第4話

「……はぁー」


 ヘラとローズ嬢を治すための手がかりを求めて精力的に動き続けていた僕の努力を嘲笑うかのように生徒会室のテーブルの上に置かれていた一つの封筒。

 生徒会室に置きっぱなしだった機材を取るために生徒会室にやってきた際に見つけた魔導の天廻からの手紙を一読し、深々とため息をつく。


「……舐め腐りやがって」

 

 手紙に書かれていた内容はたった一言。


『ヘラとローズの倒れる理由を知っているぞ、疫病神』

 

 ただこれだけである。


「どこにいるのかくらい連絡しておけよ……魔導の天廻の拠点が多すぎてどこに行けば良いのかわからないじゃないか」

 

 一つの魔導具を取り出し、それを起動する。

 それによって表示されるのは世界地図であり、その地図には今のところ把握している魔導の天廻の拠点の位置が記されていた。


「……」


 行くしかないだろう。

 僕はゆっくりと立ち上がって扉の方へと足を進める。


「……待ち、なさい」

 

 だがしかし。

 そんな僕は弱々しいヘラの言葉が耳へと入り、足を止めて慌てて振り返る。


「……ッ!?」

 

「……どこに、行く、つもりなの……?」

 

 ゆっくりと体を起こすヘラ。

 彼女は辛そうに表情を歪めながらも、それでも確かに強い眼光で僕をまっすぐに見つめてくる。


「起きたの?ヘラ。大丈夫?」

 

 僕はヘラのもとに駆け寄り、思わず素で言葉を返す。


「……そんなこと、どうでもいいわ。問題は、貴方よ……ッ!」


「そんなわけないだろう。君はここ一週間ずっと寝たきりだったんだから。君のほうが大事だよ」

 

「……どこに行くつもり、なの?」


「心配する必要はないよ。サクッと解決してくるだけだから」


「待ちなさい。もう少しで体調が整うから……貴方一人に背負わせたりはしないわ」


「君の異能については僕だって把握しているけど、それでも病み上がりの君が無理することはないよ」

  

 僕は体を起こしていヘラの熱っぽい体へと触れ、そのままベッドにまで倒す。


「ここで眠っていてよ、ちゃんと解決してあげるから。ふふっ。任せて、僕は最強だから」


 僕は魔力でもってヘラの精神へと干渉し、徐々に彼女の意識を闇の底へと沈めていく。

 汎用魔法による精神干渉ではなく、ただの魔力を使った強引かつ不完全なものではあるが、それでも今のヘラであれば問題なく意識を奪ってくれるだろう。


「必ず君を守るよ」


「……待ち、なさいッ。わ、わたぁしは……貴方に守られるほ……ど、」

 

 ヘラは抗うことの出来ない眠りに誘われ、ゆっくりとその意識を闇へと閉ざしていき、そのままベッドへと体を倒す。


「よしっと」


 僕はもう二度と、ヘラの方に振り返ることはなく、病室を後にするのだった。

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