第5話

 魔導の天廻の拠点をすべて回るのは流石に非効率が過ぎる。

 僕は少しでも情報を求めるためにいつもの如く暗部統領の元にやってきていた。


「ということで情報くれない?」

 

 狭い部屋の中で胡坐をかいている暗部統領の足を枕にして地面に寝っ転がる僕は自分の目の前にいる暗部統領へと口を開く。


「……情報、と言われてもなぁ」

 

 口臭を気にしているのか上を見上げる僕から少しだけ視線を外している暗部統領が困惑の言葉を口にする。


「私たちだってそんな知っていることが多いわけじゃない。というよりお前が勝手に作っている


「お前の異能頼りだよ」


「……私の異能も不完全だ。異能のベクトルを完全にこの国にへと向けることでようやくこの国に迫る不吉な未来を予言する程度の力しかない」

 

 魔導の天廻の未来視を行う魔道具と同じような能力の異能を有している。

 能力しては魔道具よりも劣化したようなものとなっているが、これに関しては暗部統領の一族がおかしいのではなく魔導帝国の技術力がバグなのだ。

 未来視とか普通は出来るようなものじゃない。


「私は一族の中でもかなり異能の力が強い方だからまだ自分が強く興味を覚えているものへのなんとなくの不吉の未来くらいは感じられるかな?程度の力はあるけどそれ以上は……」


「魔導の天廻は我が国の敵ではないと?」

 

 僕は暗部統領の言葉に首をかしげる。

 既に侯爵家の娘二人が倒され、僕は喧嘩を吹っ掛けれられた。

 これでなお我が国への一切の敵意がないと言えるのだろうか?


「敵意はないわ。彼らの仮想敵国は私たちの国じゃなくて貴方個人のように思うわ……何をしたの?」


「……えぇ?わからないんだけど」

 

 僕は暗部統領の言葉に首をかしげる。

 彼女が断言するのだと言うならそうなんだろうけど……だとしたらマジで謎である。一体僕が何をしたというのか。

 別に魔導の天廻に喧嘩を売るような行為はしていないぞ?


「まぁ、良いや。それじゃあ仕方ないから一つずつしらみつぶしにするわ」


 僕は暗部統領の足から頭を上げて立ち上がる。


「んじゃあねぇ、また来るよ」


「……うん」


 僕はいつも通りここから立ち去るべく歩みを始める。


「あぁ、そうだ。アルス、私とセッ〇スして頂戴。子供作りましょ?」


「……は?」

 

 そんな時だった。

 自分のすぐ後ろにいる暗部統領の口から驚愕と言う他ない言葉をいきなり向けられたのは。

 あまりにも脈絡のない言葉に僕は足を止めて、ゆっくりと彼女の方に視線を向ける。


「何よ。今更童貞のように戸惑わなくても良いじゃない。私の処女散らして子供をこさえるくらいなんてことないでしょう?」


 そんな僕に対して暗部統領はまるで驚かれるのが心外だと言わんばかりの表情で口を開くのだった。

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