第6話
僕は自分へと全員からの注目が集まるのを感じる中、視線をノワール侯爵ノイ閣下の方へと向ける。
「アレイクッ!コントルッ!」
正確に言うと彼を捕えている二人の騎士へと。
「どのお方に触れていると思っているッ!!!ノワール侯爵ノイ閣下は貴様らが触れていいようなお方ではない!」
「「……ッ!?」」
僕の言葉を受け、思わずと言った形でノワール侯爵ノイ閣下を捕らえていた二人の騎士は手を離す。
それを確認した僕はノワール侯爵ノイ閣下が動き出すよりも前にこの場の支配権を傾けるべく再び口を開く。
「オルス騎士団長!」
次なる標的は国王陛下の隣に立つ全身の金属鎧を着こなす男だ。
「はっ!」
僕の言葉にこの国の実働部隊である騎士団を率いる男であるオルスは僕の言葉に冷や汗を垂らしながら背筋を伸ばして敬礼する。
軍を統括する元帥は僕よりも偉いが、現場の人間のトップは僕よりも階級が下であった……それでも彼は伯爵の人間なんだけどね。
この国においては侯爵家の力が王家に匹敵するほど強く、それに倣って侯爵家の息子である僕の立場もかなり上なのだ。
「ローズ嬢がいじめを行ったなどと言うほら話はどこから来たのかわかるか?余は騎士団が学園内部でローズ嬢のいじめに関する調査を行ったなど言う話は知らんぞ?まさか……我らに無断で勝手に動いたわけはなかろうな?」
騎士団は他国との戦闘行為から治安維持はもちろん、犯罪から貴族に関する些事の調査までも行う巨大組織である。
当然、婚約破棄に関わる重大な虐め問題であれば騎士団が調査に関わっているはずだろう……しかし、僕は騎士団がそのような調査を行ったという話を聞いたことがなかった。
「神に誓って申し上げます!我ら騎士団長は一切の調査に関与しておりません!」
「……だ、そうだが?」
ここまで話を進めてから僕は視線をヒイロ第二王子殿下へと視線を向ける。
「ちょ、調査など必要ない!既に調べ終わっている!」
いきなり僕から視線と声を向けられたヒイロ第二王子殿下は若干挙動不審になりながらも言葉を紡ぐ。
「貴様。ローズ嬢を何だと思っているのか?素人の杜撰な調査で一方的に婚約破棄をしていい相手だと本気で思っておるのか?」
「き、貴様だと……貴様こそ王族たる俺を何だと思っている!」
「話にならんな」
僕はヒイロ第二王子殿下に言葉に対して一切臆することで一言で切り捨てる。
「さて、ローズ嬢。立つが良い」
僕はヒイロ第二王子殿下から視線を外し、ローズ嬢の方へと視線を向けて手を差し伸べる。
「……私は、もういいですよ」
だが、それに対してローズ嬢は小さく笑みを浮かべながら首を振る。
「何故?」
「……わ、私はもう、良いのよ。ここまで、頑張ってきた、のにぃ……」
意気消沈とした様子で尻もちをつくローズ嬢は静かに涙を流す。
「美人に冷たい涙は似合わん」
僕はそんなローズ嬢の顔を強引に手で上に向けさせ、その涙を己の指で拭う。
「前を向くといい、ローズ嬢。これは祝福たるぞ?ここで何もわからずに婚約破棄を宣う阿保と縁を切れたのだ。喜ぶべきであろう?あれから」
「……そ、そんな」
「くくく……生憎と、我も婚約者から嫌われているのだ」
「そう、なんですね……って、は、はわっ!?」
僕は強引にローズ嬢を立ち上がらせ、彼女をそのまま抱き寄せる。
「同じ嫌われ者同士、仲良くしようではないか」
僕は自分の胸の中にいるローズ嬢へと笑顔で笑いかける。
「……ッ!?」
「さ、さっきから聞いておれば!俺をなんだと思っているのだ!」
そんな僕とローズ嬢のやり方を側で見ていたヒイロ第二王子殿下が声を荒げる。
「邪魔だ」
「……ッ!?」
僕はそんなヒイロ第二王子殿下を腕で突き飛ばし、地面へと転がす。
「……ッ!?ひ、ヒイロ様!?」
「……は、え?ぁ?」
それを受けて現状に対して臆しており、ここまで沈黙を保っていたリリスが大慌てでヒイロ第二王子殿下へと駆け寄っていく。
「な、何を……」
「さて、ローズ嬢」
いきなりの僕の行動によって困惑するローズ嬢へと僕は優しく声をかける。
「冤罪でここまで侮辱され、何もしないままで良いのか?……それが、たとえ王族であろうとも、な」
「……な、何を?」
「ローズ嬢。共に王家を転覆させぬか?」
「「「……ッ!?!?」」」
僕の言葉に全員が驚愕し、体を震わせるのだった。
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