乙女とランチ
玄関のサンダルを引っ掛け、扉を押し開けると。「よっ。待たせたな」
と言った友人の姿を見て、俺は固まった。
「あぁ、作業するって聞いて。ハーフアップにしたの」
スウェット生地の、
「うん。色はカーキにして正解だったわ」
自分で納得したように
胸元のポケットに刺繍された、スポーツメーカーのロゴが目に留まった。
「いやー、公式サイトで一目惚れしてさ。届いてみたら、フレンチスリーブがぴったりで」
サコッシュを掛ける肩に手を添え、満面の笑みを浮かべて見せた。
(あ、ここにもはしゃいでる人が・・・)
どうりで別れ際、「楽しみにしといて!」なんて張り切っていた訳だ。
「忠告した」
「わかってるって。こう見えて、ユニセックスだからさ。メンズ服と気持ち変わりないっていうか・・・普段使いできるし。動けるように、下も履いて」
「そうじゃない」
「お前が
「うん・・・」
「アウトドア用品つっても、ブランドだし・・・。その、気に入ってんなら尚更、物持たす訳にはいかないだろ。ってお前、まさか―」
「んー?それより、オレを見てもらいたい人がいるんだけど」
俺の
「こんにちは・・・」
「わっ、こんにちは」
「会いたかったよ、ミカ」
「きゃ〜!ひまちゃん、きょうもかわいいねぇ」
俺が帰宅したときの反応とは、段違いである。
「ほんと?ありがと〜!」
そう言って
「・・・上がって」
「はいはい。おっ邪魔しまーす」
◆◆◆
杉本家の勝手を知る友人は、洗面所を使い終えたようで。
キッチンへと顔を出し、料理を続ける母に挨拶をした。
「お邪魔してます。お久しぶりです、キョウコさん」
「いらっしゃい、ひまちゃん。って益々美人になったわね?あぁ、お昼にするから、一緒にどうぞ」
調理台には、3つのガラスボウルとお
湯気を立てる鍋に、菜箸を回し入れている。
「やった、ママさんの手料理!喜んで食べます」
今日は、食事の時間が家族と重なったが。普段は、学校や会社といった生活の都合もあり、杉本家の昼食は、各自で取るスタイルである。
ここで、タイマーが麺の茹で上がりを知らせる。
「ワタシにできることは」
「そうね。ひまちゃんが使う物を出して。冷蔵庫に、水出しの麦茶も冷えてるから」
「はーい」
家の食器棚どころか、至る所には
「あと、ふたりで
「わかった」
母の言うおしごととは、
俺は、水道の前で踏み台に立った
「どうぞ」
「よくできました。物を大事に使って、えらいね」
そんな様子を気に留めていたのか、母がスープを
「焦れったいところも見守っててくれて、助かるわ」
「いえ。キョウコさんに頼られるの、嬉しいですよ」
「・・・よーし!みんなと力を合わせて、今日も乗り切るぞ」
気合いを受け取ったように
(あいつの調子の良さは、変わらずだな)
友人は、言われて嬉しい言葉を
まるで、甘い言葉を
「チカ」
よからぬ考えを、見透かされたように―。
「俺には言えないこと、言えるの。凄いと思ってる」
「わーい褒められた」
「言わせた、の間違いだろ」
しかし友人は、何のこと?と、しらを切るのであった。
◆◆◆
いい感じにお腹も満たされ、食事の
『依然として捜索が続きますが、改めて経緯を―』
ニュースキャスターの声が、ダイニングに通り渡る。
リモコンを手にした母が、テレビを付けたようだ。
”おみの しゅんえいくんを探しています”
L字型に縁取られた画面には。男の子の体格や服装といった特徴や、警察署の電話番号が表示されていた。
何より、入学式の立て看板と並び、スーツ姿で撮られた写真に。運動会で、競技に参加しているホームビデオなどは、繰り返し目にするが。
いまマスコミが注目を寄せるのは、通称―。
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