第二章
第1話
僕が魔王を捕え、拘束し続けてから早いことでもう数年は経過した。
「……ぁ」
そんな長き時の中で魔王のその姿を大きく変えていた。
「アルス様……アルス様……アルス様……」
既に力の大部分を失った魔王は甘えた言葉を上げながら僕の方とずり寄ってくる。
「……はぁー」
魔王とは不定形の存在である。
明確に性別も決まっていなければ姿かたちも変わっていない存在である……であった。
既に自分の体を自由自在に変えることすら出来ないまでに力を失った魔王の姿は当初とは大きく異なる。
真っ白な肌に肩の長さに揃えられた黒い髪。
右目にある泣きぼくろがチャームポイントな実に整った美しい相貌の中で輝く眼帯で隠されていない右の甘く蕩けた金色の瞳。
あまりにも大きな乳房に尻、ムチムチすぎる太ももにお腹にも少しだけついたぷにぷにのお肉。
肉付きが良く、非常に欲情のそそられるその身をほんのわずかなばかりの千切れた布で大事な部分だけを隠している。
頭より生える二本の角に尻より生える尻尾。
一部、人ではありえないところがありながらも人と変わらぬ姿をした彼……いや、彼女こそが今の魔王であった。
「服着ろ、服。僕はちゃんと上げているだろ!」
僕は床に散らばっている服の残骸へと指をさしながら声を荒げる。
「だから大事なところは見えないところは隠しているわよ……?好きでしょう?」
二つに分かれたスプリットタンを覗かせる魔王はそのまま僕へとしなだれてくる。
「……しっかり僕の性癖に合わせて来るな!どっせいや!」
僕は自分へとその体を寄りかからせてくる彼女を強引に突き飛ばす。
「お座りッ!!!一か月くらい更に放置するよ!」
「ひぃ!?そ、それだけは!それだけはご勘弁をッ!ここで一人はもう、もう嫌なのぉ!!!」
僕の手によって何も出来ずに体をバラバラにされて食われ続け、その力も魂も徐々に失っていっていた魔王は暗闇の世界でいつしかその精神を崩壊させ、唯一会える存在たる僕へと依存しだしたのだ。
魔王の今の姿も僕へと媚を売るためのものである。
「……もう、本当に最悪」
魔王が変な方向に転がったせいでその精神性が不屈と近くなり、指一つ喰らうことすら難しくなってしまっているのだ。
もはや全部喰らっての討伐など不可能に近い……これでも九割の力は完全に僕のものとしたので、魔王は既に脅威ではなくなったが、問題は魔王の処分方法である。
僕にとっての脅威ではないけど、他者にとっては違うだろうし、不死というのもまた厄介である。
「……おい」
「は、はひぃ!?」
僕からの言葉を受け、慌てて視線を上げる魔王。
そこに害意などないだろう。
「……選べ。魔王。僕と共に生きるか、ここで永遠に封印され続けるか」
僕は魔王へと選択を迫る。
「共に!!!」
それに対する魔王は一瞬であり、食い気味で僕の方へと身を乗り出してくる。
「良いよ、じゃあ抵抗しないでね?」
僕はそんな魔王の手を掴み、その身を自分の中へと吸収する。
『……はへ?』
一瞬にしてこの場からその姿を消した魔王は、僕の頭の中で困惑の声を上げる。
「お前から奪った力を改良して作った秘術の一つだ。僕とお前の存在を繋げ、一つの器にぶち込む術だ。僕という器が死ねばお前も死ぬ。万が一の時のために用意していた魔王の討伐方法の一つだ」
『わ、私はもうずっとこの中……?』
「あぁ、一応お前の元の肉体もこっちの世界に出せるぞ。根底は繋がっているが」
『ぜ、全然良い!最高の形!』
「……自分の不死性が失われたんだから少しくらいは抵抗感覚えてよ」
『アルスがいないなら生きる意味なんてもうないからね!ここは居心地も良いし、アルスの目を通して外の世界も見えるしね……それにしてもなんで急に優しく……?私へとデレたの?」
既に数年の時を生きた。
魔王と言う存在の壊れた前の人格も、その根っこにある心意気もなんとなくは察していた。
この世界に向き合うことに決めた僕は当然、この魔王ともこの世界で向き合った……ただそれだけのこと。
「知るか、ボケぇ。自分で考えろ」
『~~~ッ!やっぱりデレたのね!私の魅力にとうとう陥落したのね!』
「それだけはない。そんなことより、よ。問題はお前の名前だよなぁ」
『あ、アルスに決めてほしいなぁ?私に名前なんてないし』
「んじゃ、サクラで」
『お、おぉ……それが、私の、私だけの名前……』
僕は頭の中に響く魔王の声と会話しながらどこまでも暗く、血生臭い地下室から出るのだった。
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