第2話
「原因不明?」
病室変わって今。
お姉ちゃんの眠る病室からヘラの眠る病室へと移ってきた僕は医者の口から出てきた言葉に首をかしげる。
「あぁ、そうだ。どんなに調べてもヘラ様が倒れた原因がわからなかった。俺では、お手上げかもしれない」
医者は僕の言葉に頷き、心底悔しそうな声を滲ませる。
侯爵家の人間である僕に対して普通にため口を使ってくる不敬な男ではあるが、その腕は本物。
彼がお手上げなのだしたら……この国の医者は全員お手上げだろう。
「……」
僕は医者の言葉に対して沈黙し、ヘラの方に視線を送る。
彼女から感じるのは何か、ズレちゃいけないものがズレてしまっているようなゾッとする何か。
汎用魔法は使えないが、魔力を感知する能力には優れていると思っている僕であっても彼女の身に何かが起こっていることはわかるが、具体的に何が起きているのかを掴めない。
『……何かわかる?サクラ』
僕は魔王として長き時を生きてきたサクラにも意見を尋ねる。
『……どう、だろうか?わかりそうな気もするけど……ごめん、それでもわからないかな。確か数百年前に見たよくわからない服装によくわからない言語を喋っていた男の雰囲気に似ているような、気もするがぁ……だが、うぅん。わからないな。何が起きているんだ?これは……世界から拒絶、されている?いや、違う……もっと何か、別が?いや……この、うーん』
ヘラの様態は魔王の知恵と経験を持ってしても理解出来ない類のものであるらしい……これは、本気で……。
「……」
僕はその場で黙り込み、ただただヘラの方へと視線を送り続ける。
『……』
「……俺は、この辺で失礼するな」
「うむ。大儀であった」
僕は病室から出ていく医者へと視線はヘラの方に固定したまま労いの言葉を投げかける。
「……あまり、自分を追い詰めぬようにな」
「……」
部屋に一人残された僕は静かに足を組み、自身の指の爪を噛む……今の僕は何もするつもりのなかったあの日の僕とは違う。
常に己を守っていた概念が目の前で崩れ去ったあの日。
ゲーム感覚が残っていたがゆえに数多を失ったあの日。
僕はこの世界で生き抜くと心に決め、これまで様々なものを積み上げてきたのだ。このようなところで屈するつもりはない。
自分の周りにいる人間は誰も殺すつもりはない。
「……」
自己を信じよ。
僕は人類の最高傑作であった科学者のお姉ちゃんの弟であり、天才児なのだ。
「余は認めぬぞ?ヘラよ……汝はこのようなつまらぬところで死ぬ玉ではないわ」
いつも喧しかったヘラ。
そんないつもの彼女とは打って変わって何も言わないヘラに対して僕は小さく呟くのだった。
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