第8話

「ねぇ、なんでさっきから私以外の女の方にずっと意識を割いているの?おかしくない?私だけじゃやっぱりダメなの?久しぶりに私と二人きりなのに……寂しいなぁ。やっぱりヘラのことが好き、なの?やっぱり一度捨てられた年上なんて嫌だよね……あぁ、でもやっぱり好きだなぁ。うん。好き。少しくらいは見て欲しいなぁ、寂しいよ?ひ、ひひひ。浮気癖なお目目なんて要らない……私はそう思うんだけどアルスくくんはどうお」


「煩わしい」

 

 僕は自分の方に乗り出し、耳元で何かを騒ぐローズ嬢の口元を強引に手で塞ぎ、何か怪しい動きを見せる彼女の手を魔道具で一切動けないように拘束する……今、僕たちは外からも見える飲食店にいるんだぞ?

 一応認識阻害の魔法をかけているとはいえ、そうやすやすと僕の後ろに立って顔を近づけるなよ。


「……ッ!?」


「あれだ。行動パターン的にあの女が怪しい……確実に何かを秘めている」

 

 僕はあえて相手にもわかるよう手で街を歩く一人の女性へと指をさす。


「王都の戸籍に関する情報も、幼少期の情報も一切なかった四名のうちの一人だ。一人は既に詳細が割れている。となると、誘拐犯の実行犯はあの女でも間違いないだろう……ッ!?」

 

 いきなりローズ嬢から手を舐められた僕は慌てた手を引っ込める。


「……その一人とあの女。それでも二人は残っていると思うんだけど?そこらへんは問題ないのかしら?」

 

 決してついさっきこれ以上ない速度で僕の手の平を舐めましたとは思えないような平然とした態度でローズ嬢が口を開く。


「な、なんとなく予想はついている」

 

 僕はそんなローズ嬢に対して顔が引き攣らないように注意をしながら口を開く。


「ふふっ。流石ね。仕事が早いわ。それで?どうするの……?私たちだけでとりあえず女を捕えちゃう?」


「いや、あとだ……別行動しているヘラとラミリスを待つ」

 

 僕はローズ嬢の言葉に首を振り、別行動している二人に連絡するための魔道具を起動する。


「ようやく掴んだ尻尾だ。余の読み通りであれば昨日から明日にかけてまでの三日間で確実に動く。新しい被害者も出したくはない。確実に今日中で決める」


「わかったわ」

 

 ローズ嬢は僕の言葉に頷く。


「じゃあ、私たちは引き続き昼食を楽しみましょうか。せっかくの二人の時間だからね」


 そして、ローズ嬢は僕の後ろから自分の席へと戻って昼食の方へと視線を落とす。


「うむ。そうするとしよう」

 

 僕はローズ嬢の言葉に頷いたところで彼女にべろべろと舐められた手の平に視線を落とす……さ、サンドイッチだな。昼食。

 手で食べるタイプの、当然フォークやナイフなどはなし……え?僕ってばこれで食べるの?

 サンドイッチをこの唾液でべたべたの手で?


「ん?どうしたのかしら?」


「別に何ともないぞ?」 

 

 僕は自分に振られたローズ嬢の言葉に首を振って答える。

 今の僕は傲慢な悪役貴族。

 僕の演じる悪役貴族とはこのような些事を気にする男か?それは否だ。

 

 別に今となっては演じる必要もほとんどないけど、それでもなお今さらキャラ変するのもなんか恥ずかしい。

 というか、悪役貴族状態以外でまともに会話が出来る気もしない。


『あら?もしかして私がアルスが唯一素で接せられる女ってこ』


『図に乗るな。駄犬』


『はぁん!?いい、良いのぉ……もっと罵ってぇ』


 僕は自分の頭の中で何かを宣う魔王を無視してサンドイッチを唾液に濡れる己の手でつかみ、それを口に運ぶ。


「うむ、うまいな」

 

 僕は何とも言えない感情を抱きながらサンドイッチを口にし、ヘラたちが来るのを待つのだった……これは、美少女との間接キスってことで喜ぶべきなのかなぁ?うーん。本当に何とも言えない気持ちだよ、僕は。




 あとがき

 腹痛で唸っていたせいで更新時間遅れた……すまぬ。

 三十分も待たされた!万死に値する!と思ったものは星を。

 年中腹痛に悩まされている僕に同情する方は星の方をよろしくお願いします。

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