第150話 闇を抱えるブランド商会?
王都滞在があと二日残っているコウ達一行は、当然だが、未確認ながら大量の仕事が入る予定になっているらしい『
「「「さすが有名ブランド、建物が大きい……!」」」
コウ達一行は遠くからでもわかる『五つ星』の事務所に全員が感心する。
「うちがこんなところとすでに一度合作製品を作ったなんて信じられないね……」
コウも素直な感想を漏らす。
「おいおい、『コウテツ』ブランドは『五つ星』と仕事上、対等な関係なんだから胸を張ってくれよ? あっちは百戦錬磨の大商会なんだ、足元見られるのは勘弁だぜ?」
大鼠族のヨースが弱気な発言をするコウを諫めた。
そこへ、店先に立つコウ達の目立つシルエットに『五つ星』の従業員が気付いて出てきた。
「マウス総合商会のヨース様ですか? そちらは『コウテツ』ブランドのコウ様ですね? ──うちのゴセイが待っていますので、どうぞ中へ」
従業員は話に聞いていた通り、
「し、失礼します……」
丁寧な対応に慣れていないコウは緊張気味に従業員の後に続いて事務所内に入っていく。
ヨースやダークエルフのララノア、街長の娘カイナ、剣歯虎のベルも後に続いた。
事務所内は、『五つ星』自慢の製品の一部がずらりと並んでおり、訪問する相手を圧倒する。
「あっ! あれ、うちとの合作時の試作品じゃない?」
コウが、ガラスケースに入った剣を指差して、ヨースに知らせた。
「ああ、その通りだぜ。前回一人で来た時に確認済みだ」
ヨースはこの事務所に来るのは初めてではないから、余裕あり気にそう答える。
「試作品を大事に飾ってくれるなんて良いところあるわね」
ララノアが『五つ星』を評価してそう応じた。
「前回の合作は大好評だったのでしょ? 当然の扱いじゃないかしら?」
街長の娘カイナは、事務所の雰囲気に吞まれることなく堂々とそう口にする。
そんなやり取りしながら、廊下を進むと応接室に通された。
そこにも、『五つ星』ブランドの代表作と思われる武器や防具の数々が壁に飾られていたから、コウは興味深げにそれを見る。
ヨースは落ち着いた様子で席に着き、ララノアはコウと一緒に見学、カイナは席について室内を見渡す。
そして、ベルは大人しく部屋の隅で丸くなるのであった。
こんこん。
扉がノックされる音が鳴り、
「失礼します」
という声と共に、従業員が扉を開ける。
コウとララノアが慌てて席に着いたところに、『五つ星』ブランド商会のゴセイ会長が入ってきた。
「ヨース会長はともかく、コウ達は久し振りだな」
ゴセイ会長は気さくにみんなに声を掛けると、自分も席に着いた。
後ろには補佐役なのか部下が二人待機する。
そして、ゴセイ会長は早速話を切り出した。
「挨拶もそこそこだが、本題に入らせてもらう。──実は今、とても大変なことになっていてな。先日、宮廷貴族会議において、王家直属である近衛騎士団の来年度からの新規装備の受注ブランドにうちが正式決定することになった」
ゴセイ会長は嬉しさ半分、緊張半分といった様子でコウ達にそう報告した。
「近衛騎士団のですか!? それってこの国の顔じゃないですか! おめでとうございます!」
コウは他人事とばかりに手放しで『五つ星』の成功を祝福する。
「……おいおい、コウ。俺達が何でここに呼ばれていると思っているんだ? ──それってつまり、『コウテツ』ブランドにも関係があるってことだよな?」
ヨースは前回この事務所へ訪問した時に、すでに大きな仕事を頼むことになりそうだからスケジュールを空けておいて欲しいと依頼されていたので、ゴセイの言葉に自分達がある程度関係していることは察しがついたので、ゴセイ会長に質問した。
「ああ。ヨース会長には前回、本決まりではなかったし口外厳禁だったから、詳しいことを説明していなかったんだが、実は、合作製品が高い評価を受けていてな。それが理由で近衛騎士団の新規装備の発注をうちに任せるという話になったんだ」
「──つまり、『五つ星』と『コウテツ』の合作を再びやるということか」
ヨースはゴセイ会長説明を聞いて納得したとばかりに頷く。
「えー!? それって僕達が天下の近衛騎士団の装備を作るってこと!?」
ヨースの言葉にようやくコウも現実的とは思えない話を理解して驚いた。
「『コウテツ』ブランドとの合作は、国内の評価が相当高かったからな。うちもその成功例を前面に出し、ダメもとで近衛騎士団の新規装備受注に対して営業をかけていたんだ。まさか、本当に決まるとは思っていなかったけどな」
ゴセイ会長もまだ、決定の発表から日が浅い為か、まだ、少し興奮気味に答える。
「それにしても、これまでは『アーマード』と『ソードラッシュ』の両老舗ブランドが受注していたんだよな? そこから仕事を奪うとは『五つ星』もやるじゃないか」
ヨースはまだ、実感がないのか淡々とした口調でゴセイ会長を褒めた。
「──だがそれも、『コウテツ』ブランドの合作有りきでだぞ? つまり、来年までに近衛騎士団に納める装備一式五百組を製作する必要がある。もちろん、その後は予備も納めないといけないし、団長、隊長クラスの装備はまた、別受注、さらには契約期間の整備、補修はこちらがやることになる。──まあ、その分安定した収入が見込めるわけだが……。どうだ、一緒に引き受けてくれるか?」
「「「五百組!?」」」
ゴセイ会長の説明を黙って聞いていたコウ達であったが、その数に当然ながら驚くしかないところである。
「驚くのも当然だ。それもただの五百組じゃないからな。近衛騎士団の装備品基準は等級で言ったら、全て六等級以上の魔鉱鉄製で統一。団長、隊長クラスは四等級以上と決まっている。特に今回、団長、副団長、各百人隊長クラスについては、超魔鉱鉄製、つまり三等級以上を望んでいるらしいから、作る方はかなり大変なことになっている」
ゴセイ会長は、契約が決まった喜びも説明している間に現実に引き戻されたのか、深刻な顔つきでそう答えた。
「それならば、前回同様、デザインはそちらにお任せします。ちなみにこれまでの近衛騎士団の等級は具体的にどのような感じだったのか教えてもらえますか? 魔鉱鉄製ならば、うちは最近、職人(ゴーレム)が増えたのでその数を作れないこともないと思いますので」
コウが数に驚いたのは、多すぎるという意味で、ではなく、沢山の仕事が入るぞ、やったー! の方であったのだ。
「え!? 『コウテツ』ブランドは単体で五百組も作れる人員がいるのか!?」
ゴセイ会長はコウの冷静な反応に驚く。
それは当然だろう。
五百組もの魔鉱鉄製装備を用意するのは大手ブランドである『五つ星』でも大事業だからだ。
ゴセイ会長としては、団長、隊長クラスを『コウテツ』ブランドに任せて、自分達は魔鉱鉄製装備を昼夜態勢で作るつもりでいたのである。
「はい、うちはその気になれば、職人達(ゴーレム)が昼夜問わずに動けるので」
コウの言うことに嘘はないのだが、ゴセイ会長の耳には、『コウテツ』ブランドは、職人をこき使う『闇』を抱えたブランド商会かもしれないと思ってしまうのであった。
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