第18話

「ふふふ、ここレインは良いところなのよ?今日はここに詳しいお姉さんが先導してあげる」


「うむ。よろしく頼む」

 

 無事に自社開発をした魔道具をローエングリント侯爵家へと売り付けることに成功すると共にチェスセットのプレゼントまでしっかりと出来た僕はノワール侯爵ロイ閣下の強引な勧めで街の方をローズ嬢との二人で散策することとなった。


「何処に行きたいかしら?」


「余としては飯であるな。山の幸に興味がある。我が領地に山はあまりない故にな」


 基本的になんでもある領地だが、山はほとんどなかった。

 鉱山とかならあるんだけど、自然豊かで山の幸が取れるような山はないのだ。


「じゃあ、ご飯にしましょうか。もう良い時間だしね。炉端焼きなんてどうかしら?美味しいのよ」


「あぁ……良いかも知れぬな」

 

 炉端焼き。

 ゴリゴリの西洋ファンタジーの世界なのに和のものが多いのはゲームの運営の影響なのだろうか?

 ミスマッチ感が半端じゃない。


「それじゃあそこに行きましょうか」


「うむ。案内のほどよろしく頼む」


 僕はローズ嬢の言葉に頷き、自分を先導す彼女のあとへと大人しくついていくのだった。


 ■■■■■

 

 西洋風の建物の中に広がる和室。

 通された個室の中央には大きめの囲炉裏が鎮座し、それを囲むようしてこの世界で初めて見る畳の床がっ広がっている……何故にここまで和なのだ。

 前世においても炉端焼きって確か普通の居酒屋のいち形態だよね?なんでこんな自分は日本の食文化の一つですっていう面してここにあるのだろうか。


「焼いているからちょっと待ってね。食べられるようになるのはもうちょっとだけあとだから」

 

 そして、どう考えてもミスマッチすぎる和を基調としたこの部屋の内装にローズ嬢はノータッチなの?ちょっと特別なんだよー、的な話もないの?

 僕の知らないだけで畳はこの世界だとメジャーなのか?


「……聞いているかしら?」


「うむ、当然聞いているとも。とりあえず待てばよいのだろう?」


「え、えぇ。そうよ!……良かった、聞いててくれた」


「……」

 

 僕はパチパチと音をたてる石炭に炙られる椎茸などの山の幸に川魚や肉などが焼かれる網をぼーっと眺める。

 異能で焼けば一瞬なんだけどなぁ……。


「アルスくんは学園生活大丈夫?一年早くの入学なんでしょう?」


「特に問題はないな。元より余は学力的にも武力的にも学生レベルを既に超えている。立場的な問題も今のところ余はサードクラスであるからな。余に上から物を告げられる者などいない」


「それなら良かったわ」


「問題があるとすればファーストクラスの方に戻る予定の二学年次だな」


 僕の立場は色々と微妙だからな。

 侯爵家ではあるが、サードクラスに在籍する変わり者である。


「何か困ったことがあれば私を頼って?これでも結構人望はあるから……一度、ヒイロ第二王子殿下に捨てられた身ではあるけどね。あのひとはあまり人望面では微妙だったから、捨てられたとしても私の立場は揺るがなかったのよ」


「ふむ。では頼れることがあればありがたく頼るとしよう」


「えぇ!任せて頂戴!」

 

 僕の言葉を聞いたローズ嬢は笑顔で頷く。


「研究会の方はどうするつもりなの?もう決めた?」


「……研究会。そんなものもあったな」

 

 アリーシア学園には日本の学校の部活と似ている制度である研究会が存在する。

 学園に入学してから早いことでもう一週間。

 そろそろ新入生である僕たちも自分が所属する研究会を決めなければならないところだった。


「ふぅむ。別に余がやりたいことなど……」

 

 研究会では剣術やったり汎用魔法についてやったり学術についてやったりと自分のスキル向上のための活動を行うのだが、僕が今更学生レベルで何かをしたところで僕の成長には繋がらないだろう。

 僕のスキルツリーは色々と特殊だし。 


「入るところが決まっていないのなら生徒会に入らないかしら?私が生徒会長をやっているんだけど」


「むっ、生徒会か……」

 

 生徒会も一応は研究会の枠組みであり、その活動内容は風紀の取締からイベントの企画など、多岐にわたる。

 アリーシア学園における生徒会の権限はかなり強く、基本的には選挙で選ばれた生徒会長から任命された者が生徒会に入ることができる。

 

 基本的には生徒会長も生徒会役員も高位の貴族が務めており、今アリーシア学園の方にいる侯爵家の者は僕とヘラとローズ嬢のみ。

 王族であったヒイロ第二王子殿下が適当な外国に飛ばされている現状において、ローズ嬢が生徒会長が務めていることは自然なことだろう。


「特にやることもないし、生徒会に入るはありかもしれぬな」


「ほんと!」


「うむ。それではヘラの方にも話を寄せておこう。ヘラも同意したら彼女と共に余も生徒会に入るとしよう」 


「……そう」

 

 ヘラの名を聞いたローズ嬢の表情から感情が消え失せる。


「そろそろ焼けた頃合いではないか?店員よ!如何か!」

 

 だが、そんなローズ嬢に気づかないふりをして僕は店員を呼びつける。

 あの一件以来、どうもローズ嬢から気に入られたようだが、僕が彼女と婚約するつもりはないい。


 ヘラを選ぶにせよ、ローズ嬢を選ぶにせよ。

 どちらでも国内でのバランスが不安定になる。

 僕は外国の適当な娘と婚約するつもりなのだ……ローズ嬢の思いに答えるつもりはない。

 まぁ、所詮は一種の吊り橋効果で僕に思いを寄せているだけで、いずれはその思いも薄れるだろう。


「少々お待ちくださいませ」

 

 そんなことを考える僕はそろそろいい感じに焼けてきた食材の仕上げを行ってくれている店員さんを静かに眺めるのだった。

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