第130話 首領との対決

「魔獣に跨ったガキ……魔物使いか?」


 コボルトの村を襲撃した盗賊団の首領は、剣歯虎サーベルタイガーに跨った少年をそう判断するとそれが裏門に回った部下達が蹴散らされた原因だとすぐに悟った。


 そして続ける。


「野郎ども、この魔物使いを仕留めた奴には取り分以外に小金貨一枚(約十万円程度)の特別報酬を出すぞ!」


 首領がお金をチラつかせると周囲にいた部下達は歓声を上げて、我先にと魔物使いの少年に向かっていく。


 その少年は、跨っていた剣歯虎から降りると、大きな戦斧を構えて盗賊達を薙ぐように振るった。


 戦斧は少年には大きすぎるものであったが、見かけより軽いのか風切音を立てる。


 次の瞬間、戦斧を防ごうと盾を構えた盗賊達三人が、易々と真っ二つに切り裂かれた。


 そして、四人目の盗賊の盾は鈍い音を立ててひしゃげて、腕ごと吹き飛ぶ。


「ぎゃー!」


 盾ごと腕を持っていかれた盗賊は悲鳴を上げる。


「なっ!? ──奴が持っていた盾は、手柄として俺が特別に渡した『アーマード』ブランド製のものだぞ!? それを三人を真っ二つにした上で、あんな形に歪ませるとは……!」


 首領は魔物使い少年の強さを様子見する為に、部下を特別報酬で釣ってけしかけたのだが、度肝を抜かれる結果に唖然とした。


「おい、アレを出せ!」


 首領は傍にいた部下に何かを要求する。


「へ、へい!」


 部下はそう言うと、魔法収納付き鞄から、特別製と思われる剣と盾を取り出して渡すのであった。



 コウは敵の首領と思われる相手を見つけたので早々に決着をつけようと考えていた。


 しかし、意外にも盗賊ながらその装備は良い物を持っている者が中にはいて、受け止められた。


 さすがに僕の一等級の戦斧でも等級がありそうなブランドの盾を両断するのは結構難しいなぁ……。


 コウは戦斧を改めて身構えながら、慢心しそうな自分に言い聞かせて反省する。


 そして、相手はこちらを警戒して明らかにブランド品とわかる剣と盾を出してきた。


「ガキのくせにブランドとわかる戦斧を振り回すとは、どこの金持ちだ? まあいい。俺はそういう奴らを沢山相手にしきたからな。中には一流ブランドをスポンサーにしていた騎士も倒してきた。俺はガキだろうと容赦しねぇ。殺してその切れ味のいい戦斧を頂くとしようか」


