第165話 試作品の製作

 コウと鍛冶師のイッテツが中心の『コウテツ』ブランドは、早速、『五つ星ファイブスター』との合同による作製に入った。


 今回は依頼主が王家であり、近衛騎士団に納品するということで、試作品をまず作り、それを『五つ星』側の試作品とすり合わせをして、決定したものを増産することになっている。


 何しろ国の顔である近衛騎士団の主装備品であるから、前回のように製作者同士の感性のままに作り上げるというわけにもいかないのだ。


 コウとイッテツ、そして、犬人族の鍛冶師シバを中心に試作品は、決められたデザインを元に数点作られる。


「イッテツさん、一般隊員用の剣は、これでいいですか?」


 コウがデザインの書かれた設計図と見比べながら、作り上げたものをイッテツに見せた。


「どれどれ……。──ふむ。これでいいんじゃないか? 仕上げもかなりいいし、問題ないだろう。──腕を上げたな、コウ」


 イッテツはコウが作った試作の剣を、いろんな角度から見て確認すると褒める。


 滅多に褒めることがないイッテツだから、コウはおろか、シバや他の職人達も、


「「「おお!」」」


 と歓声を上げた。


「何を喜んでいやがる! お前らも感心していないで、甲冑の方を仕上げないか! 試作とはいえ『五つ星』とそれを基に、話を詰めないといけないんだぞ!」


 イッテツは照れもあり、職人達を怒鳴ってみせたが、実際、近衛騎士団の一般団員の装備一式は、剣だけでなく、兜を含めた鎧一式、盾や槍も含まれる。


『コウテツ』ブランドの担当は、一般団員用装備一式を六等級以上・魔鉱鉄製で二百五十組。


 団長、副団長、百人隊長二人の合計四組は、三等級・超魔鉱鉄製で作らなければならない。


 この量の魔鉱鉄製以上のものは、大手ブランドでも大変な作業なのに、『コウテツ』のような出来て日が浅いブランドが、引き受けられるものではないのだ。


 それが可能なのも、コウが地下から持ち帰って来た汎用労働型ゴーレムの存在があってこそである。


『五つ星』も当初は、『コウテツ』への依頼は、団長、隊長クラスの十数組のつもりであったのが、「職人達(ゴーレム)が昼夜問わずやれば、可能」といった闇を抱えていそうな発言をコウがしたので、『五つ星』も半分近くの生産を任せることにしたのだ。


「はははっ! それじゃあ、僕は、残りの槍の方も仕上げてしまいますね」


 コウはイッテツの言葉に笑うと疲れを見せず、そう答える。


「ああ。儂も兜と盾の方は仕上がったからな。鎧の方を手伝うか」


 イッテツもコウのやる気に奮起すると、シバ達を手伝うのであった。



 こうして、団長、隊長クラスの装備一式と一般団員用一式の二組をデザイン通りに各試作品を仕上げ、コウはシバと共に、『五つ星』との会合場所である前回と同じ『チュケイ』の街に向かう準備をする。


「ララ、今回も行く? 一応、今回は僕とシバが、『コウテツ』側の代表として向かうつもりでいるのだけど」


 コウは同居人であるダークエルフのララノアに確認を取った。


「もちろん行くわよ? カイナもそのつもりで、準備しているみたいだし」


 ララノアはそう言うと、自室から準備を済ませた背負い袋を持ってきてそれを示した。


「わかった、それじゃあ、僕とシバ、そして、ベルにララとカイナだね」


 コウは指を折って人数を確認する。


「えっ? ──ヨースは?」


 ララノアは当然ながら、『マウス総合商会』代表として大鼠族のヨースは必ず行くものと思っていたので、軽く驚いて聞き返す。


「ヨースは、仕事だよ。この街に猫妖精族ケット・シーのジトラが来てくれたから、他所にその為の営業に出かけるって」


 コウは少しおかしそうに答えた。


 それもそうだろう。


 世間では有名な天敵とされていた猫妖精族の為に、大鼠族のヨースが営業するとは誰も思わないからだ。


「世間がそう思っても実際は、噂が独り歩きしていただけなんでしょ? 実際、この街でジトラによって、大鼠族が被害を受けたなんて話、未だに聞こえてこないじゃない」


 ララノアはジトラと仲良くしていることもあり、偏見は全くない。


 それに、ジトラも念の為にと、大鼠族を避けるような生活をしているし、毛が飛ばないようにブラッシングもまめにしていることを知っていたから、大鼠族との間に問題が起きないようにララノアも注意を心掛けていた。


「そうなんだけどね。最初は一番警戒していたヨースが、今では一番の理解者になっているなぁと思うとおかしいなって」


 コウは、嬉しそうに応じた。


「確かにそれはそうね。でも、ヨースはベルの時もそうだけど、理解のある大鼠族だと思うわ。──そう言えば、ヨースって彼女いないのかしら?」


 ララノアはコウに賛同すると、頼りになる友人の恋人関係について疑問を口にした。


「ヨースの話では、旅先に沢山彼女はいるらしいよ? どこまで本当かはわからないけど」


 コウは本人から酒の席で聞いた話を披露した。


「そう言えば、言ってたわね……。でも、あれはただの冗談かと思ってたわ」


 ララノアも思い出したように、答える。


「はははっ! 本人曰く、『大鼠族の間では、俺はイケメンで通っているからな。商売でも成功しているし、モテないわけないだろ』と言ってたから、信じてあげよう」


 コウは笑って、友人の自尊心の為に代弁した。


「それならいいのだけど……。──コウはどうなの?」


 ララノアはヨースは心配する必要がないと思うと、同居人の心配に移る。


「え、僕!? ──……僕はモテないからなぁ。ドワーフとしては髭なしだし、がっちり体形でもないから、同族から見たらその姿は『半人前』のままだからね。他の種族からは対象外だろうし色々と難しいのかもしれない」


 コウは思わぬ流れ弾に、困るのであったが実情を語った。


「そうかしら? コウを尊敬する人はいるし、この街の英雄として扱ってくれているから、近づきがたいだけじゃない? ──まあ、いつも私やカイナが傍にいるというのも原因かもしれないけど……。(そう言えば、カイナはどう思ってるのかしら?)」


 ララノアは友人として、コウがこの街の英雄として立派な人物であることを理解している。


 だからこそ、彼女ができないことについてはあまり、心配していない。


 ただ友人として、カイナとコウがどう思っているのかを考えると、よく知らなかったから、そこは気になるところだったのだ。


「そう言ってくれるのは、ダンカンさん達とララだけだよ」


 コウは苦笑すると、この魅力的な友人の心遣いに感謝する。


 こんな他愛もない話をしつつ、チュケイの街に出かける準備は整うのであった。

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