第5話
「オルス騎士団長。入るぞ」
「やあ、久しぶりだね。君から訪ねてくるなんて珍しいね。どういう風の吹き回しだい?」
ノックもなしに騎士団長の執務室へと入ってきた僕に対してオルス騎士団長は柔和な笑みと共に口を開く。
「情報提供の願いだ」
執務室へと入り、勝手に室内にあった席へと腰掛ける僕は横柄ない態度でアリーシア学園の方からここへとやってきた目的を告げる。
「アリーシア学園に在籍しているラミリスの妹が一週間前に誘拐されたんだそうだ。市井における誘拐事件に関する情報が欲しい」
「なるほど。油断ならない事態だね。生きてはいるかい?」
「死んでないとも」
「わかった。今すぐ情報を貰ってこよう。今日の晩にも届けられるはずだ」
「うむ。頼む。念のため、一か月分丸々貰おう」
「あぁ、わかった。一か月分だね。お安い御用だよ」
「それでは余はこれで。まだ行かなくてはならないところがあるのでな」
「あぁ、わかったよ……うちが力不足で申し訳ない。俺たちの方も出来ることは最大限行っていくつもりだ。いつでも頼ってくれ」
「うむ。頼りにしておこう。それではな」
手早く用事を済ませた僕は席から立ち上がり、騎士団長の執務室を後にするのだった。
■■■■■
誘拐されたラミリスの妹に関する情報を欲する僕が訪れる場所は騎士団長の執務室だけではない。
「ちっ。相変わらず面倒なところだ。ここは。もう少し生きやすくならないものか」
王国の、王城の奥底にまで僕はやってきていた。
「……ここは、お前のような部外者が来れるような場ではない」
僕を優しく出迎えてくれたオルス騎士団長とは違い、ここの主は拒絶感をあわらにする。
ここは王族子飼いの暗部が本拠地。
王城の地下深くにレイスト王国の闇を一挙に担う者たちの本拠地が存在しているのだ。
「ここの椅子は硬い。王族は金欠なのか?」
「……何の用だ?」
レイスト王国暗部が統領。
一生をここで過ごし、とある特殊な一子相伝の固有魔法によって部下より上げられるすべての情報を管理するだけの生を生きる名前すら与えられない彼女は徹底的に僕への拒絶感を見せる。
「普段であれば汝でしばし揶揄うところであるが、今日は良しておこう」
「……私は他人から揶揄われるような要素などない。むしろ、それは貴様の方だ。王家転覆をほのめかす発言をしておきながらのうのうと我らのま」
「風呂に入ったのいつだ?少しばかり匂うぞ?」
僕は暗部統領の言葉を遮って口を開く。
「……ッ!?!?」
「それと少し運動した方が良いし、毛の処理もしたらどうだ?そのたるんだ体から中々の匂いを発しておるぞ?まぁ、それくらいの方が余の好みでもあるが」
「し、死ねぇッ!!!」
僕の言葉に対して無表情かつ冷静沈着を良しとする暗部統領が顔を真っ赤にして蹲る。
『アルス。罵るなら私にしないから?』
『黙れ』
『はぅん!?』
僕はくだらないことを宣うサクラを一瞬で切り捨て、話の本筋を戻すために口を開く。
「余がここに来たのは一週間前に攫われたラミリスの妹についてだ。前に行っていた配置替えの時とは被っていないだ。有用な情報もあるのではないか?」
「……き、貴様は一体どこまで我らの手をッ!ぐっ、……すぅ、正直に言うと大した情報はない」
百面相をその相貌に浮かべながらも最終的に未来ある若者であるラミリスの妹を助けることを第一優先とした暗部統領は淡々と語り始める。
「こちらがどう動くか予測する方法であるのか、怖いくらいに我らの情報包囲網を抜けていくせいで細かな情報が未だに掴めていない。情報は騎士団の持っている者と変わらん」
「……お前らでもそれであるか?」
「あぁ、そうだ。今回の敵はなかなかに厄介であるぞ?お前は問題ないだろうが、他を心配しておけ」
「うむ、あい分かった」
僕は暗部統領の言葉に頷き、立ち上がる。
「あまり時間もない故、今日はここで失礼しよう」
「……あっ、もう帰るんだ」
「また来る故、そこまで悲しまなくとも良いぞ?」
「か、悲しい顔なんてしてないが!?もう二度と来るではないわ!貴様が我らの中で最も注意すべき相手だということを忘れるなよ!!!」
「うむ……ではな」
僕は自分をへと告げられる暗部統領の言葉を背にこの場を後とするのだった。
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