第167話 打ち合わせの会合

五つ星ファイブスター』についていた尾行については、コウがその仲間が宿泊している宿を突き止め、監視に、ダークエルフのララノアの契約精霊であるフロスを付けた。


 フロスはコウ達と会話することができないが、契約者であるララノアとは意思疎通ができる。


 それに、氷の精霊ということで、普段はその姿を消しており、氷の粒程度の大きさで浮遊しているから、尾行者の監視にはもってこいであった。


 半日ほど、監視させてから戻って来たフロスは、いくつかの情報をララノアにもたらした。


「……そうなの? わかったわ。──コウ、尾行者は雇われの冒険者達なんですって。数は五人。コウが巻いたのはそのうちの二人らしいわ。雇い主については、口にしてくれないからわからなかったみたいなのだけど、街の外で他に雇われた者達が待機しているそうよ。──フロス、ありがとう」


 ララノアはフロスからいくつかの情報を聞き出すと、感謝する。


 フロスはララノアの役に立てて嬉しかったのだろう、空中で一回転してフワフワと舞うと、その場から消えた。


「冒険者の五人は、『五つ星』と僕達の情報集めが任務なんだろうけど、街の外に待機している人達というのが、気になるね」


「私も違和感を感じるわ。街の外に待機するということは、その存在を知られたくないということでしょ? それって、別の目的があるからよね?」


 街長の娘カイナが引っ掛かったことを口にした。


「別の目的ですか?」


 犬人族の鍛冶師であるシバが、想像ができないのか首を傾げた。


「こちらの情報を入手すること以外の目的があるということよ」


 ララノアが、シバの疑問に答えるように、そう告げた。


「だろうね。それが僕達に接触する為だけなら、少数。大人数だったら誘拐もしくは襲撃かな? でも、それは『五つ星』も同じか……。──いや、『五つ星』は、会長のゴセイさんが来ているはずだから、もし大人数が待機している場合は、あっちを狙っていることも予想できるね」


 コウはみんなの指摘を聞いて、冷静に分析する。


「どうするのコウ? 明日の会合は中止にする?」


 ララノアは、人数次第では危険な可能性がある以上、こちらは姿を現さない方がいいのではないかと匂わせた。


「一応、フロスには引き続き、街の外で待機してるという人達の様子がわかるくらいには、尾行の冒険者を監視してもらっていいかな? 僕達は二手に分かれよう。僕はシバと二人、仮面姿で会合場所に向かい、ララとカイナ、ベルは引き続き情報収集をお願い」


「「「わかったわ!(はい!)(ニャウ!)」」」


 コウの提案に一同は理解を示すと、明日の会合に備えるのであった。



 工房での会合当日。


 コウとシバは、フード付き外套を着て、正体を隠し、工房を訪れた。


 そこにはすでに『五つ星』の会長ゴセイと幹部二人に職人三名、あとは護衛が十名という大所帯でやってきていた。


「二人共、よく来てくれた。──……すまないな。結局、尾行に張り付かれた状態でやることになってしまった」


 会長ゴセイは、軽い挨拶をすると、コウとシバの様子から察して、まずは謝罪するところから入った。


「いえ、ゴセイさんも大変ですね。僕達は少数なので尾行されても巻く自信があるから問題ありません。──それでは早速、仕事の話に入りましょうか」


 コウは、そう言うと、工房内に入っていく。


 会長ゴセイもそれにつられて室内に入っていった。


 護衛は、工房の周囲に展開し、音が外部に漏れないように結界を張る。


 そして、尾行者達を近づかせないように配置につく。


 これで少なくとも、仕事の内容が漏れることはないだろう。


 その辺りはさすが、大手ブランド商会の会長というところであった。


 コウはその辺りも含めて、ゴセイのことは信用しているので、魔法収納鞄から、試作品である近衛騎士団の装備一式を出してて説明に移る。


 会長ゴセイや幹部、職人達も持参した試作品を出してお互いの完成度を確認し、すり合わせを行う。


 お互い基本はデザイン通りに作成しているものの、職人としてのこだわりを見せた部分や仕上げの度合いで違ってくる部分も生まれているからだ。


「……ほう。このつなぎ目の部分、そのように仕上げたのですか……。『コウテツ』さんは、甲冑製作が初めてと聞いていましたが、実に実戦向けですな……」


「確かに……。このデザインの部分などはうちと少し違い、角の部分を削って丸みをもたせ、着衣などが引っ掛からないようにしてあります。仕事が細かいですよ」


「そして、この剣の刀身……。さすが『コウテツ』さんだ。きっちり一般団員用は六等級に仕上げ、団長、隊長クラス用も三等級で揃えて見事な造りです……。やりますね……」


『五つ星』職人達は、『コウテツ』側の仕上げの細かい部分にすぐに気づくと称賛して唸るのであった。


「……参ったな。デザインを決めた立場としては、こちらに寄せてもらうつもりでこの会合を開いたつもりなんだが、職人達はそうでないようだ」


 会長ゴセイは自分のところの職人達が、素直に『コウテツ』側の完成度に唸っているのを見ると、苦笑してそうぼやく。


 それを聞いて職人達はハッとすると、赤面して起立する。


「会長、どうしましょうか? この完成度だと悔しいですが、うちが『コウテツ』側に寄せて修正した方が、完成度は上がりそうですよ?」


 幹部も元職人なのだろうか、『コウテツ』側の完成度を評価してそう口にした。


「そうだな。──『コウテツ』さんのものを完成型とし、それを本採用にしよう。こ……、『コウテツ』さんには、細部の説明を職人達にしてもらいたいが、いいかな?」


 会長ゴセイはコウの名を言いそうになったが、誰が聞き耳を立てているかわからない以上、極力、個人名は口にしないのであった。


 コウとシバは相手の職人達に仕上げの仕方や、拘りについて説明し、職人達は一人がその説明を紙に記録して、もう一人が質問をする。


 そして最後の一人が、コウ達の説明を受けて技術の習得に努めるという形で終始、話が進むのであった。



「さすが、『コウテツ』さんだ。──あとは、担当分の二百五十組を期日までに完成させられるかだが……。何度も聞いて悪いが、その辺りは本当に大丈夫なのか?」


 会長ゴセイは技術面では『コウテツ』ブランドに疑問を持っていない。


 だが、生産力となると、ぽっと出の『コウテツ』ブランド単体で大口の仕事をできるのかは未だに疑問が残るところではあるのだ。


「その点も以前申し上げた通り、職人(ゴーレム)も大幅増員して昼夜問わず働いてくれるので問題ないですよ?」


 コウは、会長ゴセイを安心させようと、笑顔でそう答えるのであった。


「昼夜問わず、……か(ゴクリッ)」


 しかし、会長ゴセイの方は、その昼夜問わずの文言から、コウの爽やかな笑顔が恐ろしく感じてしまい、少したじろいてしまうのであったが、それはコウも気づかないのであった。

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