第9話
僕はいつまで自分の手の平が唾液に濡れているのだろうか?
サンドイッチを食べ終え、ヘラたちと合流した後もしっかりと唾液で湿っている自分の手の平のことに僕は若干を意識をもっていかれていた。
「……本当に、あれがそうなんですか?」
「うむ。そうであるとも……怪しかろう?」
僕はさっきまで昼食を楽しんでいたこの店から見える露店で買い物を楽しむ女性を指差しながら首をかしげるラミリスの言葉に僕は頷き、その耳元まで己の顔を近づけて呟く。
「……そう、ですね」
ラミリスは僕の言葉に頷き、体を少しばかり強張らせる。
「ふっ。良き目だ。おそらくだが、相手にとって今の僕の状態は少々予想外だろう。今日のうちに決める故、しっかりとついてくるのだぞ?」
そんなラミリスの反応を見て安心した僕はゆっくりと彼女から離れる。
「それで?どうするつもりなの?……というか近いわよ」
「……今、近かったな」
「どうするも何も力押しで行くと決めたであろう?」
僕はどこか不満げな二人の言葉に対して素っ気なく返し、自分の手を持ち上げて指を鳴らす。
「こうするのだとも」
迷うことなく僕は自身の異能である黒炎を発動。
躊躇なく女性を燃やしにかかる。
「「「……ッ!?」」」
町中で異能をぶっ放した僕に向けられる信じられないものを見るような目。
「ここにいるのは侯爵家が子供三人であるぞ?何しようとももみ消せるわ」
そんな視線を軽く受け流す僕は容赦なく異能で女性を燃やし続ける。
「……ッ!う、動いた!?」
黒炎に燃やされ、その身が溶かされつつあった女性は胸元から一つの結晶を取り出して起動。
僕の黒炎をその結晶の中に封印する。
そして、黒炎の手から逃れた女性は大慌てで裏路地の方へと入って逃亡を開始する。
「追うぞ?」
僕は自身が隠し持っていた魔道具の数々を展開。
女性が逃げ隠れようとする建物をぶっ壊しながら彼女が追って裏路地へと入っていく。
「こ、これは……もみ消せるの?」
「もみ消すとも」
あまりにも強引に逃げ道を塞ぎながら追いかける僕のあとを表情を引き攣らせながら追いかけてくるヘラに対して僕は断言する。
「これで終わりだ」
建物を全部ぶっ壊して辺り一面を更地にすることで逃げ道を消すという荒業を敢行した僕はいともたやすく逃げ出した女性へと追いつく。
「あ、貴方ッ!?い、いきなり何なんですか!?わ、私がなにをし」
僕の魔道具によってあっさりと捕らえられ、地面へと叩きつけられた女性は僕に向かって口を開く。
「侯爵家だ。凡夫が余らに逆らえるわけなかろう?」
そんな何とか状況を打開しようとする女性の頭を僕は蹴り飛ばして強引に意識を奪う。
「よ、容赦ない……」
「い、一発……」
『……えっぐいわぁ』
「……そんな言う?」
一気に三人からの非難を浴びた僕はぼそりと小さな声で呟く。
「んんっ、これで対象者は捕獲完了である」
ちょっとした不満を覚えた僕だったがすぐに切り替え、口を開く。
「ま、まぁ……そうね。しっかりと成果を得たんだしいい、わよね?」
「いくらでも誤魔化しが利くからこそこんなことしているのだ。そんなに不安と思う必要はない」
僕はどこまでも不安そうなヘラを安心を安心させるように口を開く。
「……って、あれ?ラミリスちゃんは?」
ここでいつの間にかラミリスがいなくなったことに気づいたローズ嬢が首をかしげる。
「ついてこれなかったのかしら?」
「違うだろうよ」
僕はローズ嬢の言葉を否定する。
「何、少しばかり鬼ごっこが長引いただけだ。さぁ、行くぞ?」
完全に気絶している女性を持ち上げ、僕は二人に向かってそう告げるのだった。
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