第5話

 途中まで完全に僕が主役の座を奪っていたのだが、国王陛下並びにヒイロ第二王子の手によって半ば強引に注目を集めた結果、見事ヒイロ第二王子が主役の座に相応しい注目を浴びることに成功していた。


「……おいひぃ」

 

 既に僕の自身の役割を終えたと言えるだろう。

 この場に訪れた有力者との挨拶は済ませたし、実りのあるパーティーへとこの場を変えることが出来た。

 むしろ、これ以上でしゃばったら問題まである。

 なので、僕は交流タイムを終え、美味しく食事を楽しんでいた。


「ローズ!」


 そんな時だった。


「お前との婚約を破棄する」

 

 クソみたいなセリフが飛んできたのは。


「ど、どうしてですか!?」

 

 続く形で響く少女の美声。


「どうしてだとッ!貴様!ここに至ってもなおそのようなことを告げるか!知らぬとは言わせぬぞ!」

 

 僕が隅っこでむしゃむしゃ美味しくご飯食べている中、さっきまで僕の立っていた会場の中心で喜劇にして悲劇が繰り広げられていた。


「ローズがリリス嬢を虐めたということだ!」

 

 中心に立つのはヒイロ第二王子殿下と二人の少女。

 一人はヒイロ第二王子殿下の婚約者であるローズ・ノワール。

 そして、もう一人は大商会の娘であるリリス・イスタンブルであった……ヒイロ第二王子の隣に立つのがリリスであり、その対面に立つのがローズ嬢。

 今、ヒイロ第二王子がローズ嬢へとリリスへのいじめを理由に婚約の破棄を迫っているのだ。


 乙女ゲームでしか見ないような光景が今、僕の目の前に広がっているのだ。……実際にゲームでもこのシーンはあったし、こうなるであろうことは知っていたが、それでも実際に起きると驚愕を隠せないな。

 こんな公の場で婚約破棄を迫るなど考えられない、マジで。


 ちなみにゲームの主人公はヒイロである。

 こんな場で堂々と国内の圧倒的な有力者である侯爵家の娘との婚約破棄を断行する阿保が主人公である。

 究明のが有名になった最初の理由がこれだ。

 主人公の実に愚かしい婚約破棄から始まるゲームなどこれしかないだろう。

 ゲームにおけるストーリーの前半は主人公の行った馬鹿な婚約破棄の尻ぬぐいから始まるのだ、もう意味が分からない。


「わ、私はそんなことしていません!神に誓っても!」


「うるさい!既に俺はすべてを知っているんだ!今更何を言ったことところで俺の考えは変わらん!元より俺はお前を愛してなどいなかったのだ!」


「そ、そんな……」

 

 ヒイロ第二王子殿下の言葉を受け、ローズ嬢が膝から崩れ落ちて地面に尻もちをつく。


「……」

 

 突然の凶行。

 ヒイロ第二王子殿下の行った突然の凶行を前に多くの人がどう動くかを測りかねている者が多い。

 国王陛下も王妃陛下も呆気に取られており、うちの父親も残念ながらフリーズしてしまっている。

 

 そんな中で動く者たちもいた。

 まず、ローズの親であるノワール公爵ノイ閣下が激昂して飛び掛かろうとしたが、それは近くにいた騎士の二人が止めている。

 そして、ローエングリント侯爵家の当主とリリスの実家であるマキュライト商会から多額の援助金を貰っている金欠の貴族たちはヒイロ第二王子殿下の行為を容認するかのような動きを見せていた。


 件の人物であるヒイロ第二王子殿下とリリスは阿保であると言えるが、それでもバックにいる人間は無能ではない。

 この場は既に汚い大人たちの手によってコントロールされているのだ。


「実に聞くに堪えん」

 

 そんな中でやはり、動くべきなのは僕だろう。

 僕は再びこの場の主役となるべくこの場の中心に向かって歩き始める……あっ、手にチキンを持ったままだ、ど、どうしよう……く、食うか?

 うん、食べよう。

 食べながらの登場の方がヤバい奴感出るよね?


「お、お前は……」


「余はこんな茶番を見るためにこのような場へと赴いたのか?」

 

 たった今、食べ終えたチキンの骨を魔法で燃やし尽くした僕は堂々たる態度でローズ嬢の前に立ち、ヒイロ第二王子殿下の前へと立つのだった。

 

 

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