第22話
暗部統領の住まう世界。
代々特殊な異能を受け継ぐ彼女の一族はレイスト王国のために永遠に小さな世界に囚われ続けている。
「久方ぶりであるな」
小さな部屋が二つに生活に必要な小さなキッチンとお風呂に寝室しかないこここそが暗部統領の知る世界のすべてなのだ。
「……何度言えばわかるのだ?ここは貴様のような男が簡単に来れるような場ではない。今宵は何の用であるか?」
そんな暗部統領の世界に足を踏み入れた僕に対して彼女は忌々しそうに眉を顰めて毒を吐く。
「そう。邪険にするでないわ。別に余は喧嘩を売りにきたわけではない」
「……何くれるの?」
僕の言葉を聞いた暗部統領はこちらの方へと視線を向け、手を伸ばしてくる。
基本的に僕と暗部統領はいがみ合う仲であり、喧嘩にならぬ話題と言えば彼我の仲では僕が詫びの品を渡す時しかない。
故に暗部統領が僕の用を察するのも爆速であった。
「オルゴールだ。好きであろう?」
差し出された手の平へとオルゴールを乗せ、僕は小さく笑みを浮かべる。
「……感謝する」
僕の渡したオルゴールを素早く自分の膝の上へと置いた暗部統領は次に僕の手の中に握られているパンパンに膨れている袋の方に視線を向ける。
「相変わらず寂しい場なことだ」
そんな視線を無視して僕は別の話題について口にする。
「……うるさいわ。それで?他に用はないの?」
「そう急かすではないわ。食料品もある」
僕は酒や肉など多くの高級品が入っている袋も暗部統領の前に置く。
「……ッ」
中を確認した暗部統領は誰が見てもわかるほどの喜色の笑みを漏らす。
「それほどに喜ばれたようであれば良かった」
「……べ、別に貴様の施しに感謝などしていない!それで?これは?」
「此度は迷惑をかけた。その詫びだ」
「良い心がけだ。それを永遠に持っていると良い」
「言われずとも余ほど仁義に優れた人格などおらぬわ」
「そんなわけないじゃない。現実を見なさいよ。貴方のように女をとっかえひっかえている貴様が人格者なわけないだろう」
「英雄は色を好むというだろう?」
「貴様のような自分勝手な英雄がいてたまるか」
「余の功績は英雄の其れであろう」
「ちっ」
僕と暗部統領は適度な距離感で互いに罵り合う。
「さて、そろそろ帰るとしよう。あとは勝手に楽しめ」
用を済ませた僕はここから出ていくべく歩を進め始める。
「待て」
「……むっ?」
だが、暗部統領から呼び止められたことで僕は足を止めて彼女の方に視線を向ける。
「少し貴様も飲んでいけ。一人の席もつまらん」
明日は槍でも振るのだろうか?
普段であれば拒絶する僕を暗部統領は何を思ったのか、同じ酒の席に座るよう促すのだった。
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