第184話 中央王都・三王家会議
ヘレネス連邦王国中央王都。
ここには、三つの王家が国のトップとして君臨しており、選ばれた者だけが住むことを許されている。
土地は豊作続きに恵まれており、治安も良いから、国民はこの中央王都に憧れを持つ者は多い。
地方からこの土地に移り住もうと思ったら、それなりの移住税が求められるし、もとより国への貢献度を調べられる。
住んでいた土地の役人からの推薦や報告書、犯罪歴、評判などを事細かに調査されるのだ。
それ以外の者は中央王都短期滞在証明書が必要だったし、その滞在中は高い税金がかかる。
例えば、宿屋代や食事代、通行代、馬車代など地元の者の倍以上を料金として取られるのだ。
そんなよそ者には厳しいが、一度移り住むことが出来たら、地上の楽園と言われている中央王都の王宮において、ある議題が問題になっていた。
それが、セイレイン王領南東の緩衝地帯におけるコボルトの村討伐未遂である。
セイレイン王領を代理統治しているザイン・セイレインから、地方軍が敗北したので中央軍派遣を求める嘆願書が送られてきたから、地方軍の敗北の責任の所在と中央軍派遣の是非、そして、指揮官の選定などで揉めていたのだ。
まず、地方軍敗北の責任については、キリス王家とカーミル王家が当然ながら、セイレイン王家にあると主張、セイレイン王家は、三王家で指揮官を決定したのだから責任は中央王家全体の問題であると反論していた。
さらに、中央軍の派遣については、緩衝地帯の村に対して動かせば、隣国であるバルバロス王国を刺激するのではないかという意見が出ている。
それならば、また、地方軍を派遣する方が、まだ、言い訳はいくらでもできるだろうというのが、穏健派の総意だ。
「中央軍大元帥殿の意見を聞こうではないか。我ら王家も
三王家議会の今回議長を務めているキリス王家が、話がまとまらないので、専門家に意見を促す。
「それでは、私の意見を。今回は、中央軍の精鋭を派遣して即座に地方軍の仇を取ることが肝要かと思われます。そうすることでヘレネス連邦王国の信用を取り戻すことになるかと。それに、地方軍とはいえ五百の兵を殲滅させた敵は侮れないかと思います」
「中央軍を動かすのは、最後ではないか? 地方軍二千程を招集して再度攻めさせればよいのではないか」
カーミル王家が大元帥の意見に反論した。
どうやら、また、セイレイン王家だけに負担をかけさせようという魂胆にも聞こえる。
「コボルトごときに地方軍とはいえ二千もの兵士を動かしてはセイレイン王家の政権維持に影響が出るではないか! それに、軍の精兵は中央に集結している。こういう時こそ、三王家の責任で中央軍を動かすことが必要な行動だろう!」
セイレイン王家は、カーミル王家の魂胆に気づいて反論した。
「よろしいですかな? 軍を任されている者として、ご指摘をさせて頂くと、前回の地方軍派遣時の指揮官任命は、この三王家会議で決定されたことです。つまり、責任は三王家にあると考えます。だからこそ、その責任を取るべく、中央軍を派遣し緩衝地帯の心配事を即座に絶つことが肝要かと思われます。それに……、前回の指揮官は、進軍途中にコボルトの村討伐を喧伝しながら進むという愚かな行為がありました。あれでは先手を取るどころか、到着までに迎撃準備を整えてください、と言っているようなもの。当人が戦死しているので屍に鞭打つような行為はしたくありませんが、負けて当然でした。ですから、今回は、中央軍による疾風迅雷の如き速やかな進軍を行い、圧倒的な力で制圧することが、ヘレネス連邦王国の武威を示すにふさわしいかと思います」
大元帥は、歯に衣着せぬ物言いでそう告げると、着席した。
三王家の責任を指摘された王家の者達は、しばし沈黙するのであったが、話をそこから逸らす為に具体的な質問をカーミル王家の者がする。
「そ、それでは大元帥殿。軍の指揮官と軍の編制はどうした方が良いと思う? 中央軍と言っても各三王家近衛騎士団や虎の子のヘレネス連邦王国六騎士団。主力であるヘレネス十二翼戦士団などがいる。やはり、十二翼戦士──」
「六騎士団でよろしいかと思います」
大元帥は、意見を言い終わられる前に、そう答えた。
「ろ、六騎士団!? 正気か大元帥殿!? 十二翼戦士団の十翼から十二翼くらいで十分であろう!? 六騎士団はこの中央軍において精鋭中の精鋭であるぞ!? それを緩衝地帯のたかがコボルトの村相手に差し向けるなど──」
「だからこそです。緩衝地帯での揉め事は、長引けば隣国に軍を動かさせる口実を与える事になりかねません。それでは外交上、良くないことは、軍人である私でもわかること。それに相手をコボルトと甘く見て、もし、十二翼戦士団まで敗北するようなことがあれば、他国からこの国を侮られることになりかねませんぞ?」
「「「むむっ……」」」
各王家の者達は、もっともな意見を名将と呼び声高い大元帥に指摘されて反論できない。
「そ、それでは、六騎士団のどの騎士団が派遣するに相応しいと思うのだ? それにその数は? 指揮官もそれ相応の者ではないといけないぞ?」
セイレイン王家の者が、三王家を代表して大元帥に意見を求めた。
軍事において、大元帥の意見は非常に重いから王家も無闇に反論しないで聞く。
「今回は六騎士団の中でも氷の精霊騎士団千騎でよろしいかと思われます。セイレイン王領地方軍の敗北が発端ですから、そのセイレイン王領出身の彼らも自領の名誉回復の為に、奮起する事でしょう。そして、指揮官は、その騎士団で現在もっとも勢いのある若手騎士、アイスマンが相応しいのではないですかな」
大元帥は、若手の育成も兼ねてだろう期待している若手の騎士を指名した。
これには、セイレイン王家の者達が誰も反対することなく納得する。
大元帥の選択は実に納得がいくものだったからだ。
「それなら、我らも反対する理由がないな。だが、氷の精霊騎士団を千騎もとはな。……いや、なるほど……。国内のコボルト達に余計な希望を与えない為の選択だな? さすが大元帥殿、考えたな」
カーミル王家の者が大元帥の深い考えに納得したように頷く。
「そういうことか……。うむ、それならばキリス王家も賛成するかのう。セイレイン王家も納得であろう? それでは、議長として大元帥の意見を全会一致で承認する。それでは軍派遣の予算についてだが──」
こうして三王家会議において、コウの予想通り、いや、予想以上の反応をもって中央軍が派遣されることになるのであった。
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