第7話

 あまりにも突然すぎる王家転覆宣言に周りが動揺し、まともな対応が出来ていない間に僕は一人、話を続ける。


「元より、多くの無茶ぶりを行う国王陛下には多くの貴族が反発していたのだ。そんな中でのこれだ。誰よりも先にそこの愚か者を断罪するべき国王陛下は黙り続けていたのだ……少なくとも、余の申し出に今まさに王族へと魔法をぶつけようとした、ノワール侯爵ノイ閣下は賛同してくれるだろうし、僕の父も賛同させてみせよう。侯爵家が二家、だ。この時点でかなり行ける気がしてこないか?」

 

 王家を転覆させるなど並大抵のことではないが、力関係としてはあまり王家と侯爵家は変わらない。

 この国は絶対王権と言うわけではなく、地方の貴族権がかなり強い社会なのだ。


「領内を揺るがす災害時であっても王家からの助けが何もなく、その上で幾つも無茶ぶりを託されているコンロッド侯爵家なんかも賛同してくれるかもしれぬ。どうだ?見えてこないか、希望」


「お、王家の……転覆。そ、そんなの考え、られない……」


「くくく。随分とお優しいことだ」

 

 僕はローズ嬢の言葉に対して笑みを浮かべ、更に言葉を続ける。


「再び言おう。ローズ嬢。これは僥倖である。無能ではなく有能にして、真の愛を見つけるためのな」


「……もう、駄目、だよぉ……気にかけてくれて、嬉しいけど、さ。こんな場で婚約を破棄された私に……次、なんて」


 貴族とはメンツの生き物である。

 たとえ、ローズ嬢に非はなかったとしても、婚約者の男を一切制御出来ずに別の女に、しかも平民の女に婚約者を奪われて一方的に婚約を破棄されたともなれば、ローズ嬢の名誉に傷がつくのは必然であり、次なる婚約者探しには難航することになるだろう。


「そんなもの気にする者など誰がいる?すべてのものが視線は余だけのものである」


 だが、そんなものに気にしている人間などこの場にはいないだろう。

 僕はローズ嬢を優しく離し、視線を彼女から外す。


「よっと」

 

 そして、僕は地面に未だ転がっていたヒイロ第二王子殿下を蹴り飛ばし、その意識を消し飛ばす。


「……ッ!?」


「国王陛下」

 

 僕は跪くこともなく真っ直ぐ国王陛下の言葉にぶつける。


「これは幼年たる余からの提言である。周りを良く見ると良い。民なくして国為し。王族だけで国は成り立たぬのだ。民も、貴族も大切になさるように」

 

「……う、うむ」

 

 僕からの真っ直ぐな視線と言葉を受けた国王陛下はただただ頷くことしか出来ない……が、とりあえずはこれで十分だろう。


「国王陛下。出過ぎた真似を致しました。重ねてお詫び申し上げます」

 

 それを見た僕は国王陛下へと跪いて深々と頭を垂れる。


「……あ、頭を上げるのじゃ」

 

 あまりにも急すぎる僕の対応の差に困惑する国王陛下はとりあえず自分へと下げられた頭を上げるよう述べる。


「国王陛下の広い御心に感謝いたします」


「の、のぉ……?」

 

 サクッと立ち上がった僕は普通に国王陛下へと背を向け、再びへたり込むローズ嬢の体を掴み、立ち上がらせる。


「この場はローズ嬢の恥辱の場ではなく、余の独壇場へと変わった。好きに恋愛を楽しむと良い。美しき君のこれからに幸あれ」


 そして、彼女の耳元で僕は小さな声で囁く。

 この場において、人々の印象に残るのは一方的にボコされたヒイロ第二王子殿下の情けない姿とあまりにも鮮烈にして危険な僕の存在しかないだろう。

 それに、ゲームの国王陛下の性格設定を考えると、これで何もかもが上手く行く可能性がある。

 

 とりあえずこの場で僕の出来ることは出来ただろう……ちょっと楽しくなっちゃってやりすぎちゃったような気もするけど、これくらいならまだ許容範囲だよね?

 う、うん……だ、大丈夫。うみゅ。


「ではな」


「……ッ!?あ、貴方は!」


 ローズ嬢から手を離し、この会場の出口へと向かっていく。


「出来れば美しき君と遊んでいたが、急用が入ってしまったゆえにな。余はこの辺りで失礼するよ」


 言葉を話しながら歩いて扉の前にまでやってきた僕は一度、足を止めて後ろを振りかえる。


「それで?騎士の連中は何をやっているんだ?王家の転覆を告げた余をこのまま放置するつもりか?」


「「「……ッ!!!」」」


 僕の言葉を受け、跳ねられたかのように騎士たちが動き出そうとして……それでもどう動けばいいかわからず彼らは右往左往しだす。


「リューズ、ロイス。彼を丁重に我らが休憩室にお連れしろ」


 そんな中、オルス騎士団長は二人の騎士へと僕を捕えるよう命令を下す。


「「ハッ!!!」」


 そして、名を呼ばれた二人の騎士はその命に頷き、僕の方へと近寄ってくる。


「待て、どちらかは余へとそこのチキンを持ってこい。あれはうまかった。もう一つ欲しい」


 僕はそんな二人の騎士へと実に一方的で個人的な命令を下す。


「りょ、了解しましたぁ?」

 

 騎士の一人はどうすればいいか迷いながらも頷き、僕へとチキンを持ってきてくれる。素直な子は好きだよ。

 

「うむ。それで良い。では行こうぞ」

 

 僕はチキンを持ってきてくれた騎士の二人と共にこの場を後にするのだった。

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