第193話 緩衝地帯の別の村

 隣領の旧ダーマス領でオーウェン第三王子が代官の不正を追及している頃。


 エルダーロックの街は、急成長を続けている。


 一番の理由は人口の増加だ。


 人なくして発展はないのである。


 エルダーロックの街はその点、未だにバルバロス王国で差別を受ける他種族が流れ込んできていた。


 とはいえ、以前ほどではなくなっている。


 それは、同じく緩衝地帯に出来たという村が原因であった。


 どうやら、エルダーロックの街について良からぬ噂が一部広まっており、それを鵜呑みにした他種族が、もう一つの村に人が流れているらしいのである。


 だからその村は現在人口を大きく増やしていた。


 大鼠族の商人から聞いた話では、すでに千人を越えているらしい。


 その中心にいるのは、エルダーロックの街で受け入れを拒否された熊人族だという。


 熊人族は、ドワーフの文化を受け入れる姿勢を見せないどころか見下し、そして自分達の文化を誇り、それを尊重するように要求してきたものだから、街長ヨーゼフが移住を拒否したのである。


 当然ながら、エルダーロックの街はドワーフが苦労して築き上げたものであり、その基盤はドワーフの文化が中心となっている。


 その中で、大鼠族やエルフ、獣人族が共生しているのであり、それが出来ない協調性のない者を受け入れる程、街長ヨーゼフも愚かではない。


 だから、熊人族は拒否され、北の方の緩衝地帯に村を作ったのだ。


 そして、熊人族が最初にやったことと言えば、ドワーフの悪口を広める事であった。


 行く先々でエルダーロックの街はドワーフの文化を強制してくるところであり、それに従わない脅威になる種族は受け入れない野蛮で卑しい連中なのだと。


 自分達はそんなモグラ共(ドワーフの蔑称)に反発し、他種族が真に共生できる村を作った。まだ、貧乏な村ではあるが、助け合えば何とでもなる。村を大きくしてモグラ共に一泡吹かせよう!


 といった具合に、悪評を広めて、移住者を集めているようだ。


 そして、全国の裕福な他種族に対して寄付金も募っており、それで村を維持しているらしい。


 エルダーロックにしたら、とんでもないデマ情報だから否定しているのだが、悪評というのは広まりやすい。


 特に自分達が移住する先として考えるうえで、不安を覚える情報となるとなおさらである。


 その為、エルダーロックの街への移住者の数が最近減っているのであった。



「移住者が減るのは別に構わないが、悪評が広がっているのは、迷惑な話だな」


 街長邸でヨーゼフが街会議の席でそうぼやいた。


「その熊人族の村とはどういうところなんでしょうか? ここより、いいところなんですか?」


 コウが当然の疑問を口にした。


 コウとしては、ドワーフや大鼠族を中心に一から作った村である。


 元は、住むのに難しい土地であった場所を、苦労して住みやすくしたので愛着もあるから、それよりも熊人族の村を選んで移住する者が多いという事に興味を持つのであった。


「俺も気になって仕事で近くに寄った時、偵察に行ったんだけどさ。村の手前の検問所で追い返されたよ。ドワーフと大鼠族は全面的に立ち入り禁止だとさ」


 丁度この日、帰ってきた大鼠族のヨースが、コウの疑問に答えた。


「ここで受け入れなかった事を凄く根に持っている対応だね……。言っている事とやっている事がずいぶん違う気が……」


 コウはヨースの報告内容に呆れる。


「あの時、代表者と面会をして移住目的など話を色々聞いたが、自分達に余程の誇りを持っているからか、それ以外の他種族や俺達ドワーフや大鼠族の事を見下している様子があった。私は今でもあの連中を受け入れなくて良かったと思っているよ」


 街長ヨーゼフが当時の事を思い出して、そう断言した。


 街長ヨーゼフはドワーフである事に誇りを持っている一方で、誰に対しても公平な態度を取っている人物だ。


 大鼠族と共存しながらの村作りをした時点でそれがよくわかるというものである。


 そのヨーゼフが嫌う相手となるとよっぽどの相手だろう。


「ヨーゼフさん、熊人族の村の様子を見に行ってもいいでしょうか? 移住者達がどんな生活を送っているのかも気になりますし、参考になる事があるなら、エルダーロックの街の為にもなるかなと」


 コウは、人族から同じように差別されている他種族の人々が安息の地を見つけられるのであれば、それで問題はないと思っている。


 熊人族がドワーフ達に評判の悪い種族であっても、他種族の扱いが良ければそれはそれだ。


 種族としてそりが合わない相手というのは当然いるし、同じドワーフ同士でも性格が合わないなんて事はよくある事である。


 もし、熊人族の村がこの街のように、他種族にとっても生きやすい場所になっているのなら、そりが合わないにしても、何かしらの協力体制は取れるかもしれない。


 今は、コボルトの村の事もあるし、味方は多い方が良いと思っているコウだから、一度、熊人族の村を見ておきたいと思うのであった。


「……うむ。コウの言う事ももっともだな。私個人の好き嫌いだけで、完全に縁を切るのは良くないかもしれない。──よし、あちらがドワーフ嫌いでもお前はドワーフには見えないし、村には入れるかもしれない。改めて話が出来そうな様子か探ってきてくれ」


「はい!」


 コウは街長ヨーゼフの柔軟な考えに二つ返事で承諾する。


 この後も、農地拡大の進み具合や、鉱山の採掘量についてや、ヤカー牧場での育成や調教状況、剣歯虎部隊によるアイダーノ山脈地帯の地図作成の進行状況などが報告されて会議を終了するのであった。


 そして、コウは早速、熊人族の村に向かべく旅支度を始める事にした。


 今回はドワーフや大鼠族は連れて行けない。


 一応、街長の娘カイナはドワーフだが、コウと同様、見た目がドワーフの特徴から外れていたから気づかれないだろうという事で、同行を許可することにした。


 あとは、当然ながら、同居人であるダークエルフのララノアもいつも通り一緒である。


 他には剣歯虎のベル、そして、コボルトの若者レトリーも同行する事になった。


 レトリーはコウと同様、他所の村に興味があるという事で立候補したのだ。


 こうして、コウ、ララノア、カイナ、ベル、レトリーというメンバーで熊人族の村に向かう事が決定し、旅の支度を始めるのであった。

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         あとがき


ここまで読んで頂きありがとうございます。


先週の新作1本目に引き続き、今週金曜日から新作2本目の投稿が始まっております。


こちらは作者の作風とはちょっと毛色が違うものとなっておりますが、読んで頂けたら幸いです。


また、作品のフォロー、レビュー★、いいね♥、コメントなど頂けましたら作者が間違いなく喜びますので、よろしくお願い致します<(*_ _)>


「異世界童話禁忌目次録(副題略)」

https://kakuyomu.jp/works/16818093084547438520


あ、ついでになりますが、この「転生!底辺ドワーフの下克上(副題略)」の方も、今後ともよろしくお願い致します<(*_ _)>

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