第14話
「ねぇ、どうしてなのかな……アルスくんは私と仲良くするって言ったよね?お姉ちゃんに教えて欲しいなぁ」
いつから僕の背後を取っていたのだろうか?
僕の背後を容易く取って肩を掴んでくるローズ嬢は僕の耳元で言葉を話す。
「……なんで、だんまりなのかな?あれぇ、おかしいな?アルスくんは私に王家の転覆を誘うくらいだったよね?なんでかなぁ……私が一人いれば充分だよね。なんで、そんなに多くの女の子を囲っているのかな?いるのかな、その子」
一切の油断もしていなかった己がローズ嬢に背後を取られた。
その事実に驚愕して何も言えずにいた僕に対してローズ嬢は勝手に暴走して勝手に妄想を垂れ流し始める。
「や、やっぱり私がダメなのかな……そ、そうだよね。君も、いや違う。やっぱり私が悪いんだよね。私には女としての魅力がないからアルスくんも私なんかどうでもいいって思っているよね。うん、そうだよね。……ぁあ、でもやっぱりアルスくんはカッコいいね。へへへ、ごめんね?こんな私が君のことを好きになっちゃって。ちょろくてごめんね?でも、一年前に助けられたあの日から片時もアルスくんを忘れたことはないし、ずっと好きの思いが重なっていっちゃったんだ。ごめんね?きもち、わるいよねぇ……あぁ、でも好き。好き。好き。好き。大好き、愛している。その力強い瞳も声も。強い意思も。偉そうに見えるその態度の下に見える優しさも、温かさも。どこまでもきれいな配慮も全部私を魅了するんだぁ、元はと言えばアルスくんが釣ったんだよ?あんなところで助けられたら好きにもなっちゃうよぉ……本当に卑怯だと私は思っちゃうなぁ?釣った魚には少しくらい餌をくれてもよくない?人生のどん底を救ってもらって、そのあとのアフターフォローも見えないところまで完璧なんだもん。惚れるな、って言う方が無理じゃないかなぁ?そう、だよねぇ……あぁ、好き。好きだなぁ。きもち、わるいよねぇ、ごめんね?でも好き……好きだよぉ。その何にもかもが好き。全部が魅力的。食べちゃいたい」
僕の肩を掴むローズ嬢の力が徐々に強くなっていき、その瞳からハイライトが徐々に消えていく。
背後から僕の見える位置にまで移動してくる徐々にハイライトを失っていく美人の顔などもはや下手なホラーよりも怖かった。
「愛している……愛して?」
「……ッ」
ハイライトのない瞳にじっと見つめられる僕はただ息を詰まらせる……誰これ?なんで、ローズ嬢がメンヘラ拗らせたヤンデレみたいになっているの?
意味が分からない。君ってば余裕たっぷりなお姉さんキャラじゃなかったけ?なんでこんなことになっているの。
「待ちなさいよ!!!」
僕が困惑して固まっている間にヘラが僕とローズ嬢の間に割って入ってくる。
「忘れないで頂戴!私が婚約者なのよ!あなたの入る余地なんてないわ!」
「……あらぁ?私はアルスくんの口から仲が悪いって聞いていたわよ?それに、今日も怒鳴ってばかり。本当に大丈夫かしら?そこに愛はあるの?」
「そ、それは……わ、私は当然アルスのことが……そのぉ、す、す、す……」
「そんなに言いよどんでどうしたのかしら?私はアルスくんのことが好きだけど、ヘラ嬢は?」
「……ッ!わ、私だって……ッ!」
僕の背後で睨み合いを始め、互いに火花を散らしているヘラとローズ嬢。
それに伴って僕の周りにいた女の子たち並びに他のクラスメートたちも全力逃亡の構えを取り、僕の座る後ろの席から離れた黒板の前に避難している……僕も逃げたんだけど。
「アルスはどう思っているのよ!?」
「アルスくんが何を考えているのかもお姉さんは聞きたいなぁ」
「ふぇ?」
もはや考えることを辞めてただただ真面目な顔をしてぼーっとしていた僕は急に話を振られたせいでうっかり素で何とも言えない気の抜けた声を漏らしてしまう。
「「……え?」」
「うう゛ん!!!なんであるか?」
「……ぇ、いや、その……なんでもないわ」
「な、なんでもなかったわ」
僕の言葉に対してとローズ嬢は何とも言えない表情を浮かべて僕から視線を逸らす。
「「「……」」」
おい、待て。なんか急に気まずくなったぞ!おいぃ!!!急に話を振るなよ!
僕の腑抜けた一言を起点として僕たちの中に沈黙が漂い続けてしまう。
「あ、あの……授業を、やりたいのだが……」
そんな中、僕たちのクラスを担当する先生が教室へと入る扉の前で途方に暮れているのだった。
■■■■■
「先生、ちょっと今日は早退させてもらう」
「……え?まだ、一時間目が終わったタイミングなんですか……」
「既にテキストは貰った……もういいであろう?今日は女難の相が出ているのだ」
「なるほど。そういうことですか。許可しましょう……えぇ、明日までには何とかしてから来てください」
「善処しよう」
ということで僕は学園を早退した……今日はとりあえず逃がしてくれ。もうおなか一杯である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます