第2章—オネガイ—

置き配(編集中)

 俺は、小ぶりなダンボール箱を2つ、抱えることにして。一稀ひまれには、紙袋を両手に提げてもらうと。

「行って来まーす」

 二人連なって、玄関ポーチに出る。


 駅近くにあるアパートまでは、徒歩30分ほどの道程みちのりだ。


 姉は今日、大学で前期試験を受けているとのことで、留守にしており。合鍵を母から預かってきた。

 あらかじめ、姉とは夕方には落ち合う約束をしていたのだが。週末ということもあり、母の思い付きで「勉強の息抜きに」と、姉も夕食に誘うことになった。おつかいには、次いでの頼み事が付き物なのである。



 閑静な住宅街を歩いていると。たまにすれ違う人が、こちらに珍しそうな視線を向ける。

 車社会が発達した現代で。わざわざ大荷物を持ち運んでいるのは・・・きっと、俺らだけだろう。

 はたから見たら、不便な状況なのかもしれないが。アスファルトを1歩ずつ踏み締める度、自分の体力を頼りにしていることに気付かされる。

 軽い運動なら、体育の授業以外でも、生活の合間に取り入れているからか。こうした些細ささいな場面にも、日頃の積み重ねが身になっていることを実感する。

(少しは、誰かの"力"になれるかな・・・)



 いまは、午後の2時を過ぎた頃か。太陽が、容赦なく肌を照り付ける。

 俺は、家を出るときにかぶってきたキャップ越しに、快晴を仰ぐ。

 これから夏休みだというのに、いつから夏の本番を迎えていたのだろう。

 何を話すともなく、隣を歩き。そろそろ折り返しという所で、一稀ひまれを上げた。

「チカっ。休憩、しよっ」

 知らぬ間に、息を切らしているではないか。

「そうだな・・・あ。そこまで、頑張れるか?」

 両手をふさいでいるため、顎をしゃくってみせる。

 道をれた先には。ステンレス製の、防護柵が立っていた。その上に乗せられた小鳥が、ギラギラと白光りを放ち⸺そこが、公園の入り口であることを告げていた。



 ◆◆◆



「ふはーっ、生き返るぅ」

 一稀ひまれは、木陰にあるベンチに腰掛け。ぐいっと傾けたペットボトルを膝に置いた。

 俺は立ったまま、ショルダーバッグに忍ばせていたスポーツタオルも手渡す。

「サンキュ」

 続いて、自分の喉も潤す。

「用意周到だなんて、さすがチカ。涼しい顔してんのは、腹立つけど」

「いや十分暑いが?それに。暑さに慣れるには、適度に汗を流す必要があるらしいからな」

 ひと息ついたのか、一稀ひまれは落ち着いた様子で座っている。

 その佇まいに、どこか大人びたような気がして—。

 すると、何?というような表情で俺を見上げた。

「疲れてそうなわりには、そこまでバテてないよな。何かやってたりするのか」

「あー。ヨガをちょっと・・・でも、心を整えるとかだし」

「まじで?俺さ、筋トレ始めた時。とにかく回数をこなそうとか無茶してたんだけど。こう、全身に気を付けてから、鍛えてる感じを掴めたというか・・・。それと同じって言えるか分かんないけど、向き合えるの凄いな」

 感心して言ったのだが、一稀ひまれは気が抜けたように笑った。

「あ、悪い」

「全然。そんなだから、チカって」


 ザァっと一面に、生温い風が吹き抜け─紙袋が倒れた。ベンチの脚に立て掛けていたのだ。

「やば」

 雑草の上に転がったぬいぐるみたちを拾い集める。どれもゲームセンターやカプセルトイの戦利品だ。

「見てこれ。ぶさかわ」

「何の生き物だよ」

「あ~。ニカちゃんってカートゥーン好きだったね」

「・・・英語のアニメのことか?」

「そんな感じ。なぁ、そっちも気になるんですけど」

 一稀が指差すのは、両開きになっているダンボール箱だ。

 しゃがみ込んで中を覗くと。こまごまとしたフィギュアやミニチュア雑貨が敷き詰められている。

 姉の趣味については、一稀のが詳しいだろうと思っていると。唯一、親近感のあるアイテムを捉えた。

「これ・・・」


 握り締めたのは、おもちゃの変身ステッキである。

 先端には、王冠栓を模った装飾が施され。その中心に、アクリルストーンが嵌め込まれている。翠色から紫色へと混ざり合う模様は、独特な存在感を纏っており─。

 手の平サイズとはいえ、よく再現されている。

「あー!昔、チカん家で観てたやつじゃん。えっと」

「マジカル☆ラビリンス」

 すかさず、特撮ドラマのタイトルを挙げる。

「それ。なぜか幼稚園でウチらしか知らなくてさ」

「あぁ。周りは、何とかヒーローの持ち物使ってるから。用品店で探しても、見当たらなくて」

 世代を超えた作品なのか。あるのは、録画していたビデオくらいだろう。

「へぇ。チカにも子どもらしいとこあったんだ」

「まぁな。幼心に影響を受けたからな・・・ってお前も一緒にいたろ」

「まぁね」

 あの頃の面影が残る、いたずらな笑顔を見せた。

 釣られて、当時真似ていた、懐かしい呪文を唱える。


「こう、Shoot the moon!つって」


 瞬間、一段と強い陽射しに、視界を遮った。

 瞼の裏にも眩さが伝わり。そのまま白い光に飲まれ─

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