第125話 色々な楽しみ
大鼠族ヨースの働きで、鉱山の村の胡椒もどき、通称『
現在は、森で採れるものを中心に収穫してそれを売買している状況ではあるが、すでに棚田で大規模に育てているので安定した収入源になるのは時間の問題だろう。
胡椒の代用品ではあるが、品質はほとんど変わらないし、環境に強い『鉱椒』の方が価格も今より安くできて市場でも好まれるだろうことは予想できる。
当初の問題であった香辛料組合との間もオーウェン王子から関係者を紹介してもらったことで、ヨース率いる『マウス総合商会』も登録を許され、商売ができるようになった。
「……それで、俺が期待して戻ってきたのは、農民ドワーフ達が丹精込めて育てていた二条大麦の件なんだが、結構前に収穫が終わっているんだろう? 扱いはどうなっているんだ?」
ヨースは鍛冶屋で顔を合わせたコウに問うた。
「ふふふっ。農民ドワーフ代表のヨサクさん達が麦芽の製造を行い、仕込みもすでに終わって次の段階に移っているよ」
コウが嬉しそうに答える。
「そうか! できるのが楽しみだぜ!」
ヨースも嬉しそうにコウと二人笑顔になる。
「? お二人とも何が楽しみなんですか?」
鍛冶作業をしていた元『五つ
「「麦酒だよ!」」
コウとヨースは一緒にそう答える。
「ああ、お酒ですか!」
「ああ、そうさ。ヨサクは醸造技術のある農民ドワーフだからな。この『エルダーロック』の村に来るまでは作りたいものが作れず、その腕を活かすことができなかったんだが、ヨーゼフ村長がその腕を見込んでこの村でもお酒を造ることになったのさ」
ヨースは余程完成が楽しみなのかウキウキ気分でシバに答えた。
「今は発酵段階なので、それが終わったら熟成させて完成なんでだよ。僕達ドワーフが普段飲むお酒と言ったら麦酒なのでみんなもこの村原産のお酒が完成するのを楽しみにしているんだ!」
コウも楽しみとばかりにシバに熱く語る。
「そ、そうなんですね? それは楽しみです」
コウ達の勢いにシバは少したじろぐのであったが、自身もお酒が嫌いではないのでそう答えた。
「ヨサクさんが、この村で飲まれている麦酒の数倍は美味しいものが造れると断言していたので、村長以下、この村のドワーフはみんな期待しているんだよ!」
コウもドワーフである。
お酒はドワーフにとって猫にマタタビと言っていい代物だから、一度熱く語りだすと止まらない。
大鼠族のヨースもこのコウ達と一緒に過ごすことですっかりお酒好きになっていたから、テンションもコウ達と変わらないのであった。
「……あ、イッテツ師匠も心なしかウキウキしてる気が……」
シバは師匠であるイッテツもコウ達の話が聞こえてきたのか鼻歌混じりに仕上げ作業を行い始めたのに気づいて、どうやらお酒造りがこの村の一大イベントになりそううだと理解するのであった。
しばらくして、コウはコボルト族の村の様子を見に行ってはどうか、とこちらに来ている若者コボルトで、その代表のレトリーに自宅に招いた折にその話を持ち掛けていた。
「この『エルダーロック』の村で作られている武器や農具、服などを持ち帰りたいと思っているのですが、よろしいでしょうかワン?」
若いレトリー達はこちらに来てからずっと、村のいろんな仕事を手伝ってお金を稼いでは、それをコボルトの村に必要な品を購入して部屋に貯め込んでいた。
と言っても量的にはまだまだであったが、一つでも多くあちらに届けてコボルトの村の発展に繋げたいと思っているのは確かだろう。
「もちろんだよ。それに僕達からの差し入れもあるしね」
コウはこのコボルトの若者達の真面目で直向きな姿勢を普段から見ていたから、協力を惜しむつもりはない。
それに、自分達がきっかけでコボルト達が村を発展させる目標を持ってやる気になっているから、そのお手伝いはしたいところであった。
「ありがとうございますワン! 実は、今回一度戻ったら、自分達五人だけでなくもう少し仲間を呼び寄せてこちらの技術をもっと吸収したいと思っているのですが、いいでしょうかワン?」
五人の代表であるレトリーはコウにそうお願いする。
「ヨーゼフ村長もそこは了承しているし、大丈夫だと思うよ。良かったら、あっちの村長であるドッゴさんやオルデンさんをこちらに招いて今後の協力体制に付いて村長同士話し合うというのも良いと思うよ」
コウは交流を深める提案をした。
「それはいいですワン! あっちに帰ったら、その話を提案しますワン。今から帰るのが楽しみですワン」
レトリーは笑顔でそう応じるのであった。
コウとダークエルフのララノア、村長の娘カイナ、剣歯虎のベルに今回は村長の右腕、『太っちょイワン』、そして、コボルトの若者達五名が、朝一番から『エルダーロック』を出発してコボルトの村へと向かった。
道はコウによって整備されているのでトンネルまではあっという間である。
トンネルの出入り口は、すでにドワーフ警備隊によって警備されていた。
「ここからわずか数時間でアイダーノ山脈の間を横断し、ヘレネス連邦王国側、セイレイン王家領近くまで行けるのか……、不思議なもんだ」
『太っちょイワン』がコウの案内でトンネルを進みながら、そう漏らす。
「僕達も行くときは雪山越えしてたのに、こんなに楽になるとは思っても見ませんでしたけどね」
コウもイワンのつぶやきに苦笑して応じた。
「便利な通路ではあるが、それゆえに危険も伴うから、このトンネルは俺達で秘匿しなければならないのは、よくわかるな?」
イワンは感心しながらもその場にいる全員に注意を促した。
イワンは『エルダーロック』一番(コウの次だが)の剛力の持ち主であるうえにヨーゼフの右腕として頭も切れる。
それだけに、このトンネルの有用性と危険性が理解できるから、コウよりはコボルトの若者達に対して注意喚起しているようにも聞こえた。
「……気を付けますワン。このトンネルは自分達コボルトの村とエルダーロックの村の懸け橋ですワン。必ず秘密にしますワン!」
レトリーはみんなを代表してイワンに約束するのであった。
そんなやり取りもありつつ、一行はトンネルを抜けると、麓にあるコボルトの村へと向かうのであった。
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