第127話 隣村のさらなる発展
コウ一行はコボルトの村で改めて歓迎を受けると、持ち込んだ食料やお酒でパーティーが行われ、下がりかけていたコボルトの士気がまた上がるのであった。
そして、翌日。
アイダーノ山脈を挟んで隣村であるエルダーロックの村へ出稼ぎに向かう人員募集をするとこれが結構な人数が手を挙げた。
コボルト代表として行っていたレトリー達からエルダーロックの村の話を聞いて興味を持った者が老若男女問わず多かったからである。
若者は新しいものに興味を持つのは当然であったし、成人層は技術についての腕を磨きたいと思っていたし、老人層も貪欲にエルダーロックから知識や技術を吸収して村の役に立ちたいと思っていた。
今やばらばらに連れてこられて消滅するのを待っていた、あの時のまとまりのない集落はそこになく、このコボルトによる初めての村に誇りを持ち始めている。
それに、レトリー達から雪山登山の必要が無いことを知ったことにも、理由があった。
往復も半日で可能な道が出来ていることを知って、本当に隣村に学びに行くという感覚になっているのである。
こうして、希望者でやる気のある各世代の五十名をバランスよく選び、コウ達一行は連れて戻ることになった。
若者ばかりでないのは、コボルトの村自体の活気の為にも、若者ばかり連れていくのはよくないとイワンが指摘したからである。
「確かに……。あとは定員を決めて交代制にすることでエルダーロックに移住を望んでコボルトの村を離れる者が出なくするのもいいかもしれないです」
コウは前世で知識として地方から都市圏へ若者達が流れていく問題と同じことが起こるかもしれないと考えると、イワンの指摘に賛同し提案した。
「居心地がいいところに留まろうとするのは誰でも一緒だものね」
ダークエルフのララノアが、自分も経験があるのか賛同する。
「専用通路が出来て行き来も楽になったし、お互いの村の発展の為の交流だから、一方だけに人が流れる悪循環を無くす為にも良いと思う」
村長の娘カイナもイワンとコウの意見に賛成した。
「こちらのことをお気遣い頂き、ありがとうございますワン」
村長ドッゴは、出稼ぎが当面の心配である村の人口減少のきっかけになりそうな問題でもあるから、しっかり規則を決めてくれることに感謝した。
実際のところドッゴ自身もエルダーロックの村には行ってみたい一人であるから、コボルトの若者達も似たようなものであることは想像に難くない。
それだけに、行ったまま帰ってこないというのが一番怖いところであったのだ。
「お互い緩衝地帯に村を作った者同士、協力して発展させましょう。そして、食糧の支援を停止した役人連中の鼻を明かしてやりましょう!」
コウは村長ドッゴと相談役オルデンの二人にそう元気づける。
「それについては、役人達の上に訴え出るつもりでいましたが、ギリギリまでそれは止めておくことにしますワン。どちらにせよ、自給自足できるようにならないと遠からずこの村は滅ぶのですワン」
相談役オルデンはそう言うと、コウにとある相談をする。
それは、コボルトの村の防壁作りを教えて欲しいということであった。
エルダーロックの村が見事な防壁で覆われていることに若者代表レトリーが村長ドッゴとオルデンの二人に話していたのだ。
その防壁もコウが中心に作ったことも聞いていたから、経験者に相談した形である。
「……確かに今の状態では、魔物にいつ襲われてもおかしくないですし、この村が豊かになれば、襲撃を目論む不届き者が、これから現れる可能性はありますね。──わかりました。協力します」
コウはそう言うと防壁作りの際に地形を観察して図面を作ったイワンにも協力を求めた。
「……わかった。俺も一肌脱ごう。カイナとララは、レトリーを代表に出稼ぎ組を連れてエルダーロックに出発してくれ。俺とコウはこちらで図面を作って指導することにする。──ベルはコウと一緒だ」
イワンも防壁の必要性も感じたのか了承し、すぐに二手分かれることにするのであったが、
「わかった。(わかったわ)(了解ワン)(ニャウ!)」
一同は了承すると、こうしてコウ達一行は二手に分かれることになるのであった。
コウとベル、イワンはカイナ一行を見送ると、早速、羊皮紙を広げ、イワンが村と地形を簡単に書き記していく。
「畑の方は、一面ごとに土塁を築いて魔物や獣の侵入できるところを限定させましょう。もちろん、出入り口は柵を組みます」
コウはその図面を指差しながら提案する。
イワンはその指摘に頷くと、さっと線を引いていく。
村長ドッゴと相談役オルデンもそれを見て色々と提案するのであった。
その結果、大きな川沿いは土塁程度にする一方で、ほぼ村全体を覆う立派な防壁を作ることになった。
もちろん、今後の人口増加も考えて広めに作るし、増築可能なように一部の土地を
計画が決まるとすぐにコウは土魔法を使えるコボルト達に防壁作りを指導していく。
土魔法が使えない者はコウ達が作った防壁を綺麗に削っていく作業を行う。
これはイワンが指導する。
作り慣れているコウはともかく、慣れていないコボルト達では防壁が凸凹になるから、その部分が防壁を登る足場になってしまう恐れがあるからだ。
鍬やツルハシなどでそういった部分を補修していくのであった。
こうして、防壁作りは時間がかかったが、それでも魔力の底が見えないコウが中心に行ったことで、一週間程度で防壁は完成した。
さすがに畑方面の土塁までは手が回らなかったが、こちらは収穫まで時間があるからそこまで狙われることはないだろうということで時間をかけてコボルト達で作ることになっている。
その一週間の間に、ララノアとカイナも再びコウ達の戻ってきていた。
「あっちはお父さん達に任せてきたわ」
村長の娘カイナは笑ってそう応じて、コウ達が作業している間、コボルト達に魔法の指導を行っていた。
ララノアは氷の精霊フロスを使って、半地下の倉庫に厚い氷を張った。
食糧の保存状態を良くするためだ。
コウがいる間は魔法収納鞄に入れておけばいいが、いなくなるとそうもいかなくなるからである。
「何から何まですみませんワン。この恩は必ずお返ししますワン」
村長ドッゴと相談役オルデンはそう言うと何度も感謝した。
「困った時はお互い様だ。だが予想通りこの一週間、役人達は一度も来なかったな」
『太っちょイワン』が呆れ気味にドッゴ達に漏らす。
「ええ。役人も我々への義理はないですから、どうなろうと知ったことではないのでしょうワン。俺達はそんな奴らの思い通りにはならないですワン!」
村長ドッゴは心強い味方であるコウ達のお陰でこれから自立してやっていく自信を付けつつあったから、元気よくそう応じる。
「はははっ、その意気です。それに、専用通路を使えばお互いの連絡も物資のやり取りも容易ですからしばらくは問題ないですよ」
コウがコボルトの二人にそう告げると、二人もこの村の救世主に笑顔で応じるのであった。
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