 盗賊の首領はコウに対してそう宣言した。


 そして、部下達にコボルト掃討の為の命令を出す。


「野郎ども、俺がこのガキを相手にしている間に、抵抗するコボルト共をとっとと片付けろ!」


「「「へい!」」」


 盗賊達は返事をすると組織だって身構えるコボルト達を取り囲もうと動く。


 その時である。


 コウは戦斧を構えて首領に対峙したまま、土魔法の『石礫』でその盗賊達を次々に仕留め始めた。


「……誰がそんなことをさせるって言いました?」


 コウは淡々とそう言い返す。


 すでに負傷者も出しているコボルト達にこれ以上、被害を出させるつもりはなかったので、当然の反論であったが、


「てめぇ! 俺との一騎打ちの最中だろうが!」


 と首領は怒りを見せてコウに斬りかかった。


 コウは戦斧でその攻撃を防ぎながら、土魔法でまた、盗賊達を攻撃し続ける。


 首領はこの器用な真似をするコウに舌を巻くのであったが、それは同時に自分が舐められていることであったから改めて怒りを覚えるのであった。


 首領は完全に本気になり、コウに鋭い攻撃を繰り出していく。


 コウは一見すると防戦一方になった。


 だが、盗賊達がコボルトを攻撃しようとすると、すぐさま、土魔法が飛んでくるのだからまだ、余裕があるということだろう。


 盗賊達は首領の命令ではあったが、コボルトを攻撃するのを躊躇した。


 それを確認するとコウは、ようやく首領に対して反撃に出る。


 先程までの防戦から、一歩大きく下がると戦斧をぐっと構える時間を作った。


 これには首領も一瞬止まって、警戒する。


 コウの実力がどれくらいかはわからないが、戦斧の切れ味は心得ていたから、不用意に飛び込むのは下策だ。


 首領が盾を構えて警戒したところに、コウは息を大きく吸い込んで大きく身構えると、首領との距離を詰めるべく前方に飛び込む。


 その尋常ではない速度に首領は目を見開くが、それでも警戒していたから対応できない程ではない。


 繰り出される戦斧もブランドの盾で受け流し反撃するつもりであった。


 その瞬間がこのガキを討ち取る時だ!


 首領はそう心の中で勝利を確信して、戦斧を盾で防いだ瞬間。


 コウの戦斧は角度を付けた盾に受け流される……、はずだった。


 ガキン!


 鈍い金属音が鳴り響くと、首領の盾は戦斧のあまりの勢いに跳ね上げれる。


「なっ!?」


 首領は左腕に想像を遥かに超える衝撃が響き、一瞬で痺れてしまう。


 態勢も崩され、反撃が出来なくなり、次の攻撃に対する為に慌てて右手の剣をコウに向ける。


 コウは盾を跳ね上げるのは計算ずくめであったから、次の瞬間にはまた、戦斧を振りかざすと飛び上がった。


 首領は痺れた左腕では間に合わないと思い、右手の剣でその攻撃を防ごうと横に構えたのが運の尽きである。


 その剣を、戦斧の重さと並外れた腕力で叩き折ると、戦斧はそのまま首領の顔に吸い込まれ両断された。


 首領はその装備していた鎧も高級品だったのだろうが、コウの馬鹿力と戦斧の重さ、そして、その切れ味でもって胴体の半分まで切り下げられ絶命するのであった。



 これまでいろんな強敵だろうと倒してきた首領が、どこの馬の骨ともわからない緑頭の少年に倒されたことで盗賊達に大きな動揺が走る。


 そこへ、ラグ、グラ、ラルの剣歯虎ライダー三組が現れ猛然と突っ込んでいくものだから、不意を突かれた盗賊達はあっけなく蹴散らされていく。


 さらに、そこへコボルトの相談役オルデンが予備兵を投入し、村長ドッゴが反撃の指揮を取って後に続いたから、盗賊は完全に逃走することになった。


 盗賊達は逃げるのが早かったが、コウ以下剣歯虎に跨っての追跡とコボルト達の嗅覚によってしつこく追い掛け回され、大半の者が村を襲った代償としてその報いを受けることになるのであった。



「コウ殿、救援ありがとうございますワン!」


 村長ドッゴと相談役オルデン、そして、コボルト達がコウ達に頭を下げた。


「思ったより強敵のようだったので、間に合って良かったです。それよりも被害は大丈夫ですか?」


 コウはそれが一番心配であった。


 せっかくここまでコボルトのみんなが力を合わせて発展させてきた村である。


 それが盗賊によって台無しにされるのは、想像するだけでも腹が立つというものだ。


「負傷者は多いですが、死んだ者は幸いおりませんワン。家も数件火事で燃えましたが、あの規模での襲撃だったことを考えると、不幸中の幸いだったと思いたいですワン。それに、エルダーロックから新たに駆け付けてくれたイワン殿達のお陰で負傷者の治療も進んでいて、とても助かりますワン!」


 相談役のオルデンはコウ達の活躍に感謝して笑顔だ。


「……そうですか。それなら良かった……」


 コウはその報告に安堵すると、頑張って走ってくれた剣歯虎のベルを撫でて労うのであった。

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