第11話

 ヘラとラミアが激しくぶつかり合う。

 氷魔法を駆使しながら異能によって強化された己が肉体で近距離戦を挑むヘラに対して『鬼神』という発動している間は魔法の使用が出来なくなる代わりに抜群の身体能力を手に出来る異能を駆使してゴリラ戦法を取るラミアの戦いは激しい肉弾戦での争いとなっていた。


「……ッ!」

 

 ヘラは決して弱くはない。

 しかし、相手が悪かった。

 熟練された格闘技術に圧倒的な身体スペックを駆使するラミアはこの世界でも五番手に入るほどに強く、また、ヘラは年齢面でもかなりのハンデを背負っていた。

 未だ11歳でしかないヘラが7つ上であり、既に肉体も成長しきってきているラミアを相手にするのがそもそもとして不可能なのである。


「にぶれぇ!」


 氷魔法によって吹雪を起こし、ラミアの動きを少しでも鈍らせようと動くヘラであるが、この程度の吹雪で止まるほどラミアは簡単な相手ではない。


「無駄」

 

 吹雪など歯牙にもかけないラミアが容赦なくヘラとの距離を詰めて拳を振るう。


「……ッ」

 

 ラミアの手に握られる氷剣はいともたやすくヘラの拳に破壊され、そのままヘラは素手での対処を強制される。

 

「……うっ」

 

 ガチモードとなったラミアに一切の隙も手加減も存在しない。

 ただただ淡々とラミアの拳を前にヘラは自身の態勢を崩され、追い詰められていく。

 そして───。


「……がはッ!?」

 

 とうとう必死に自分の身をガードしていた己の両腕をラミアによって弾き飛ばされたヘラはそのまま隙だらけとなった己の腹へと手痛い蹴りを受ける。


「……げほっ、カハッ……おぇ」

 

 たった一発。

 異能によって強化されたラミアの蹴りにヘラはたったの一発で戦闘不能となる。

 あばらが幾つも折れ、内臓や心臓にもダメージが行く。

 

「……私も別にむやみに人を殺したいわけじゃない。ここで諦めて、去れ。今なら見逃してやる」

 

 口から血を吐いて地面を転がるヘラを見下ろしながらラミアが口を開く。


「誰が逃げるかッ!アルスがここで死ぬなら私も死ぬッ!!!」


 だが、それに対してヘラは気丈に返し、未だ消えぬ闘志を宿した


「なら、死ね」

 

 地を蹴り、完全にヘラの命を絶つべく手刀を作るラミア。


「……私が……アルスをッ!!!」


 そんなヘラミアに対してヘラはありったけの魔力を拳に込めて相打ち覚悟でカウンターを狙う。

 一切の油断なく本気で殺しに行くラミアと相打ち覚悟で己が全力を持って迎え撃つヘラがぶつかる───


「……何のつもりだ?」


 ───それよりも早くに、



「己が婚約を守った、ただそれだけ」

 


 僕が二人の間に割り込んで両者の激突を止める。


「……理解しているのが?己が行動の意味を」


「ほざけ、女。どんな事情があったとしても、己が婚約者の愛と覚悟を前にして何もしないなんて男として失格だろうがァ!」


 ヘラを抱きかかえるような態勢でラミアの手刀を掴んだ僕はそのまま己の握力で握りつぶしながら声を張り上げるのだった。

 

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