第163話 村の完成
人海戦術を駆使したエルダー高原の村の建築は、半月程であっという間にその形が出来上がった。
やはり、千人近い数で分担して行うと、すぐである。
それに、コウが地下より持ち込んだゴーレムの活躍が大きい。
今回、この村の道づくりから整地、家の基礎作りなどはこのゴーレムが昼夜問わず動いてくれたのだ。
ゴーレムは当然ながら、指示を出したら魔力切れするまで忠実に動いてくれるからありがたい。
当然、魔力切れしたら、魔核を交換するか、魔力を込め直さないといけないのだが、その作業はさほど大変ではないし、まとめてコウがやることもあったので、ゴーレムの存在は大きいのであった。
「これで、エルダー高原の村は完成だな」
村長として赴任することが決まっている農業ドワーフのヨサクが、やる気十分といった感じでそう告げた。
「ヨサクさん、これからが本番ですよ。まずは、モモの木を立派に育ててもらわないといけないですから」
コウはそう言うと、一面に広がる畑を見渡す。
そこにはすでに、農家の人々とゴーレムが一緒に、モモの木を植えている最中だ。
「それはもちろんだが、あとは任せてもらうしかないな。その為に出来たこの村だし。それに、みんな、気合いが入っているよ。何しろ未知の果物作りだからな。わははっ!」
ヨサクはコウの言葉に力強く答える。
農業に関しては、彼らがエルダーロックにおいての第一人者だから、信じていいだろう。
「それでは、ゴーレムも上手く利用してください」
コウはそう言うと、十体のゴーレムを、この村に留めることにした。
「それはありがたいが、エルダーロックの街にも必要じゃないのか? うちに十体も置いて大丈夫か?」
ヨサクは頼りになる労働力であるゴーレムだから嬉しいが、エルダーロックの街があってこその高原の村であったから、それを心配した。
「すでに、増産しているので大丈夫ですよ。それにヨサク村長はこれから忙しくなるでしょうから、ゴーレムは必要でしょう」
コウは笑顔で応じると、問題がないことを告げた。
そう、コウはすでに、地下の工場に再度足を運び、ゴーレムの増産を行っていたのだ。
すでに、魔法収納に数十体のゴーレムを保管しており、必要な時にはすぐ出せるようにしていた。
何しろ、職人の動きをある程度マネすることができるのが、エルダードワーフの遺産とも言うべきこのゴーレム達である。
使用制限は当然あるものの、それでも汎用性の高い種類のようだから、各方面で活躍してくれているのだ。
そんなゴーレムの生産力に支えられる形で、エルダーロックの街は支えられ、急速な発展を続けているのであった。
「おーい、コウ!」
ヨサク村長とコウが、用件を済ませて別れた直後、
髭なしドワーフグループでダンカンの甥っ子三兄弟である長男のワグだ。
「あ、ワグさん! こんにちは、訓練ですか?」
コウは、剣歯虎を駆るエルダーロックの遊撃隊として、指揮官を任せられている友人に、挨拶をする。
「ああ、そんなところだ。これから訓練も兼ねてこの周囲の地形の把握の為に、数日旅に出るところさ」
ワグの背中には大きなリュックが背負われている。
率いている部下達もそれは同じで、全員が旅に出る支度が整っている状態だ。
「グラさん、ラルさんは?」
「弟達は高原で訓練中だ。俺の部隊が帰ってきたら、今度はグラ、次がラルという感じで交代制さ。ヨーゼフ街長には、地図作りの為に、地形を調べるように命令されているから、しばらくはこの繰り返しだろうな。まあ、この高原のような地形を他にも見つけられるかもしれないし、その間に野生の剣歯虎と遭遇することもあるかもしれない。その時は、捕まえて帰ってくるからコウとベルが臣従させてくれよ」
ワグは兄弟での役割を説明すると、部下達に出発の命令を下す。
「もう、ワグさん単独で従わせることも可能だと思いますよ? ──それでは行ってらっしゃい」
コウは、手を振るとワグの剣歯虎部隊を見送るのであった。
現在、剣歯虎の遊撃隊は全部で四十五騎。
一部隊十五騎の少数精鋭である。
ヤカー・スー部隊は訓練中の者と合わせると、すでに百騎を越えており、歩兵の警備隊と合わせるとエルダーロック全体の人口の一割を超える数になっていた。
緩衝地帯であるアイダーノ山脈には魔物も住むし、コボルトの村が盗賊に襲撃されたように治安を維持する為にはある程度の兵士がいないと守れないことは明らかだったから、当然の数だろう。
それに、バルバロス王国や隣国のヘレネス連邦王国の動きも気になるところではあったのだ。
街長ヨーゼフや右腕の『太っちょ』イワン、そして、コウ達幹部達による集会では、コボルトの村襲撃の山賊は、ヘレネス連邦王国の役人による、村があまり発展しない為の間引き行為だったのではないかと睨んでいたから、警戒を強めていた。
バルバロス王国側も、代官が視察という理由で黒獅子騎士団を派遣してきた経緯もあるので、こちら側でも同じことが起きないとも限らない。
こちらは、一応、非公式とはいえ、自治区として認められているから今さらそんな強引な手は使わないとは思うが、警戒するにこしたことはないのだ。
もちろん、表立って戦争にでもなったら、圧倒的な数の差で圧し潰されるのはわかっている。
だから、戦争は避けたいところであったが、今後どうなるかはわからないところであった。
「ベル、それじゃあ、街に帰って久し振りにララ達と一緒に食事しようか」
コウはそう言うと、数日ぶりに街に戻ることを示唆する。
「ニャウ!」
ベルは嬉しそうに応じ、コウを乗せて街まで続く整備された道を駆けていくのであった。
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