、ヴァンピ。

 可哀そうに、まともな友人作れないんじゃないかこれじゃあ。

 でも会う人会う人好意的だし、意外と馴染んでるのかも。


 俺は嬉しそうにする村長を見ながら、この世界ってちょろいなあって思った。

 これで好印象なんだ。ヴァンピって人気者か?


「ああ、村長よ、実は我は今行き先を見失っていてな、王都を目指しているのだがどこにあるかご存じか?」


 俺は村長に王都の位置について確認をとる。

 王都とはこの国の首都。国の名前は、え~と、記憶から探すの面倒くさい!

 とにかくこの村から徒歩だと一か月は掛かるらしい。

 あくまで人間の足の場合だ。


「誠に感謝する。それでは、また会うこともあるだろう。それまでその体、大事にすることだな」


 俺は割りと普通にいいこと言ってその場を去った。

 王都遠いな……、ダッシュしたらもっと早く着きそう。

 でもそれって不自然なんだよなあ。

 あくまで俺は只の冒険者ヴァンピ、常識の範囲内で行動しなければ。

 これは結構が時間かかりそうだ。


「ご主人様~これからどうするの」

「とりあえず王都に向かって、依頼の報告かな」


 俺はデビアイちゃんと共に王都に向かって歩き始めた。

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