第1話
『アルスってばお姉ちゃん居たのね』
『まぁ、僕が本当に小さかった頃、魔物に襲われて以来ずっと寝たきりではあるけど。それでも仲は良好だったと思うよ?忙しくて基本的に関わることのなかった両親の代わりに僕と一緒にいてくれたのだし』
僕の両親は良識ある良き大人であるが、余裕で一年間顔を合わせないこともよくあることを考えると良き親とは言い難いだろう。
そんな今世の僕にとって十歳ほど年上である姉、ナナミ・ラインハルトは己にとって唯一の家族とも言うべき関係性であった。
『えっ!?そ、それは大丈夫だったの?』
『普通に僕が異能に覚醒して追っ払ったよ』
お姉ちゃんを半殺しにした魔物はようやく異能に覚醒した僕の手によってあっさりと殺された。
すべてを灰燼に帰す僕の異能を前にすれば魔物など敵ではない。
『おおー!愛するお姉ちゃんが殺されたことに怒った君が異能に覚醒したんだね!いやぁ……君にも人の心があったんだね!まさか君の過去にそんな感動的な話があったとはちょっと意外だったよ』
『……ん、まぁ、そんなところかな?というかサクラの言葉もまぁまぁ残酷だよ?』
細部はだいぶ……というか結構違ったけど一応自分の姉がやられたことを起点として異能には覚醒したので間違いではないかな?
そんな美談になるような話ではなかったけど。
「……まぁ、あの時の僕は若かったからねぇ」
あの時も、前世も、僕はどうしようもないほどに甘ちゃんだったのだ。
「……お姉ちゃん」
僕は自分の前に置かれているベッドに眠っているお姉ちゃんへと視線を下ろす。
彼女は未だに異能の扱いが未熟だった僕の施した荒治療によってただ時が燃やされて当時の姿のままを保ってベッドに眠っている。
「……あと三か月ほどか」
人の傷だけを治すという細かなことが出来なかった当時の僕はお姉ちゃんに投げれている時を燃やす尽くすことで無理やり彼女に流れる時を止めて、当時の状態を維持しているのだ。
そのおかげで生きているお姉ちゃんが再び目覚めるまでおよそ三か月と言ったところだろうか?
お姉ちゃんの時が問題なく刻めるよう一度は時を燃やし尽くしたという事実を再び燃やし尽くすことで彼女の時を正常に戻す試みは今のところうまく行っている。
時間はかかってしまったが、あと三か月もあれば治すだろう。
ほぼ全自動化しているのでこのまま僕が死んでしまってもお姉ちゃんは問題なく治るだろう。
「おっと、アルスくん。ここにいたのか」
「……うむ。主治医か」
僕は自分がいたお姉ちゃん用の病室に入ってきた医者である男の方へと視線を送る。
彼はずっとお姉ちゃんに問題がないかをチェックしてくれている医者であり、ラインハルト侯爵家と関係の深い医者だ。
「未だに君のその言葉遣いは慣れないなぁ……まぁ、それは良いとして。ヘラ様の診察結果が出たよ」
「聞こうか」
僕は医者の言葉を聞いてお姉ちゃんのほうから視線を外し、本当につい先ほど、僕の前で血を噴き出して倒れたばかりのヘラの診断結果へと耳を傾けるのだった。
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