第131話 襲撃事件のその後
盗賊集団によるコボルトの村襲撃事件は、不幸中の幸いで被害も軽微で収まることになったようだ。
この事件はコボルトの村の者達にとって、村の発展と同時に兵としての訓練も大事だということを痛感することになる。
若者の中には、兵士として訓練するより、村の為になる技術を覚えることに専念するものも多かったのだが、村の発展も大事だがそれとは別に守る力がないと一瞬で全てを失うことになりかねないという教訓を得ることになった。
その為、コボルトの村で以前よりも若者達が中心に兵士としての訓練にもこの数日真剣に取り組むようになっている。
そして、当然ながらこの盗賊襲撃事件で活躍したコウや髭なしドワーフグループの、ワグ、グラ、ラルの三兄弟による
特にコウは敵の首領を討ち取る活躍だったこともあり、コボルトの村を今度は力で救った大英雄として、さらに敬われることになった。
「ふふふっ、コウは本当に人気ね」
ダークエルフのララノアもコウを褒めた。
ちなみにララノアもコウの魔力を借りて負傷者の治療を行っていたのだが、こちらも実は人気になっている。
ララノアのような光魔法による治療はとても貴重ということもあり、コボルト達、特に女性がララノアを聖女扱いしたのだ。
本人は魔力不足なのをコウに補完してもらっている立場だから、そんなに敬われる理由が無いのだが、『領域治療』という大技をコウの魔力を借りて使用したことも、さらに拍車をかけたようである。
「ララの方も大人気じゃない。負傷者もあっという間に治療して見せたし、みんな感謝しているよ」
コウはこの親友のダークエルフが褒められ慣れていないことをよく知っているから、ここぞとばかりに褒めた。
「止めてよ、もう! 私、コウ無しでは碌な魔法が使えないんだから、中途半端もいいところよ?」
ララノアは顔を赤らめて照れながらそう応じる。
「それでもだよ。すぐに駆け付けてくれたから、お陰で沢山の負傷者も重傷化しなくて済んだのは大きいよ。コボルトの村には医者の知識のある人がいないからね」
コウはララノアを再度褒めると、コボルトの村に必要なものに気づいた。
「そうね、エルダーロックの村にはドクさんがいるから、まだ、大丈夫だけど医者も育成しないといけないわね」
ララノアがコウの言葉に賛同していると、そこに医者のドクが助手のゴーレムを連れて、エルダーロックからやってきた。
「なんじゃ、来てみたら早速儂の出番か? ──ララ、お主が治療した重傷者のところに案内してくれ。魔法の治療だけでは治りづらい怪我は多いからな。あと、手先が器用で記憶力の良いコボルトがいたら、儂に付けてくれ。儂の作業を直接見て覚えてもらうから」
ドクは自分の名が呼ばれたことに気づいて二人に声を掛けると、早速、育成の為の提案をする。
コウは頷くとコボルトの村の村長ドッゴにそのことを伝えた。
「わかった! 何人かいるから、すぐに連れてくるワン」
村長ドッゴも相談役のオルデンと同じ悩みを持っていたようですぐに賛成して若者を呼び寄せ、ドクに付いていかせるのであった。
それから数日。
火事のあった建物を解体したり、そこに新たな家を建てたりと、コウはコボルト達と一緒に働き、ララノアや村長の娘カイナも戦いに役立つ魔法を指導する日々であった。
ワグ、グラ、ラルはコボルト兵の訓練に付き合っていたし、救援に来た他のドワーフや大鼠族は食糧を配ったり、商売も始めている。
今は物々交換が主流だが、コボルトの村の生活が安定してくれば、お金を使用した流通も可能になるだろう。
そして、エルダーロックの村長であるヨーゼフもコボルトの村を訪問し、改めて支援を約束した。
お互い足りないものがあるから、それを補完し合うことで助け合うことを確認した感じである。
