第3話

 前世においてごく平凡な生活を送っていた僕は実にしょーもない死に方をした結果、なぜかゲームの悪役であるアルスへと転生してしまった。

 これが零歳からの転生であれば良かったのだが、僕が僕として前世の記憶を取り戻したのが五歳の時の話であり、その年にしてアルスは既にもう終わっていた。

 

 性の目覚めなんて確実にないであろう五歳と言う年齢の中で多くのメイドへといたずらを繰り返し、スタイルの良いお姉さんが好みと言うゲスイ理由で可愛い婚約者をぞんざいに扱って多くの女を囲う畜生ぶり。

 とてもじゃないが五歳とは思えない……しかも、見事に囲んでいた女性はすべて何らかしらの金銭的な問題を持っていた人であり、僕が簡単に改心したことにして囲っていた女性を手放すわけにはいかないという問題まであったのだ。

 

 この時点で僕はもう改心した設定にすることを諦め、悪役路線を突き進むことにしたのだ。

 優秀な姉と比べられ、少なくない……いや、嘘だわ。結構少ないわ。そ、それでも少しくらいは劣等感を抱きながら真面目に生きてきた前世と比べて今世では好き勝手に悪役として我儘放題、女を囲むのも悪くないだろう。

 うむ。良い匂いの女に囲まれるのははっきり言って素晴らしい。

 

 こっちの人間がワキガの少ないアジア人寄りではなく欧米寄りなのか夏とかだと結構アポクリン汗腺と叫びたくなる匂いにもなるが、それでもそれが美女のものだと思うとご褒美……ちょっと蒸れた靴下を……。

 とまぁ、割と下衆い考えで悪役っぽさを維持しているわけであるが、僕は完全なる悪役貴族として動いているわけではない。


「アルス様。孤児院の院長より連絡がございます」


「うむ。何かね?」

 

 孤児院を運用してみたりと結構善行を行っているのである。

 貴族として許される程度の我儘、贅沢に収めておかないと断罪されかねないからね……ゲームのように自分の命を危機に晒してまでも無茶苦茶するつもりはない。

 

 僕は前世において若くして死んでしまったのだ。

 今世ではしっかりと長生きしたい。

 そのために僕は今、魔王を吸収することで最強となろうとしているのだ。

 最強になればある程度のフラグは折れるよね。

 とはいえ、それでも心配なのである程度善行は積んで味方を増やしていくべく色々と行動するけどね。味方の数は強さに直結する。


「何の用だと?」


「作物があまり育っていないんだそうです」

 

 自分に孤児院からの連絡があることを知らせてきたメイドが僕の言葉に答える。


「それは不味いな……良し、実際に行ってみることにしよう。この後の余の予定をすべてキャンセルせよ」


「承知しました」

  

 僕の言葉にメイドの一人が頷く。


「それでは行くぞ、馬車を出せ」


「承知いたしました」

 

 僕は孤児院へと向かうべく立ち上がるのだった。


 ■■■■■


 ラインハルト侯爵領。

 そのお膝元の領地の中心地であり、侯爵邸まである大都市、ラインの一角に僕の建てた孤児院がそびえ立っている。


「なるほど……それは、単純に不運であるな」

 

 ラインの一等地からは離れたところにある己が出資から建設、管理まで手掛けている孤児院へとやってきた僕はここを管理しているシスターからの話を聞いていた。

 

 ちなみにだが、この孤児院の話には年々影響力を拡大している教会勢力との駆け引きもあってある程度彼らも噛んできており、その影響でシスターが孤児院の院長をやっているのである。


「そうなんです………まさか、雷が畑に直撃するとは」

 

 ここに来てシスターからの話によると、ここの孤児院で作っていた小さな畑へと最近あった雷雨の雷が直撃したようで、すべての作物がダメになってしまったようなのだ。

 

 畑が焼け野原になるのは普通に痛手である。

 この孤児院を支えている財源のメインは僕からの支援金であるが、孤児院も小さいながらも様々なことをやってお金を稼いで維持費を稼いでくれている。

 その中でも畑が最も大きな財源であり、それがなくなるのはかなりの痛手なのだ。


「損失額はかなりのものか?」


「……はい」

 

 僕の言葉にシスターは悲痛な表情を浮かべて頷く。


「まだ、余も10である。いくら恵まれた立場にあり、多くの事業を展開し始めている身とは言え、やはりそこまでの稼ぎを得られているわけではない。湯水のようには出せぬ。教会からはどうであるか?」


「……」

 

 シスターは僕の言葉に答えないが、その表情が全てを物語っていた。

 教会からの支援金は見込めない、か……まぁ、ある程度は予想通りだな。影響力と共に腐敗の進む教会が快く孤児院なんぞに金は出さないであろう。


「ふぅむ……金は?」


「おそらく、かなりかかるでしょう。元々この孤児院に身を寄せる子供の数も増加しており、かなりかつかつだったのです。そんな状態での雷だったですから。損失を埋め、また一から始めるのにもかなりの金額に必要になってくるでしょう。種もそこまで安いものではないですから……それに、今回の雷雨で最も被害を負ったのは畑ですが、それ以外も少しは被害を受けていまして」

 

「なるほど、余だけでは無理であるな」

 

 僕はありあまる貴族としての権力とケチな父上から与えられる小遣いを使って事業を展開している過渡期であり、そこまでの金を出せるわけではない。

 今回の補填を僕一人で行うのは無理だろう。


「父上にも掛け合ってみよう」


「……ありがとうございます」

 

 僕の言葉を聞いたシスターは深々と頭を下げるのだった……良い良い、これもすべては僕の名声アップ並びにフラグ折りのためだからね!

 

 

 

 

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