第19話
「その魔法陣においてここで属性転換術式を利用できないのは何故なの?後ろのややこしい術式も属性転換術式を使えば一発だと思うんだけど?」
「あぁ、それはここの一個前の術式で既にガチガチに属性を固定しているせいであるな。一つの属性を固めた状態で更に別属性の要素も入れるという面倒なことをしているせいで属性転換術式は使えないし、かと言ってここで固めておかないとうまく形にならないし、ということでこんな複雑になっているのだ。それに気に食わないというのであればヘラがもっとより良い方法を見つけられれば固有魔法になるかもしれんぞ?余は結局のところ使えないからな。もしかしたら改良させられるかもしれない」
「いや、こんな微妙な魔法を極めようとは思わないわ……それにしてもそうね。貴方は汎用魔法使えないんだったわね。なんで自分の使えない魔法についてそんな詳しいのよ」
「汎用魔法は使えないが、それでも魔導具の制作は行うからな。動力源となる魔力は他者に頼っているが、その基礎は余が直々に作っているからな」
魔導具とは魔力が無いものでも使えるようにした道具のことである。
魔力を込める事のできる特殊な鉱石に魔力と共に基礎的な魔法陣が刻み込まれており、起動するだけで魔法が発動する優れものである。
ちなみに僕の作っている魔導具は鉱石の代わりに無限に大量の魔力を垂れ流し続ける魔王の眼球をコアとする特殊の魔導具とつなげることで魔力を予め込めて置かなくとも勝手に込められるようにしている。
「……魔導具があるのだし、普段囲っている女性を解雇してもいいでしょう?」
「それは出来ぬ相談である彼女たちの生活があるゆえにな」
「私が代わりに払うわよ?」
「弱みは見せられぬ」
「婚約者にくらい良いじゃない」
「貴族間の関係はそこまで簡単なものではないとも」
「……もう!ずっと口が回るんだから!」
ヘラはいつも囲っている大量の女性を解雇するよう迫るが、それを僕はのらりくらりとやり過ごす。
「……さて、ちょっと脱線してしまったな」
僕はヘラの方からクラスメートたちの方へと視線を戻す。
ここはサードクラス。
今はヘラと魔法に関する講義を楽しんでいたわけではなく、いつもの補習授業を行っている最中だったのだ。
午前の授業の復習を昼の時間に、午後の授業の復習を放課後にクラスメートたちに向かって補習授業という形で勝手に僕が行っているサードクラスにいつしか、当たり前のようにヘラも参加していた。
「あっ、そうね……ごめんなさいね。時間奪っちゃって」
「い、いえいえ!むしろ私たちのほうがお二人の時間を邪魔してしまい、申し訳ありません!!!」
ヘラからの謝罪を受けてクラスメートたちは大慌てでそれを否定する。
「気にすることはない。余が勝手にやっているだけであり、これが勝手に来るだけである」
「えぇ、決して謝ることではないわ。誇るべきことよ。私のことは気にしないで頂戴」
「それでは再び授業の方に戻して……」
僕が再び黒板へと文字を書こうとした瞬間。
「アルス様!」
サードクラスへとうちのメイドが駆け込んでくる。
「ん……?なんだ?」
「襲撃です!!!アルス様の孤児院が襲撃されました!」
「なんだとッ!?」
ここにまでやってきたメイドの緊急伝令を聞いた僕は動揺と共に立ち上がるのであった。
■■■■■
僕が目をかけていたラインにある孤児院が襲撃された。
その一報を聞いた僕は補習授業を中止してアリーシア学園の方を急いで出立し、大慌てでラインの方へと戻ってきていた。
「……何故孤児院だけを狙い打ちしている?」
飛ぶことのできない僕の足は二つ。
一つは空を飛ぶ魔法を得意とする女性であり、もう一つは自分で開発した魔導具である。
「何の狙いで?」
あまり乗り心地は良くないが、それでも速度だけはある龍を象った魔導具の上に乗る僕はラインの上空で首をかしげる。
戦闘はラインハルト侯爵家の邸宅でも、僕の商会の本店でも、ラインにある数々の重要拠点でも、ただの大通りでも起こっておらず、本当に孤児院だけが襲われ、そこでならず者とうちの騎士団が激しくやり合っていた。
重要拠点は狙わず、孤児院だけを狙う理由がまるでわからなかった。
「まぁ、行けばわかるか」
あぁ、この時の僕は知らなかったのだ。
この世界で生きるということを。生きるものは死ぬという実に単純なことを、本当の意味で。
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