第151話 祝いの食事
コウ一行は、丸一日かけて、『
材料に関しては、エルダーロックは鉱山の街だから、用意できなくはないのだが、合同製作としては、同じ種類の金属でも発掘場所の違いで材質は精錬の技術の差などで微妙に変わることがあることから『五つ星』に一任して統一を図る。
ちなみに、近衛騎士団から受注された五百組の装備品と予備装備を含めたものは、三百を『五つ星』が、二百五十を『コウテツ』が引き受ける。
さらには団長、隊長クラスの装備品も、『コウテツ』ブランドが製作するという条件になった。
近衛騎士団の顔とも言うべき団長や隊長クラスの装備品を、全て『コウテツ』ブランドに任せるというのは、『五つ星』側の職人達が自尊心にかけて反対しそうなものであるが、その職人達も『コウテツ』ブランド職人(コウ)の実力を前回の合同製作の際によく知っていたから、文句をつける者など一切いなかった。
強いて言うなら前回、居合わせなった幹部が不満そうにしていたが、会長であるゴセイや、職人長が納得しているのでケチもつけられない、という様子である。
「それでは、
コウは大鼠族のヨースと共に会長ゴセイと握手を交わす。
「ああ、頼んだ。あと、お互いの第一次完成品の確認打ち合わせは、例の街で。細かい日程は決まり次第だな」
会長ゴセイはヨースとコウにそう確認する。
「わかっているさ。そっちはデザインについて近衛騎士団関係者との長いうち合わせが待っているだろうから頑張ってくれよ?」
ヨースは、一番やりたくないことを『五つ星』が引き受けてくれるので、助かったとばかりにお願いした。
「その辺りは大手ブランドのうちにしかできない芸当だからな。すぐに納得するデザインを出してあちらを納得させるさ」
会長ゴセイはニヤリと笑みを浮かべるとヨースと握手を交わし、誇りを垣間見せるのであった。
コウ達一行は、遅い夕食をするべくお店を探していた。
王都の美味しいことで有名な飲食店はどこもお客がいっぱいということもあり、従魔連れのコウ達は入店を断られる。
「参ったな……。さすがにこの時間にベルの入店はどこも難しいか」
ヨースが種族的には犬猿の仲のはずの剣歯虎を気遣ってため息を吐く。
「どうする? ベルと一緒に入れないなら、どこかで持ち帰りのできる食べ物を買って宿屋の馬車小屋で食事しようか?」
ダークエルフのララノアが、ベルを撫でながらそう提案する。
ベルは申し訳なさそうに「ニャウ……」と鳴く。
「そうね、ララの言う通りで良いかも。私もベルと一緒に食事したいし」
街長の娘カイナもララノアの提案に賛成する。
「仕方ない……。せっかくの前祝いだからな。かなり高くつくが、ベルも入店可能な店に行くか!」
ヨースが、崖から飛び降りるような気持ちでそう切り出した。
「そんなお店があるなら最初から言ってよ! ここまで何軒のお店に断られたと思っているの」
コウが呆れた様子でそう指摘する。
「はぁ……。お前達も知っているお店だぜ? だが、高すぎて誰も選択肢の中に入れていなかっただろう?」
ヨースが意味あり気に言うと、
「「「あっ……!」」」
と全員が思いついたように声を出すのであった。
そこは、以前、オーウェン・ランカスター第三王子と食事をしたことがある高級料亭『金獅子』であった。
このお店は当然ながら一見さんでは紹介状を持っていないと入れないし、完全個室で馬鹿高い値段設定から、金持ちや上級貴族、王族などが使用するようなところである。
ちなみにコウ達一行はオーウェン王子と一緒に食事をしたことで、お店側からは顔を覚えてもらっているはずだ。
まあ、子供の見た目のコウと大鼠族のヨースという珍しい組み合わせだから、あちらも忘れるわけがないと思うが……。
「いらっしゃいませ、確か『マウス総合商会』会長のヨース様でしたね? 今日はお食事ですか? それともまた、人探しですか?」
人では見分けづらい大鼠族を店員は一目でヨースと認識し、用向きを問う。
ちなみに、「人探し」とは以前、ヨースがオーウェン王子に泣きつこうとこのお店の前で待ち伏せしていた時のことを指している。
「言ってくれるじゃないか。……今日は、食事さ。従魔もいるんだが、いいかい?」
ヨースは顔見知りになっている店員の冗談に苦笑すると、そう応じる。
「──もちろんです、確認するので、少々お待ちください」
店員は食事という言葉に少し驚いた様子であったが、頷くと断ることなく奥に確認に行く。
しばらくすると、店員が戻ってくると、奥に通される。
「僕達だけでここで食事となると、やっぱり緊張するね……」
コウが二度目の『金獅子』経験だったが、前回と違い支払いは自分達だから息を呑む。
「俺が払うんだから安心しろ。それに今回は大きな契約が成った祝いなんだ。贅沢しても罰は当たらないさ」
ヨースはモフモフの胸を張ってコウ達にそう告げる。
「でも、私達やベルがいるから結構な食事代になると思うわよ?」
ララノアが怖い指摘をする。
そう、王子と食事した時はコウとヨースの二人だけだったし、それは奢りだったのだ。
「もう、代金を気にするのは止めろよ! 今日はお祝いなんだからさ」
ヨースはみんなの心配を注意する。
「そうね。支払いはヨースがしてくれるのだし、楽しみましょう」
カイナが笑って応じた。
「……それはそれで、心配なんだが?」
ヨースはみんなが沢山食べそうな気がしたので急に心配になる。
「はははっ! 僕も出すから安心してよ。──それにしても、前回みたいに奥の部屋だね?」
コウが、ヨースを安心させようと答えたが、ふと気になることを口にした。
「おいおい、高い部屋に案内しようとしていないか?」
ヨースが案内する顔見知りの店員にそう聞いた時である。
「こちらの部屋にどうぞ」
店員はヨースの心配もよそに、言葉少なく部屋の前に案内した。
「ここは前回と同じ高い部屋じゃないか? ……まあ、いいさ、みんな入ろうぜ」
ヨースが腹を括ったのか室内に入る。
すると、そこには先客がいた。
「本当に来ていたのか。──久し振りだな、コウ、ヨース、ララ、カイナ、そしてベル」
声がした方にコウ達が視線を向けると、そこにはオーウェン王子が座っているのであった。
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