第16話
「ここは複雑故に脳死で暗記をするよりもしっかりと流れを理解しておいた方が良い。全世界の国々が裏取引、秘密条約、暗殺などの頻発に情報合戦。ぐちゃぐちゃだからまともに暗記で覚えるのは無理。これ自体が当時の覇権国にして魔導帝国たるマギアを崩壊させようと動いた我が国も含めたいくつかの国が動いたことが原因で……」
自分で言うのもなんだが僕は成績優秀だ。
前世から持ち越した知識もあるし、元々の自頭も前世からそこそこ良い。
学園で学ぶ内容は既にある程度把握しているし、教師のように生徒たちに物を教えることだって出来る。
先生が職員室に帰っても僕がいれば問題なく授業は回すことが出来る。
「ふむふむ」
「……なるほど」
「き、貴族って怖いんだな……」
「か、かなり複雑なのね」
「……うん」
僕は授業終了後、理解の及んでいない生徒たちに向かって難しいところの補足授業を毎回行っていた。
「アルス。弁当を用意してきたわ。一緒に食べるわよ!」
「アルスくん。私と一緒にご飯を食べませんか?お弁当、作ってみたんですけど」
「あぁ、しばし待て」
僕は教室の扉を開けて顔を見せてくるヘラとローズに対して待つよう告げ、視線を黒板の方に向けなおす。
「……あの、自分たちは後でいいのですが」
侯爵家の令嬢を自分たちの事情で待たせていることに対して抵抗感を見せる一人の男子生徒がおずおずとした態度で僕に向かって告げる。
「優先順位を決めるのは余である。良いからノートを取っておけ」
「……はい」
だが、そんなごく自然ともとれる彼の言葉を僕は却下し、二人を廊下に立たせたまま補習授業の続きを行う。
「良し。昼までの三限の授業はこれで終わりだ。一年生で学ぶのは基礎の基礎。何事においても基礎が出来ていなければ何も出来ない。しっかりと復習するように」
今日の午前中に行ったすべての授業の補習授業を終わらせてから僕はようやく意識をヘラたちの二人へと向ける。
「余になんであるか?」
「さっきも言ったけど、一緒にご飯食べよ!どうせ学食で食べる貴方のために弁当を用意してあげたわ!魔法のおかげで出来たてよ!」
「アルスくんと一緒にご飯が食べたくて……迷惑だったでしょうか?」
「……余とて飯は用意しているのだが」
学食にあまり行きたくなかった僕は自分で昼食は用意していた。
まぁ、準備したと言っても料理長に弁当を作らせただけで僕は何の苦労してもないけど。
「え?私の食べたくないの?」
「……すみません。やっぱ、迷惑でしたよね……勝手に弁当を用意してきてすみません」
「……仕方ない」
僕は二人の言葉に対して少しだけ息を漏らした後、自分の席に戻ってカバンに入れていた弁当を持って教卓の方へと戻ってくる。
「全員、好きに食うと良い。侯爵家が用意する飯だ。さぞ美味かろうて。あぁ、食い終わったら容器は残しておけ。使用人が洗うゆえにな」
僕は教卓の上に自分の弁当を広げ、置き去りにしてから二人の方へと戻ってくる。
「それでは行くとするか。どこで食べる?余は人が多いところは好まんぞ」
「良いわね!それじゃあ、行きましょうか!」
「ほ、本当に良かったの……?」
「構わん。それよりも行くぞ」
僕は二人と共に昼食を食べるべく教室を後にするのだった。
■■■■■
弁当を食べるために中庭の方へとやってきた僕たちはベンチに座り、弁当を広げていた。
「二つ食べろ、と?」
自分の前に差し出された二つの弁当を見て僕は表情を引き攣らせる。
「当然婚約者である私のを選ぶわよね?」
「ふ、ふへへ。私のを食べてくれるわよね?そ、そうよね?私ってば料理が得意なのよ?アルスくんの好みは全部把握しているし、栄養素も完璧よ?端正込めて作ったの……食べて欲しいなぁ?」
「……二つ食べよう」
僕は諦めて二つの弁当に手を付ける。
ここで食べないというのもないだろう……本当にローズ嬢の作った弁当は僕の好みをしっかりと捉え、その上で嫌いなものをいれずにバランスの良い構成となっていた。
いつ知ったの?僕の好み。
「どう、かしら?美味しく出来ているかしら」
弁当を食べ始めた僕に向かって隣にいるヘラが恐る恐る僕に聞いてくる。
「え?これをヘラが作ったの……?あのヘラが?」
それに対して抱くのは味の感想と言うよりも純粋な驚愕だ。
「……ッ!わ、私を何だと思っているのよ!」
「び、ビックリするくらいの不器用であっただろう?」
「アルスが勝手に引きこもっていた一年間の間に私も成長したのよ!料理だって作れるようになったわ!」
「うむ。実に美味であるぞ。流石であるな」
「ふふん」
僕の言葉を聞いたヘラが実に満足そうな笑みを浮かべる。
それにしてもなんで急に料理を作るようになったのだろうか?僕の知らぬ間に主人公であるヒイロとエンカウントしていたのかな。
「……私のは、どうかしら?料理には自信があるのだけど」
そんな僕とヘラのやり取りを横から見ていたローズ嬢が口を開く。
「婚約者のが一番に決まっているじゃない!早くどっか行きなさいよ!邪魔よ!」
「たった一年間練習しただけでよくそんなにも誇れるものね?」
そして、ローズ嬢へとヘラが突っかかったことで二人の間に火花が散り始める。
「両者共にうまかった。争うでない。余は家柄争いごとは好まん。二人を置いて戻るぞ?教室の方に」
そんな二人の間へと僕は割って入る。
僕を挟んでの女の火花など御免被りたい。
「……仕方ないわね」
「……ごめんなさい」
「そんなことより二人も食べ始めると良い。飯は共に仲の良い雰囲気の中で食べるのが良いのでな」
「まぁ、そうね」
「そうよね」
僕の言葉を受け、二人も弁当へと手を付けて穏やかな昼食の時間を僕と共に楽しむのだった。
ちなみにすべてを食べ終わる頃には僕の腹は死んだ……別に僕はそんな食べる方じゃないのに。
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