第126話 発展する隣村の問題

 コウ一行は、しばらく来ていなかった麓に広がるコボルトの村を眼下に確認することになった。


「おお! かなり家が増えているね。それに、広範囲が綺麗に整備されて田畑が整然と広がっている!」


 コウはコボルトの村が前回の時と比べてかなり拡大されていることが確認できて喜んだ。


「本当ですワン! 自分の村がしばらくいないうちにこんなに発展していると不思議な気分ですワン……!」


 コボルトの若者代表レトリーが目を輝かせ、自分の初めての故郷の変化に喜びの声を上げた。


「その気持ちわかるわ。私達もエルダーロックの発展には今も同じことを思うから」


 ダークエルフのララノアが、レトリーの言葉に賛同する。


「ふふふ、自分達の村ですものね。故郷ができるって良いことよ」


 村長の娘カイナも差別されてきた者にとって帰る場所があることの喜びがいかに大きいかわかるので、同調した。


「それじゃあ、行こうか、コボルトの村へ!」


 コウがそう言うと、各自が「うん!(はい!)(おぅ!)」と思い思いの返事をして下山していくのであった。



「コウ殿達がやってこられたワン!」


「え? 本当かワン!?」


「誰か、村長を呼んで来るワン!」


 コウ一行の再訪にコボルト達は大歓迎とばかりに出迎える。


 そこに、すぐコウ達の来訪の知らせを聞いたリーダーのドッゴが、相談役のオルデンと共にやってきた。


「コウ殿、よく来てくれたワン! レトリー達も元気そうだワン」


 ドッゴがコウ達に肉球の握手を求める。


 コウは密かにこの握手が好きなので笑顔で応じてその肉球の感触を味わう。


 ララノアやカイナも同じように握手を交わし、レトリー達は出迎えてくれた家族と抱き合っている。


「あれから比べると、想像以上に発展しているので驚いていますよ」


 コウはコボルトのみんなに聞こえるように大きな声で褒めた。


 コボルト達はその言葉に誇らしそうに笑顔で応じる。


 そんな中、村長のドッゴと相談役のオルデンは素直に喜んでいる雰囲気ではないようだ。


 もしかしたら発展と共に何か問題が起きているのかもしれない。


「そうですワン。立ち話をも何なので、我が家でお話をするワン」


 ドッゴはそう告げるとコウ達を自宅へと案内するのであった。



「本当にこのタイミングで来てくれて良かったですワン」


 ドッゴは意味ありげにそう切り出すと、他には誰にも話を聞かれないように窓や扉を閉めていく。


「どうかしたのですか? あまり、良い雰囲気を感じませんが……」


 コウがドッゴとオルデンの二人の雰囲気にただならぬものを感じてそう指摘した。


「……実は先日、我々をここに追いやった人族達が、この村への支援を早々に打ち切ると言ってきたのですワン……」


 相談役のオルデンがコウに向き合うと、そう告げた。


「え? 予定では五か月間は食料やその他の物資の支援を行ってくれるはずでは?」


 コウは前回そんな話をドッゴとオルデンから何となく聞いていたので、わずか二か月ほどで止められることを不審に思った。


「それが、この村が急に発展したことで人族の役人連中が、もう支援は必要ないだろう、と言い出したんだワン」


 ドッゴがため息混じりに、そう漏らした。


「きっと、嫉妬ですワン……。コウ殿達が立ち去った翌日に訪れた役人達は急に立派な建物がいくつも出来ていることに驚いてたワン。そして、田畑や灌漑施設などを見て、役人達が『うちの実家の村でもこんな立派な家や施設はないぞ』と愚痴を漏らしていたんだワン。そのあとから、徐々に支援物資が減っていったワン。そして、先日、完全に止めると通告してきたワン」


 相談役の老オルデンが村長ドッゴの話を引き継いで、予想を口にする。


「……それが本当なら、その役人達は支援物資を勝手に止めている可能性がありますね。最悪、残り物資の購入代金を自分達の懐に入れている可能性も……」


 コウは二人からの情報からそんな憶測をした。


「この村の資金はあとどのくらいなんですか? 田畑が実を結ぶまでのあと数か月、そこまでどうにか乗り切ることができれば、あるいは……」


 カイナがコボルトの村の人数から食料の買い付けに必要な代金を頭で計算しながら聞く。


「この村にお金はほとんどないワン。役人達は俺達にお金を渡したらそれを持って逃げるだろうからと、毎週の食糧とその他必要な物資を最低限置いていくだけだったのだワン……。──ただ、俺達も何もせずにいたわけではないワン。こんな日が来るのを予想して少しずつ狩りで入手した魔獣の毛皮や魔石、干し肉などを密かに備蓄してたワン。今回、コウ殿達に相談したいのは、それらで食料と物々交換をして欲しいということだワン」


 ドッゴは相談役のオルデンとそういう話をしていたのだろう、頷き合うとコウに向き合った。


「……なるほど。一応、僕らも食糧不足についてはある程度想像していました。いくらか今回、持ってきているのでそちらを提供させてもらいます。あとは、若者達五人がこの村の為にお金を貯めて購入した武器や農具、服などもいくつかありますよ」


 コウは若者コボルトのレトリー達がエルダーロックの村で質素倹約しながら村に必要なものを購入して貯め込んでいたことを伝える。


「……レトリー達が? 嬉しいことですワン……。そして、コウ殿達も食糧の提供ありがとうございますワン! 俺達がそのお礼に答えるには労働力の提供しかないワン。コウ殿、うちの若者達をまた、何人かそちらに送ることはできないかワン? こちらでは、コボルトというだけで他の街や村で働くには厳しい審査と許可が必要だからこの村から出稼ぎに行くのはかなり難しいのだワン。頼むのだワン!」


 村長ドッゴはなりふり構わず、みんなの為にコウ達に頭を下げた。


 相談役のオルデンも一緒にその頭を下げる。


「実はこちらからも、レトリーさん達の働き具合から、コボルトのみなさんの働き手を求めるつもりでいたんですよ。──ねぇ、イワンさん」


 それまで、コウの後ろで黙って様子を窺っていた『太っちょイワン』ことイワンに話を振った。


「俺はイワンと言う。村長の代理として訪問させてもらった。コウが言ったように、今回、食糧の提供、両方の村の交流、そして、そちらが望めば労働力を求めるつもりでいた。本当は、この村の代表であるお二人にはこちらの村にお出で頂き、話し合いの中で、色々と決めたいと思っていたのだが、どうやらこの村を離れる余裕はなさそうだ。だから、その件についてはうちのヨーゼフに伝えて、こちらから出向けるようにしよう」


 イワンは、ドワーフにしては大柄でその見た目の通り、戦士体形なのだが、村長の右腕らしく頭も切れるから、淡々と必要なことを伝えた。


「良いのですかワン!? 感謝するワン! うちにはまだ、余った働き手が沢山いるからよろしくお願いするワン!」


 村長ドッゴはどうやら、村人達の働き口が見つかったことに感謝した。


「追加の食料はまた、後日運び込むとして、今日持参したものはみんなでパーティーをして美味しく頂きましょうか!」


 コウはドッゴをはじめ、コボルトの村人達は食事が質素であるようだとわかったのでそう提案する。


「……コウ殿、みなさん、ありがとうございますワン……。──お前達、今夜はコウ殿達の為の歓迎パーティーだワン!」


 村長のドッゴは感涙に目を潤ませてお礼を言うと、外にいる部下に命じて、コウ達の歓迎パーティーを開くことを伝えるのであった。

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