第12話
竜王に率いられた数多のドラゴンの群れ。
レイスト王国に向かって猛進してくるその群れは国の根底を揺らす可能性を秘めるほどの大騒動である。
魔法があるこの世界では個々人の力量差はかなり大きく、リアルに一騎当千どころか一騎当万が起きる世界である。
竜王に率いられたドラゴンの群れなどただの騎士団をぶつければ何も出来ずに蹴散らせるだろうが、英雄級の強者をぶつければ単騎で解決するだろうが、生憎と現在の世界情勢もなかなかにきな臭く、なかなか英雄級の存在たちを動かせない状態にあったのだ。
そんな中で原作のゲームではヘラが半ば暴走する形で竜王の率いる群れと戦い、それを壊滅させた。
その功績でもってヘラは学園への飛び級を許されたのだ。
「……はぁー」
そういう話なのだが、この世界では何故か僕も引っ張り出された。
僕とヘラの二人組なら問題なく勝てるだろうと父上も判断し、僕とヘラの仲を深めさせたいローエングリント侯爵ノイ閣下もそれを後押し。
ヘラの提案で当人である僕を最後の最後まで放置して、引きずられる形で僕はこの場へと立っているのである。
「大儀である」
僕は自分の隣へと降り立ったヘラに対して声をかける。
「もう!なんでそんなに偉そうなの!別にあそこで手助けされなくても私は負けなかったんだから!」
そんなヘラは僕へと自身の顔を近づけ、意気揚々と口を開く。
「そんなのは知っておるわ」
「……あっ、そう」
あっさりと僕に同意されたヘラは肩透かしでも食らったかのような何とも言えない表情を浮かべる。
「話は終わりか?」
「え、えぇ……そうよ!」
「そうか。では、そろそろ帰ろう。こんな何もない場に用などはない」
「そ、そうね……」
僕の言葉にヘラは頷くが、彼女はその場から一切動こうとしない。
「……そ、その。ありがとね」
しばらく沈黙した後、ヘラは小さな声で何かを呟くのだが……その声が小さすぎて僕の耳には届かなかった。
魔王を食べることで人外に近づきつつある僕ではあるが、五感には未だ何の変化もなかった。
第六感なら異様に冴えてきているんだけどね。
「ん?何がであるが?」
「……何でもないわよ!行くわよ!勘違いなんてしないでよね!私は……私はそうなの!普通よ!」
「……はぁ」
一体を何を僕は勘違いすれば良いのだろうか……?勝手に一人で激昂して一人でさっさと帰るとするヘラを追う。
「待て、余を置いていくな。帰れぬ」
今の僕を置いて行かれたら本当に困る。
マジで帰れなくなる……雑用係は連れてきていないのだ。
■■■■■
僕が関与したのはヘラが学園へと飛び級で入学することになった案件である。
ゆえに、当然とも言うべきか僕の元にヘラと共に学園へと飛び級で入学する話が届いており、それを断ることはなかなか難しいだろう。
父上が断る気がない以上、所詮はまだ子供でしかない僕がそれを拒絶できないだろう。
だが、この時期に学園へと入学するなど、僕は出来るだけ御免被りたかった。
ここから先の学園はいくつもの死亡フラグ、クソイベントのオンパレードであるし、何よりも不用意に他家を刺激したくはない。
ただでさえ急激に影響力を伸ばす僕を警戒する貴族家が多いというのに、学園への飛び級入学などという最大級の賛辞を受け取りたくはなかった。
何故僕が自主謹慎と言う形で僕の経歴に傷をつけたと思っているのだ。
これではプラマイが余裕でプラスに傾いてしまうではないか……影響力は増やしたいが、それでも今の段階では大きく警戒されたいわけじゃない。
「……ほ、本当にそれで良いのかね?」
そのため、僕は自分の経歴にあえて傷をつけるためにアリーシア学園を統括している学園長の元へとやってきていた。
「うむ。余は自主謹慎と言う形を取っていたのだぞ?それを撤回してここに来るというのに最高位の評価を受けようなどと思っておらぬ」
「だが、本当にいいのか?これは君にとってかなりのマイナスと言えるのだが……」
「くどい。良いと言っているのだ。貴様はただ言われた通りにするとよい。余は一番下のクラスを所望する」
アリーシア学園にはファーストクラス、セカンドクラス、サードクラスと。
全部で三種のクラスが存在しており、成績順で上からというクラス分けされるという建前の元、
一番の下であるサードクラスでは男爵家や一代限りの騎士爵家の子、特殊な才能が認められた平民などが在籍する。
王族に連なる者が爵位されるため実質的には王族と言える公爵位を除いて貴族の中の頂点とも言える侯爵家の嫡男である僕は当然ファーストクラスに配属されるべき人間であろう。
そんな中、僕は自主謹慎中だったから、という理由で自身をサードクラスに送るよう要求してるのだ。
「……む、むぅ」
僕の前に座るアリーシア学園の学園長を勤める一人の老人は僕直々の申し出に対して芳しくない反応を見せ続ける。
まぁ、僕が勝手にやっている自主謹慎を理由にクラスを下げろなどと言われてそう簡単に頷けるものではないだろう。
だが、頷かせる。
「貴様に拒否権などはない。この学園に閉じこもっていようとも余の商会の話は知っておろう?貴様の生家も随分と金に困窮していたようだ。あれは余の力であり、余の金だ。父上の介入など無い。わかるな?」
「……ッ!?」
僕の言葉に学園長が息を飲む。
学園長はその圧倒的な才覚を認められて学園長となった男であり、その生家は子爵家とそこまで高いわけではない。
本質的な立場は僕が上だ。
「わかれ、余はまだ貴様ら大人を敵とするまでは思っておらぬ。国を割るつもりなどないのでな。これは禊であり、出る杭へと自ら打っているのみ。理解しろ」
「……承知、した」
僕の言葉に学園長が頷く。
「それではアルス本人の要望より、君をサードクラスに編入するよう取り図ろう」
「うむ。それで良い」
僕は学園長の言葉に対して満足気に頷くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます