第14話

「えっ……?」

 

 圧倒的にラミリス側が有利な状況の中。


「……何、が」

 

 困惑の声を上げたのはラミリスの方であった。


「まずは一人」

 

 数多の魔法を受け、まるで気絶したかのように体をゆっくりと倒した僕に向かって迫ってきたラミアの腹へと全力で蹴りをぶち込み、そのまま壁のシミへと変えた僕は足を下げて小さく呟く。


「な、なんで無事、なの?」


「余があの程度で倒れるわけがないだろう?ただの演技に過ぎぬ。ラミアの隙を得るためのな。完全に油断していてくれたおかげで最高威力の蹴りを叩き込めたわ」

 

 そもそもとして基本的に僕はソロで戦うキャラではないのだ。

 黒炎は防御にも使えるが、圧倒的に攻撃でこそ輝く異能である。

 瞬間的に発動することも、連続して発動することも、持続して発動することも出来ないこの異能は単騎で使うのではなく周りの人間に守られる中での固定砲台でこそその真価を発揮するのだ。

 

 そんな状態でソロでの戦闘能力を高め、体術だけですべてを補う僕としては相手を追いかける形での戦闘よりも相手を迎え撃つ形のほうが得意なのだ。

 相手を迎え撃ち、ただ一発に力を込めて拳や足を振る方が相手を一撃で倒すという面でははるかに良い。


「……ッ、どうやってあの魔法の波を」


「余の異能はそも一つにあらず」


「えっ……?」


「ただ一つの異能ですべての魔力が埋まるわけがないだろうが。異能を二つ持つというイレギュラーだからこそ余は汎用魔法を使えないのだ」


「なん、ですって?そ、そんなの天瞳には……」


「王者の器。それが余のもう一つの異能であり、余にはすべての異能も魔法も効かぬと思うが良い」


『私の力じゃん』


 そうである。

 王者の器は僕の異能ではなく魔王の持っていた異能であり、僕がもぐもぐしたことでようやく手にした力である。


『別にいいじゃん。元々僕が持っている異能ってことにしていた方が強そうに見えるし』

 

『それもそうだけどね……それにわ、私はアルスの所有物だしぃ、はぁ……はぁ……はぁ……』


『……あぁ。うん、そだねー』

 

 僕は魔王の発言を軽く流しながらラミリスの方へとゆっくりと近づいていく。


「余を舐めるでない。ただが魔法程度で余を倒せると思ったら大間違いである」


「……ッ!り、理不尽の塊がぁ……ッ!」


 本当そう思う。

 僕もゲームやっててビビったもん。

 魔法と異能無効とかチートにも程がある。

 

「さて、ラミリスよ。これでチェックメイトである。既にここら一帯の調査は済んだ。これよりが本当の余よ」

 

 これまではずっとアジトの探索や構成員からの記憶摘出などで情報を集め、見つけられた限りにおけるその他のアジトの制圧やここのアジトの逃亡路潰しなどに割いていた数多の魔導具を僕は次々と召喚していく。


「……ぁ、あ……あぁ……」

 

 ソロ向きではないという余の弱点。

 そんな中でもソロで最強を目指した余の結論が魔導具であり、これまで積み上げ続けてきた世界最高峰の魔導具たちが百余り。

 

「さて、抗えるか?凡夫よ」

 

 すべての魔導具を展開し終えた僕は堂々たる態度でラミリスに向かってそう言い放った。

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