第12話

 身体能力も格闘技術もラミアより僕のほうが上。

 魔王の肉体を飲み込むことで魔王が持っていたその肉体性能もその技術すらも手にした僕は規格外と言うに相応しい圧倒的な力を持っているのだ。

 今更少し強いだけの小娘に負けることはない。


「……ッ」

 

 ラミアの拳をいともたやすく受け流し、簡単な体重移動でもって相手の姿勢を崩して最後にその腹へと拳を叩き込む。


「ぐ、ぁ」

 

 正面から拳を受けたラミアは体をよろつかせ、僕から慌てて距離を取り出す。

 そんなラミアを追いかけようと僕が体を前のめりにしたところで自分の方に多くの魔法が飛来してくる。

 

「……チッ」


 それらの魔法を黒炎ですべて薙ぎ払っている間にラミアは僕から距離を取り、魔法で自分に向けられたダメージを緩和することに成功していた。

 

「面倒な……」

 

 ただの拳によるタイマンであれば僕がラミアに負ける要素などない。

 しかし、これは何も拳オンリーの戦いでもタイマンでもない。

 牽制のためにばら撒いている黒炎をくぐり抜けて自分の方へと飛び込んでくる魔導の天廻の戦闘員の対処に魔法の対処もしなければいけないのが面倒だった。

 黒炎で消しきれない。


「ヒヒヒ、やっぱり化け物だねぇ。私だけじゃ勝てないや!」


「どれだけ集まろうとも負けぬ」

 

 腕の一振りで自分へと飛びかかってきた魔導の天廻の戦闘員を消し飛ばし、僕のもとから全力で逃亡するラミアを追いかけていく。


「ホイさ!」

 

 僕が彼女を追いかける態勢へと移ったタイミングでラミアは物理学を無視した動きで反転。

 まともに受け身も取れぬ態勢の僕へと蹴りを見せる。


「……ッ!」


「……あ、ありゃ?」

 

 それに対して僕は自分の体を壊しながら強引に動かすことでなんとか突撃してきたラミアの蹴りを捕まえることに成功し、そのまま彼女を地面へと叩きつける。


「ガハッ!?……ぬ、あぁァァアアアア!!!」

 

「……」

 

 足を掴まれていいようにされるラミアは自分で足を切り落とすという荒業で僕のから逃れる。


「はぁ……はぁ……はぁ……本当に規格外。あのタイミングの蹴りを受け止めるのも出し、それから一切私が抜けないのもおかしい……私ってば身体強化系の異能を持っているんだけどなぁ」


「その程度の異能など余の前には無意味」


『私の力だけどね?』


『貴様のものはすべて余のものであろう』


『はぁ……はぁ……はぁ……も、もの、いいぃ!!!』

 

 もし魔族が聞けば木陰で大泣きしてしまいそうなことを宣う魔王のことは無視して逃亡するラミアへと視線を送る。

 自分の体を拘束するべく巻き付いてきた木の枝を黒炎で焼き払いながら。


「さて、と……ここまで足止めをしたわけだけど。お姉ちゃん。どう?」


 片足を失い、滂沱の血を流すラミアはラミリスの方へと視線を送って疑問の声を上げる。


「えぇ、ありがとう。もう準備が出来たわ」


「……チッ」

 

 僕はラミリスとラミアのやり取りを前にして舌打ちを打つ。


「真打ちの登場よ」

 

 どこからか取り出した巨大な杖を持ってラミアの隣に立つラミリスは僕に向かってそう告げるのだった。

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