第7話
「ほら、アルス。飲み物よ」
「うむ。感謝する」
僕は自分の隣に立っているヘラが差しだしてくれる飲み物の入ったコップへと口をつけ、喉を潤す。
「ねぇねぇ、ところで聞いたかしら?セカンドクラスで起きているゴタゴタ」
「知らぬな」
「はぁー、貴方はもうちょっと噂ごとにも関心を持つべきよ。くだらない人間同士の噂であっても人との交流には役立つのよ?婚約者を持っている男の子が別の女の子と両想いになって陰に隠れてイチャコラしてキスまでしているところを婚約者の子に見られちゃったみたいでとんでもない修羅場になっているらしいのよ。二股男、婚約者、浮気相手の揃うセカンドクラスは今地獄みたいよ?」
「ほう?中々に面倒なことになっているではないか」
「そうみたいね。婚約破棄云々の話にも発展しそうならしくて大変わよね」
「……婚約破棄は辞めて欲しいものだ。子供同士のゴタゴタなんぞで力関係にヒビが入られるのは困る」
「貴方も気を付けた方がいいかもしれないわよ?私との婚約を破棄した日には大変なことになるわよ?」
「余はそこまで浅はかではない」
「そぉー、かしらぁ?私は別に気にしないわよ?えぇ、別に気にしてはないわよ?でも、貴方だっていつも女を囲っているじゃない。もしかしたらそれが女の気にかかることもあるかもしれないわよ?私は別にぃ?貴方なんて何とも思っていないからどうこう言うつもりないけど?女を囲っていることに対して反感を持つ女もいるかもしれないわよ……いい加減大量に囲んでいる女をどうにしかしなさいよ!頑固なのよ!?そんな女を囲みたいわけ!?私とローズの二人がかりでもなんとか出来ないじゃない!女を守るために色々し過ぎなのよ!」
「最後に急転直下過ぎるだろうて。余のことなど何とも思っていないから余が女を囲むのにもどうこう言わないのではなかったか?最後の発言を見れば余に特別な感情を抱いているように見えるぞ?」
「か、勘違いするんじゃないわよ!……あ、あなたなんてただの……そのぉ、こ、婚約者なんだからぁ……」
「うむ」
「……もう少し何かあっても良いじゃない!?婚約者って言ってあげているのよ!?」
「ただの事実であろう?」
「……ふんっ!」
僕の言葉を受けてヘラは不満げに頬を膨らめ、僕から視線を逸らす。
「……ふぅ」
それに対して僕は軽く肩をすくめながら自分の手にある魔道具へと視線を落とす。
ラミリスの妹さんを助けるための方針として力押しで解決することを決めた僕たちではあるが、だからと言っていきなり動けるわけじゅない。
そもそも敵の所在地すらわからない中ではどうすることも出来なかった。
「……それで?貴方の手にある魔道具はしっかりと機能しているんでしょうね?」
「問題ない。何かあればいつでもわかる」
わざわざ普段はラインだったり、別のところだったりに置いている魔道具の数々を一部、こちらに持ってきてまで監視網を形成しているのだ。
王都に住む者全員に小型の監視カメラを尾行させ、王都中を監視できるよう何千と言う数の監視カメラまで設置している。
相手が何であろうと動きがあれば察知するという自信が僕にはあった。
「……ッ」
問題は、相手が一切動きださなかった時だ。
既に僕が動き出しているということは相手もわかっているだろうし、……出来ればトラブルメーカーな主人公が戻ってくる前に終わらせたいところだが。
何があるかはわからないからな……。
「余は負けぬ。そのために、ここまで積み上げてきたのだから」
自分を守り、何よりも自分の周りにいる大切な人たちを守る。
そのための準備であり、そのための強さである。
『世界を支配する一歩手前まで行った私の力を持つアルスが負けるところなんて想像できないけどねぇ?』
『……それでも、だよ』
油断しない、必ず勝つ。
僕は自分の手にあるカメラより得られる情報を一括に管理してくれる魔道具を手元で転がしながらいつその時が来てもいいよう待ち続けるのだった。
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