第21話
魔導の天廻。
現状、政府に関与しない組織であれば最大の組織からの襲撃を受け、結果的に被害は孤児院だけであり、代わりとして情報の宝庫である八人のきれいな体を手に入れたことはアドであったと言えるのではないだろうか?
「……いいわけないだろ」
僕は自分が作ったお墓を前にして小さく呟く。
孤児院のみんなは全員が身寄りない子どもたちであり、お墓を作ってあげられるのは僕だけなのだ。
きっと、このお墓にお参りしてくれる存在も僕だけだろう。
「はは……」
侯爵家の者が作ったとは思えない簡素なお墓を前にしながら僕は乾いた笑みを浮かべる。
「……生きているつもりだったんだ」
この世界がゲームではないことは理解していた。
すべての者が生き、僕も生きる世界であると理解している……そのつもりであった。
「初めて見る死体があれは堪えるなぁ」
僕の選択で結果的に死んだものもいただろう。
それでも……明確に誰かの死を前にしたことはなく、死というものの実感が出来ていなかった。
一度死んでおいて、生きるということも死ぬということもどこか実感がなかったのだ。
「……」
結局のところ僕はこの世界で生きているつもりで、それでも所詮は前世の感覚でゲームの世界を生きているだけだったのだ。
どこまでもゲーム感覚で
死亡フラグなんてなくとも人は死ぬし、運命などという曖昧なものは存在しない。
「……」
自分の頬を撫でる柔らかな風に身を委ね、自然の音を耳にする。
僕の心臓は確かに鼓動し、生命を育んでいる。
確かに、僕はこの世界に生きる一人の人間としてここに存在しているのだ。
「……強くなるよ」
自分の死亡フラグを折るためではなく。
もう二度と失わないために、強くなると決意する。
「安らかに眠ってて、また来るから」
一度、墓を撫でたあとに僕は立ち上がって背を向ける。
「もう、大丈夫だから」
僕はこの世界で生きるのだ、どこまでも。
■■■■■
この世界の奥の奥、どこまでも続く闇の底。
かつては覇権国家として君臨していた魔導帝国マギアの根幹とも言える極力な魔導具である『未来視の天瞳』。
今なおある程度の形として残っているそれが魔導帝国マギアの帝都の地下深くの一室に安置されていた。
「そう。とりあえず孤児院は破壊したのね」
世界にバレることなく滅亡のときより今日まで続き、魔導の天廻の本拠地として活用されていた一室で。
未来視の天瞳へと腰掛ける一人の少女が口を開く。
「はい。孤児院は例の子が来るよりも前に」
「そう。それなら良いわ……彼の強さは?」
「未知数です。戦闘前に黒炎で結界を張ったせいで中の様子を確認できず、終わった瞬間には全滅していました。
「じゃあ、損害は十二?」
「いえ……監視役として張り巡らせていた面々の多くも撃退されてしまったそうで被害は二十三。生き残ったのは一人のようです」
「それはちゃんと始末したかしら?」
「はい。生き残りは情報をもらった後に」
「えぇ、それで良いわ。何を仕掛けられているかわかったものじゃないものね」
少女は自分へと報告をくれる伝令の言葉に対して満足気に頷く。
「じゃあそろそろ私も動くわ……いい加減終わらせないとね」
そして、少女はゆっくりと立ち上がるのだった。
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