第140話 襲撃事件の余談
エルダーロックの村とボウビン子爵領の中間辺りの緩衝地帯。
そこで、ボウビン子爵の使者である次男への襲撃が、正体不明の賊に襲われる事態になったのだが、護衛に当たっていたコウ達とすぐに駆け付けてくれた
敵の指揮官はコウがすでに捕縛していたし、逃げようとする者はほぼ全て包囲網を突破できずに死傷、もしくは捕縛である。
「コウ殿、貴殿らの働きお見事でした! 部下の話では賊が精鋭揃いだったと舌を巻いていましたから、それを跳ね返した強さには驚きですよ。見た目は少年でもやはりドワーフなのですね。助けて頂きありがとうございます」
使者である次男はコウの活躍を馬車の中で見ていたので、賞賛すると感謝した。
「いえ、それよりも負傷者はいませんか? こちらに怪我人が出ないように対応したつもりではありますが、賊も想像以上に強い相手だったので」
コウは賊がなかなかの手練れだったので、万が一がなかったか確認する。
「こちらは大丈夫です。部下達もすぐに駆け付けてくれた援軍のお陰で窮地に陥ることなく戦えたので、軽傷くらいで済んでいますよ。──それより、賊の正体はわかりそうですか? 白昼堂々、襲って来た大胆さや強さなどを考えると、ただの賊とは思えないのですが……」
次男は、自分の部下に匹敵する強さだった賊がただ者ではないことはすでに理解していたから、その確認をせねばならないだろうという思いであった。
「そのことについては、こちらにお任せください。すでに捕縛した連中に尋問を行っている最中です。結果がわかったら捕らえた者をそちらに輸送いたしますね」
「そうしてくれると助かります。ボウビン子爵家を狙った犯行なら、それなりの処罰をしなければなりません。裏に誰かいるならなおのこと……。それにこの賊どもは検問所襲撃犯の可能性が非常に高い。我が方で処罰しないと領民も納得しないでしょう」
使者である次男は、コウに改めて感謝の言葉を述べると、このことも含めて報告する為、自領へと急いで帰っていくのであった。
「コウ、数人の賊が素性を吐いたぞ。いや、賊ではなく某領の騎士達が、だが……」
髭なしドワーフグループでダンカンの甥っ子三兄弟の長男ワグが、剣歯虎を連れてコウのところにやってくると報告した。
「やっぱりですか……。某領とはやはり……」
「ああ。あそこだ。さすがにこれでもう、言い逃れはできないだろう。襲撃されたのがボウビン子爵の子息だし、死人も証人も捕縛した騎士もいるからな」
ワグはそう言うと、捕らえた者達を荷馬車に乗せて連行していく。
「コウ、狙い通りになったわね。これで、少しはエルダーロックの心配事が減るんじゃないかしら」
ダークエルフのララノアがとても安堵したように、コウに言う。
村長の娘カイナも同じ思いだったのだろう、同意するように深く頷く。
これはエルダーロック側が使者を餌にした罠だったから、失敗すればボウビン子爵領の領民からの反感は一層高まり、通商条約もおじゃんになっていたかもしれなかったからだ。
正直、使者に傷の一つでも負わせてしまえば、賊を捕縛したとしても領民の反感は消えないだろうことは予想できたので、今回の作戦は完璧を求められていたのである。
近くに伏せていた剣歯虎部隊やヤカー部隊にしても、あまり近すぎると賊に悟られる危険性があったし、遠すぎると使者を負傷させるかもしれないというリスクがあった。
それだけに、これだけうまくいったのは、やはり、剣歯虎部隊とヤカー部隊の日頃の訓練のお陰だし、さらには馬以上の機動力で駆け付けることができたことも大きく関係している言えた。
あとは、襲撃される場所を特定できたことも大きい。
これはコウの提案で、地形的に賊に有利そうな場所を選ばせる為に、その近くの駅舎の警備人数を意図的に減らし、賊が襲撃しやすいようにしたことだ。
「見事にハマってくれてよかったよ。あとは村長やボウビン子爵に任せよう」
コウも大いに安堵してそう答える。
その言葉にララノアやカイナ、剣歯虎のベルも頷くと、一足先に村へと帰るのであった。
捕縛した賊達は、コウの予想通り、エルダーロックに度々嫌がらせをしていたダーマス伯爵のところの領兵であった。
隊長以下、五名は騎士持ちの凄腕であったし、その部下達も精鋭であったが、それを上回る数と強兵であった剣歯虎、ヤカー両部隊によって被害も最小限にして取り押さえることができたのは、幸運である。
敵は剣歯虎やヤカー相手の有効な戦い方など知らなかったことから為す術もなかったので、終始圧倒できたのだ。
それに、初動で圧倒したことで敵の戦意を早く挫けたことも大きいだろう。
そして尋問は比較的スムーズに進み、敵はあっさりと自白してくれた。
だから、ダーマス伯爵の名前もすぐに出てきたのである。
まあ、当人の人望がなかったという可能性もありはするが、どちらにせよ、部下に隣領の検問所を襲撃させて死人を出し、さらにはボウビン子爵の子息まで殺そうとしたことは大問題であり、言い逃れはできない。
王家も貴族同士の小競り合いなら干渉しなかったかもしれないが、事故ではなく明らかな殺意を持っての犯行を見逃すつもりはないから、訴えがあったら後日、裁判官を派遣することになるだろうことは想像に難くないのであった。
それから、二か月後の王都にある司法裁判所。
ダーマス伯爵は部下を見捨てることで法廷では無罪を主張するも、その部下達が今回の襲撃事件、暗殺未遂事件以外の悪事もぶちまけたことにより、かなりの数の余罪で有罪が確定。
爵位の剥奪と財産没収と共に、死罪が決定した。
「儂は姑息な
ダーマス元伯爵は、処刑人に引っ立てられて、断頭台に首を固定されると最後、命乞いの中、断頭台の露と消えるのであった。
「……これで、エルダーロックの村の心配事が一つ解決したね」
関わった者の一人として処刑を見届けたコウは、安堵と罪悪感のため息を吐く。
「コウはお人好しね。あっちは自業自得なんだから、こちらが罪悪感を感じることないのよ?」
ララノアがコウを背中を軽く叩いて、励ますように言う。
「ララの言う通りよ。これで、村をつけ狙う相手もいなくなったし、今後も発展の為に頑張らないとね」
村長の娘カイナもコウの背中を軽く叩いて応じる。
それを真似るように剣歯虎のベルも肉球をコウの肩に乗せた。
「そうだね……。──あ、イッテツさんにお土産買わないといけないから、ヨースと合流しようか」
コウは二人の気遣いに元気を出すと、友人である大鼠族のヨースと合流すべく、民衆でごった返す広場を抜け出すのであった。
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あとがき
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
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他にも、様々な作品を書いていますので、お時間がありましたら読んで頂けると幸いです。
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※一部完結、休止中
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※完結作品
それでは、引き続き作品をお楽しみください!<(*_ _)>
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