第20話
軽々しい気持ちで遥か上空を飛ぶ魔道具の龍から孤児院の方へと降り立った僕が見たのはまさしく地獄だった。
「……っ」
激しくうちの騎士団と襲撃者が争った影響で崩壊してしまった孤児院。
そんな崩壊した孤児院には孤児としてここに身を寄せていた彼らの凄惨な死体が多く転がっていた。
既に長き時を過ごし、これからと言うところであった多くの子供たちの死体を前にして僕はただただ呆然と立ち尽くす。
だが、そんな僕には感傷に浸っている暇すら与えられなかった。
「……ッ!?」
自分の方へと向けられた魔法に対して僕は慌てて異能を発動し、黒炎で呑み込む。
「……貴様らか」
孤児院へと襲撃を仕掛け、孤児院の子供たちを皆殺しにした襲撃者たちへと僕は静かに視線を送る。
それと共に黒炎で壁を作り、この場にいる者全員をこの場から逃げれぬようにしていく。
「後は余に任せよ」
「ある──ッ!?」
僕は襲撃者たちに押され、劣勢となる騎士たちを強引に黒炎で作った壁の外へと押し出す。
「……あー、クソったれが」
襲撃者たちの中に囲まれる形で一人となった僕は小さくボヤく。
本当にクソだ、クソったれだ。
「……」
「……」
「……」
黒い布で全身を覆い隠し、誰かもわからなくなっているとある一つの仮面をつけた襲撃者たちは全部で十二人。
「魔導の天廻だな?三人一組の一班が三つ。随分な戦力じゃないか」
僕は彼ら襲撃者の正体に心当たりがあった。
その仮面にその出で立ち。
ゲームにも出てくる魔導の天廻の構成メンバーそのものだった。
本当につい最近、領内で魔導の天廻の活動があったという報告があったばかりなのだ。間違いないだろう。
つまり、つまりだ……。
「ははは、僕のせい、か」
あの日、僕がしっかりと対策を立てていればこのような悲劇は起こらなかったのだろう。
ゲームのイベントになかったからなどというくだらない理由で彼女の報告を切り捨てた結果がこれなのだ。
「……少し八つ当たりに付き合えよ、お前ら」
僕は何の武器も持たずにゆっくりと襲撃者の方へと近づいていく。
「……」
それに対する襲撃者の一人の動きは迅速だった。
手にある短剣を構えて一切の無駄のない動きで地面を蹴って行動を開始する。
「遅いよ」
迷いのない動きで僕の方へと迫ってきた襲撃者一人へと僕は真っ直ぐに蹴りを叩き込む。
「……は?」
ただそれだけで襲撃者の一人の体は粉みじんとなり、ただの血だまりとなって床にぶちまけられる。
仮にも魔法によって隆盛を極めた帝国の生き残りである魔導の天廻の面々が発動している自分の身を守る結界は非常に硬かったし、おそらく彼らも自分の魔法に自信があったことだろう。
だからこそ、たった一発で自分の同胞がただの血だまりとなった光景を前にして彼に続いて僕へと飛び掛かろうと動き出していた他の襲撃者たちが足を止めてしまう。
「……覚悟は出来たよ。さぁ、終わらせようか」
そんな彼らに対して僕は静かに宣言し、殺気を漲らせる。
「……ッ」
僕は自分へと向けられる魔法を静かに、確実にすべてを黒炎で消し飛ばし、新たに決めたターゲットの方へとゆっくり近づいていく。
「……クソッ!」
魔法を撃ち続けていたそのターゲットはその行為すべてが無駄となる中で、とうとう耐え切れなくなった彼は僕から逃げるために背を向けて地面を蹴る。
「逃がさないよ?」
そんなターゲットを逃すほど僕は甘くない。
一瞬で逃げたターゲットへと追いつき、そのまま地面へと頭を掴んで叩きつける。
圧倒的な力で地面に叩きつけられた彼も最初の奴と同じようにたった一発でその体から力を失う。
「……ぁ、あぁ……」
「う、打てッ!うてぇ!!!」
「……ッ!」
「な、なにすりゃ攻略できるんだ……ッ!」
「……もう、駄目だ」
自分たちが、自分たちの同胞が何も出来ずに僕に叩きのめされる光景を目にして普段は冷静沈着な魔導の天廻の面々にも動揺が広がり、焦りと恐怖を口に出すようになる。
「はぁー、やめだやめ」
襲撃を仕掛けてきた魔導の天廻のメンバーは残り八人。
既に彼らのほとんどが戦意を喪失しているように見えた。
「弱い者いじめは性にあわないや」
僕は黒炎で八本の矢を作り、それを残りのメンバーへと叩き込む。
彼らの反応できぬ速度で打ち込んだ僕の黒炎は一瞬にしてただのたんぱく質の塊を八つほど作り出す。
「……おわーり」
うちの騎士団の連中が押されていた相手を僕は一瞬で殲滅して見せる。
まだ子供でしかないが僕は既にそれほどまでのレベルに成長しているのだ。
「……」
戦いを終えた僕はただ何をするでもなくしばらく立ち尽くす。
「……ごめん」
そして、長らく立ち尽くしていたその先で僕は小さく謝罪の言葉を呟き、視線を天へと向けるのだった……何かを、こらえるように。
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