第128話 両村の交流

 コボルトの村とエルダーロックの村は、これまでは専用通路の外への発覚を恐れて往来については慎重に行っていたが、両出入り口をコボルトとドワーフでそれぞれ管理して頻繁に行き交うことにした。


 当然、許可証も作る。


 将来的には、両村の発展だけでなく交易路として利用できるようにしてもいいが、今はその時期ではない。


 もし今、発覚すれば、バルバロス王国とヘレネス連邦王国がその通路を確保しようと軍事行動を起こすかもしれないからである。


 エルダーロックの村としては、そうなる前に力をつけ、両国から認められる自治区になるのが望ましい。


 現在は、バルバロス王国からも非公認の自治区だからその道のりは遠いのではあるが……。



 コウ一行は、コボルトの村を囲む防壁を完成させると、それから数日、コウと『太っちょ』イワン、ダークエルフのララノア、村長の娘カイナで剣と魔法の訓練を行ってコボルトの村の警備隊を強化することにした。


 現在、コボルトの村の出入り口は二か所で山側に面する畑方面と川に面する橋があるヘレネス連邦王国側である。


 畑側の裏門はそこから畑、そして、山の道を登っていくと専用通路と雪山への道があるのだが、専用通路の出入り口は警備隊が守っているし、当然、裏門には門番も配置してある。


 現在は、裏門と言いながらも人の出入りはこの裏門の方が多い。


 逆に表門の方はヘレネス連邦王国との交易はコボルトに対する偏見から色々と難しいのが現状だ。


 もちろん、バルバロス王国側もドワーフは差別対象であるから普通に考えるとコボルトと一緒なのだが、こちらの場合、大鼠族の取引網があるから、コボルト程深刻ではないので助かっている。


 話を戻すと、コボルトの警備隊は主に表門と裏門、専用通路出入り口の警備、あとは村内外を巡回する隊だけなので交代を含めて二十名程度。


 そこに予備兵として四十名程度は戦える者をコウとイワンは訓練しておこうと考えたのであった。


 エルダーロックの村もコボルトの村も緩衝地帯にあるから守ってくれる国はない。


 だからこそ、自分で身を守る為には軍事力が必要なのだ。


 平和に話し合いで事が済むならそれでいいが、実際はそんなものはありはしない。


 盗賊や山賊はもちろんのこと、国であっても軍事力の無い相手は力づくで従わせることに変わりはないのである。


 それらは歴史が証明しているのだ。


 コボルトは初めて得た自分達の故郷を守る自覚が生まれていたから、厳しい訓練にも真剣であった。


 コウはもっぱら戦斧の扱いだけだったので、指導にはあまり向かない気もするが、ヨーゼフ村長の右腕であるイワンは得手の戦斧だけでなく、他に片手剣、槍、斧槍、弓なども使えたからコボルト向きの指導も可能であったのは大きい。


「コウ殿にも意外な弱点がありましたワン」


 村長のドッゴがコウが戦斧の扱いしかできないことを意外に思ってそう指摘した。


「あはは……、僕は戦斧の扱いについては実戦で学んだので形にはなっていますが、他の武器は扱ったことさえないんですよね」


 コウも苦笑して応じる。


 だが、ドッゴはそのコウから戦斧を学んでいた。


 ドッゴにとってコウはこの村の恩人であり、尊敬の対象なのだ。


 そのコウから学ぶことは多く、ドッゴはコウのスタイルを真似することで参考にしていた。


 他のコボルト達は片手剣(盾あり)や槍(盾あり)弓がほとんどである。


 それらがコボルトの体格や性格には向いているようだ。


 だから、ドッゴだけ戦斧というのは目立ったが、それだけに村長として特徴的にも見える。


 さすがにコウの扱う大戦斧はドッゴの膂力でもってしても扱えないので普通サイズの戦斧であったが、それもコウが特別に制作したものをドッゴにプレゼントした。


 ドッゴはコウからのプレゼントということでまた、それが村長としての箔をつけることになる。


 ちなみに、この戦斧、ドッゴは気づいていないが、超魔鉱鉄製で三等級の代物であったから、とても丈夫だし切れ味も最高であった。


 ただし、『コウテツ』の刻印がないので無名扱いになるのではあったが……。



 こうして、コボルトの村は村の発展を進めつつ、武装化も順調に行われていく。


 そして、体裁が整ったところでエルダーロックの村長であるヨーゼフがコボルトの村を訪れ、両村間で正式に細かい交易に関する約束ごとやお互いが危機の時には助け合うという条約が正式に交わされることになった。


 今までは、お互い緩衝地帯の村同士の口約束であったからだ。


 今はそれでよくても、これからお互い代替わりした時に、守られるかわからない状態では専用通路の運用も怪しくなるから、これは利口な条約だろう。


 ちなみに出入り口はお互いの警備兵が守護しているが、専用通路の権利自体はエルダーロック側にある。


 開通させたのがコウであることから、コボルト側が権利を主張しなかったのだ。


 そのお陰でコボルトの村は助かっているので当然であろう。


 ここで、権利を主張したら、村の生命線を自ら絶つような愚行である。


 こうして、エルダーロックの村とコボルトの村は強い結びつきがなされるのであった。



 コウはこの間、何度も両村を行き来していたが、問題らしい問題は起きることはなかった。


 それどころかコウが来訪する度に、コボルト族は大歓迎なので気を遣う程である。


 それを止めてくれと村長のドッゴに伝えると、とても残念そうにしていたが、次からは控えめにすると約束してくれた。


 控えめじゃなくて普通でいいんだけどね?


 コウはそう内心ツッコミを入れるところであったが、コボルト族にとってコウは恩人だから、控えめもギリギリの妥協点であった。


 相談役のオルデンもコウとララノア、カイナ、髭なしドワーフ達、村長ヨーゼフ、太っちょイワンなどは特別扱いせずにはいられないと主張していたが、コウのお願いであったから、同じく約束する。


 そして、コウもエルダーロックの村での作業が忙しくなり、コボルトの村に一か月ほど顔を出さなくなった頃、事件が起きるのであった。

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