第6話

「……何言っているの?」

 

 僕はいきなり子供を作ろうと告げる暗部統領に対して疑問の声を上げる。


「……な、何度も言わせるな。私はそろそろ子どもを作らなければならないのだ。こ、子供を作る相手なんて……お前以外嫌だ。私の処女を捧げるのも、私の子供の血を分かつのもお前が良い。お前でないなんて考えられない」


「何故、今?」

 

 自身の表情を不機嫌とする色に染め上げる僕は再び疑問の声を上げる。


「……僕が何をしようとしているのか、わからないの?」


「わ、分かっているからこそだ……わかっているから、こそなのだ!私は今!お前との子供を作りたい!お前以外を受け入れたくはないのだ!」


「……僕は死なないよ」

 

 少し前にも言われた暗部統領の言葉を思い出しながら僕は言葉を返す。

 

「で、でも……」


「別にお前だって魔導の天廻が僕を殺すだけの戦力を有していないのは知っているよね?」


「……あぁ」

 

 これは侮りでも慢心でもなくただの事実である。

 今や世界を恐怖のどん底に陥れた最盛期の魔王を遥かに上回り、何もさせずにフルボッコに出来る。


『……さ、最盛期の私だったら流石に土くらいは』


 逆に言うと当の本人だってそれほどの実力差があると認めざるを得ない実力なのだ。


『魔法が私の異能で利かないわ、身体能力ゴリラで戦闘技術バグっているわ、学習能力もカンスト。なおかつ最強の矛である黒炎もある。これで弱かったらバグでしょ』


 そうである。

 僕は本当にバグみたいに強いのだ。


「この地上に僕を害せる者など存在しない」

 

 ヘラやローズ嬢、暗部統領を害することは可能であり、それに対しての対抗策は常に用意しておかなければならないが、僕個人に対してはその類ではない。

 本当にいないのだ。

 それほどまでに強い。まごうことなき最強なのだ。


「……それでも、それでもなんだよ。私は、お前が……心配なんだ」


「何度言われればわかる?余は死なぬ。余計な心配は不要である」

 

 僕は幾度も食い下がってくる暗部統領へと明確な拒絶を示す。


「……ッ」


 はっきりとした拒絶を見せられた暗部統領は身を震わせて固まる。


「子作りがどうのについては後である。余は余の為すべきことを為す」

 

 自分へと中途半端に伸ばされた暗部統領の手を取ることはせずそのまま彼女に背を向ける。


「またな、カグラ」


「……ッ!ア、ルスぅ……」

 

 あの社交界で僕が王家に喧嘩を売らず、未だに暗部統領の親が生きており、まだ代替わりしていなかった頃。

 暗部統領が己の名を捨てていなかったころ、僕と暗部統領がまだ一緒に様々な暗躍を行っていた幼子の頃のように暗部統領のかつての名であるカグラの名を告げた僕は今度こそここを後にするのだった。

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