「それにしても、コウから話を聞く限りでは、その盗賊集団、バルバロス王国側の国境を荒らしていた連中かもしれない」
村長ヨーゼフはコボルトの村の上層部との会議の折、そう漏らした。
「え?」
会議に参加していたコウが驚いて聞き返す。
村長ヨーゼフは自分の魔法収納から賞金首リストを取り出していくつかの人相書きをコウに渡した。
コウはコボルトの村長ドッゴと一緒にその人相書きに目を通す。
「「あ、この人です(こいつだワン)!」」
コウと村長ドッゴは一つの人相書きを見て指差した。
「こいつは驚いた……。その男は悪名高い『血染め剣のガロス』じゃないか! ──本当に、コウがこいつを倒したのか?」
村長ヨーゼフは、目を見開いて驚くと、コウに確認する。
「はい。確かにかなり強い人だとは思いましたが……、賞金首だったんですね……」
コウもその首にかけられた額を見てドッゴと目を合わせ、驚く。
「さっきも言ったが、バルバロス王国の国境沿いを荒らしていた高額賞金首だ。荒らされていた国境線の領主達は喜ぶだろう。相当暴れられていたらしいからな。それにしてもコウもこの村の者達もよく戦って倒したものだ……」
村長ヨーゼフは、それを討ち払ったコウ達に呆れるくらいであったが、そんな盗賊集団を相手に被害を最小限に抑えたコボルト達も日頃の訓練の成果をいかんなく発揮していたことがよくわかるというものであった。
「……ということは?」
コウが何かに気づいてそうヨーゼフに聞く。
「?」
ヨーゼフは何のことかわからず首を傾げた。
「つまり賞金が出るってことですよね?」
コウは笑みを浮かべてそう指摘する。
「あっ、確かにそうだ。コウ達には賞金を貰う資格があるな。どこかの賞金首組合に死体を持ち込んで賞金を貰ってくるがいいぞ。わははっ!」
ヨーゼフが逞しいコウの考えを知って大笑いする。
「では、その賞金についてですが、コボルトの村の発展に使うということでいいですか?」
コウは会議に参加している全員に確認した。
「で、ですかコウ殿。首領のガロスを倒したのはあなたですワン。我々がその報酬を受け取るわけには……」
村長ドッゴがそう応じると相談役のオルデンや他のコボルト達も村長ドッゴに賛同するように頷く。
「何を言っているんですか。この村を守る一番の働きをしたのはみなさんですよ? 僕はその美味しいところを頂いただけです。賞金はこの村が貰うべきですよ。あ、一部、盗賊の持ち物はすでに僕が報酬として回収済みですからお気遣いなく!」
コウはそう言うと、首領の部下が持っていた魔法収納鞄を、自分の魔法収納鞄から出して見せた。
「わははっ! そういうことなら、ドッゴ村長、コウの言葉に甘えてくだされ。魔法収納鞄も高額な代物ですからな。コウの報酬としては十分でしょう。あとの賞金はこの村で全部頂くのが無難ではないでしょうか?」
村長ヨーゼフは笑ってそう応じる。
「……わかりました。お言葉に甘えて賞金は村の為に使いますワン。改めてコウ殿、村長殿ありがとうございますワン!」
村長ドッゴが、頭を下げると、他のコボルト達も続いて頭を下げた。
「みなさん、コボルトの村とエルダーロックの村は対等な同盟が結ばれています。これからもお互い助け合っていきましょう。それで十分ではないですか?」
村長ヨーゼフが、村長ドッゴの頭を上げさせて、そう答える。
「……そうですワン。エルダーロックの村に困ったことがあった時は我々が助けに向かいますので、その時はお任せくださいワン!」
村長ドッゴはそう言うと、コボルト達も力強く頷くのであった。
こうして、コボルトの村襲撃事件の問題は一段落し、コウ達は数日後、エルダーロックの村へと帰還するのであった。
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