第2話
究明の箱庭におけるラスボスである魔族を率いた魔王の初出は人類社会で暗躍する魔族の一人が封印を解いた時だ。
魔王は遥か古代に行われた勇者との争いに敗北し、長らくの時を封印されていたのだ。
「ふんふんふーん」
本来であれば今よりしばらく後に自身の配下である魔族の手によって解放されることになっている魔王。
『な、何をするつもりだァ!!!貴様!』
そんな魔王は今、僕の前でその体をバラバラの状態にして地面へとぶちまけ、首は鎖につながれて宙にぶら下がっていた。
地面に転がる魔物の体はとても人間とは思えぬ異形の者であり、それは首も同様であり、見る者すべてに恐怖を与えそうな見た目をしているが、それでもここまで無残な姿となれば流石に恐怖を覚えることはない。
「そんな不思議なことではないでしょ?人類の敵である魔王を処す。実に模範的だ」
ゲームの設定集で魔王の復活法も封印されていた場所も詳しく描写されていたし、完全に力を取り戻す前の状態で復活させる方法まで記されていた。
前世より持ち込んだその情報でもって魔王を魔族の手よりも先に驚くほどに弱体化した状態で復活させて、フルボッコにしてから僕は自分の秘密基地に持ち込み、彼を地面にぶちまけ、首は念入りに封印を施して宙にぶら下げたのだ。
『ぐ、ぐぬぅ……我をどうするつもりだ!?これだけ解体し、無様を晒させぇ!!!貴様の顔を!声!決して我は忘れぬぞぉ!何があろうとも、どれだけの月日が経とうとも忘れぬ!貴様の末代、親戚筋、友人。その何もかもをどれだけの時を要しようともなぶり殺しにしてくれるわ!』
魔王は首だけになろうとも決して弱気になることはなく
「じゃあ、殺すまでだよ」
『たわけ!貴様如きがどう倒すというのか!かっかっか、汝に残された道はただ自分の行いを悔い、生涯震えることのみよ!我は死なぬ!残念であったな!』
魔王はかなり特殊な生態をしており、その生命を殺しきるには特別な力が必要であり、今の僕が普通の手段で魔王を殺すことは出来ないだろう。
このままでは時が経てば経つほど徐々に力を取り戻す魔王が僕の施した封印を破り、復活してしまうだろう。
「え?そりゃもう食べてよ」
だが、僕とて馬鹿ではない。
しっかりと攻略法は用意してある。
殺せないのであれば食べてしまえばいい。
僕の体に取り込み、その力も性質も、悉くを吸収してしまえば何も問題はなくなる。
『ふっ!下らぬ真似をッ!我が肉体を脆弱なる人類に消化できるわけがないだろうッ!!!』
魔王の血肉はたとえ、本体から絶たれようとも決して薄れることのない魔王の意思が、魂の残滓が残り、魔王の血肉を取り込んだ人間の内部から支配してしまうのだ。
「え?だから魔王の肉体に宿る些細な意思を殺そうとしているんでしょ?」
だがしかし、だとしても何ら問題はない。
僕は魔王の小さな肉をミキサーへと入れ、ぐちゃぐちゃにかき混ぜていく。
『のぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!?我が肉体よ!?』
肉片が小さくなればなるほどその肉片に宿る魔王の意思も魂の力も低下するし……肉体にずっと負荷を与え続ければ魔王もその精神を無事とすることは出来ない。
死んだ方がマシだと思うような状況に落とし続ければ魔王の血肉に残る魔王の意思も、魂の残滓も擦切らせた状態で取り込めば何ら問題ない。
運営もこの方法ならば魔王を殺し切ることが出来ると明言していた。
どっかの最強系主人公のアニメとゲーム内でコラボしたとき、魔王が年単位でひたすらボコされ続け、心が折れて魔王が消滅するというとんでもルートが見れた。
この方法ならば確実に魔王を殺し切るだろう。
『お、お、お、お主!?お主は鬼かァ!?』
僕の凶行に対して悲鳴を上げる魔王を横目にミキサーにかけられたドロドロに溶かされた魔王の指を自分の喉に流し込んでいく……うん。問題ない。
魔王は確実に自分の中へと溶けて消えていった。
「魔王には言われたくはないなぁー」
しっかりと魔王を消化出来ることを確認した僕は魔王の肉体を少しずつミキサーにかけていく。
魔王殺しのレパートリーはミキサーだけではない。
溺死(はちみつ漬け)焼死(野菜炒め)殴殺(なめろう)などなど。
圧倒的なレパートリーの多さでもって魔王の肉体に宿る意思を殺し、その姿を料理へと変えていく。
『……今ならば、許してやるぞ?』
自分の体がぐちゃぐちゃにされていくところを何も出来ずにただ眺めることしか出来ない魔王は震える声で、それでも上から目線は崩さずに口を開く。
「はっ!」
魔王の肉で作った多くの料理を机に並べながら僕は魔王の言葉を鼻で笑う。
『ぬぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』
鼻で笑われて発狂している魔王を横目に料理の準備を終えた僕は席に座り、自分で作った箸を握る。
「やはり酒。料理にはビールしかない……もうなめろうとお酒の相性は本当に最高」
魔王の肉の味にはかなり心配していたのだが、味は淡泊でありながらも旨味はしっかりとあり、どの料理にも抜群に合って普通に美味しい。
「かぁー!!!まだ子供だが酒の魅力に逆らえねぇぜ!キンキンに冷えたビールはもう至高!!!あぁー!」
僕は酒を喉に流し込み、声を漏らす。
『こ、この。この我がぁ……まるでおっさんみたいなガキの酒のつまみにぃ……おぉん!!!』
晩酌を楽しむ僕を見て魔王が半泣きとなりながら震える声を漏らす……それにしてもしくじったな。魔王の肉が美味しすぎて全然箸が止まらん。
このままいくと用意された夕食を食べる胃の容量がなくなってしまう。
まぁ、用意させた夕食は周りの人間にでもあげればいいだろう。
あとがき
なめろうは僕の生誕地たる千葉の郷土料理。美味しいから作ってみたり、千葉に来てお店のを食べてみて!
ちな、酒飲んだことないから酒となめろうが合うのかは不明。
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