第4話

 孤児院から邸宅の方へと戻ってきた僕は父上から呼び出される形で父上の執務室へとやってきていた。


「急に呼びつけて悪かったな」


「いや、余からも用あったのでな。悪く思う必要はない」

 

 僕は自分の父上を相手に傲慢な態度を崩すことなくどこまでも尊大な態度で口を開く。


「それならば良かった……そうだな。まずはお前の要件から聞いていこうか」


「うむ。余が管理している孤児院のことだ。不運なことにあそこで管理している畑が雷に焼かれたそうでな。余の代わりに資金の援助をお願いしたい」


「なんだ、そんなことか。そんなことであればいくらでも金を出そう。元より孤児院などお前の金からではなく領地の運営資金より出すようなものであるからな。後でうちの文官を一人、孤児院の方に向かわそう」


 己の父上は善良な男であり、侯爵家の当主を務めるに値する有能な男である。

 個人の重要性も理解し、民の繁栄を願う優良な当主である父上は僕の言葉に快く頷いてくれる。


「うむ。頼んだぞ」


「あぁ、任せてくれ」


「それで?父上は余に何の用であったか?」


「既にお前も十歳だ。そろそろ社交界に出る頃合いであろう」

 

 僕に尋ねられた父上は本題を切り出す。


「うむ、確かにそうかもしれぬな」


「近々王都の方でパーティーが行われる」


「……パーティー?」

 

 僕は父上の言葉に首をかしげる……何か大きなパーティーなんてこの時期にあったっけ?

 侯爵家の長男にして次期当主候補である僕の社交界デビューの場となるとそこそこ大きなパーティーになると思うんだが……。


「学園の一年が終わるからな。今年は一年生として第二王子様が入学された年だ。国王陛下が息子が学園を一年無事に過ごせたことを祝うためのパーティーをしたいんだそうだ」

 

 アリーシア学園。

 それはこの国における教育機関であり、多くの貴族の子供たちが12歳から18歳までの六年間を過ごす場所である。

 ゲームの舞台もここだ……それにしてもそうか、もうそんな時期か。


「私たち侯爵家も含め、多くの貴族も参加するよう要請してきている」

 

 父上は少しばかり眉を顰めながら僕に向かってそう話す……普通はたかが学園を一年過ごしただけで大規模なパーティーはないだろう。

 普通に考えて……だが、それをやってしまうのが今の国王陛下である。


「……なるほど」


「まったく。最近の国王陛下は人使いが荒いというかなんというか……オルワルド宰相が亡くなられてからの国王陛下の無茶ぶりは何とかしてほしいところだ」

 

 現在の国王陛下は決して心の狭いではないのだが、決して有能とも言えない人なのだ。

 そんな国王陛下の手綱を握っていた宰相がお年ゆえに亡くなられてから国王陛下の残念な部分が嫌な形で活かされてしまい、何とも言えない状況になってしまっているのだ。


「っと、子供に愚痴るような内容ではなかったな。すまない」


「別に気にすることではない」


「それで話を本筋に戻すが、パーティーに赴いてくれるか?」


「良いだろう。もとよりいつかはデビューせねばならぬのだしな。特に意味もないパーティーを意味のあるものとしようではないか」


「……っ、あ、あぁ、よろしく頼む」


 僕の言葉に父上は頷くのであった。


 ■■■■■


 ゲーム『究明の箱岩』における舞台、レイスト王国。

 世界でも有数の大国に相応しい人々の強い活気に包まれる王都レイブルク。

 そのレイブルクの中心部にはこの国の栄華を示す巨大にして荘厳な王宮がそびえ立っている。

 そんな王宮において今、多くの貴族が集まる大規模なパーティーが開かれていた。


「ふむ」

 

 急なパーティーだったために参列出来ていない貴族も多いが、それでもかなりの数の重鎮が揃っている。

 主催者であるロンドル・レイスト国王陛下にその傍らを支える王妃、カタリーナ・レイスト閣下。 

 本日の主役であるヒイロ・レイスト第二王子。

 

 北の大地を支配せしノワール侯爵家当主であるロイ・ノワールとその長女であり、第二王子の婚約者であるローズ・ノワール。

 東の大地を支配せしローエングリント侯爵家当主であるノイ・ローエングリント。

 西の大地を支配せしコンロッド侯爵家における次期当主候補である長男、ミンスク・コンロッドにコンロッド侯爵家に最も近しい貴族であるオルリスト伯爵家の当主であるキンリスト・オルリスト。

 そして、南の大地を支配せしラインハルト侯爵家の当主であり、僕の父上であるオーズ・ラインハルトにその息子たる僕、アルス・ラインハルト。

 

 他にも国王陛下の叔父であられるアルバルス公爵閣下など言った多くの有力者にあまり金銭的に余裕の無い貴族家が多く集まっていた。

 子供の数は少ないが、それでもかなりの有力者がおり、僕にとっての社交界デビューの場としては申し分ないだろう。


「お初目にかかります。アルス卿。私はトンロ伯爵家の当主、ライス・オイシンゴと申します。以後、お見知りおきを」


「うむ。名は覚えたぞ。共に国を支える同士であり、先達者であるオイシンゴ伯爵とこうして同じ机を囲むことが出来て光栄である。これからもよろしく頼むぞ」


「もちろんにございます」

 

 ヒイロ第二王子の学園一年間お疲れ様パーティーという何とも言えない題目が掲げられている中、僕は誰よりも多くの貴族に囲まれていた。

 もはや僕が主人公としての立場を食い、本パーティーが僕の社交界デビューの場となる勢いであった。 

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