第124話 続・ゴーレムの使い道

 汎用性が高く命令すれば、二十四時間稼働してくれるゴーレムの存在は、『エルダーロック』の村にとってかなり大きな存在になりつつあった。


 棚田の拡張においてもゴーレムは石積みから土運び込み作業まで夜の間に行ってくれるので日中になると農民ドワーフはそこを耕して種を植えればいいからかなり効率が良い。


 日中の鉱山においては、成人前の子供ドワーフ達が主にやっていた屑石運びもゴーレムに任せることができたので、子供達を危険に晒すことがなくなる。


 その分、手の空いた子供達には別の仕事をさせたり、最近では読み書き、計算の勉強をさせようと、村長のヨーゼフが村の老人達にお願いして教育にも力を入れ始めていた。


 今のところ望む者のみではあったが、生活が豊かになれば子供には読み書きを学ばせようと思うドワーフも増えてくるはずだから、これは良いことだろう。


 これらも実はコウが村長ヨーゼフに提案したものであった。


 それまでは村の拡張と人口増加に対して働き手が足りない状況だったから子供も駆り出されていたのだが、ゴーレムのお陰で子供の分はどうにか目途がつきそうであったので、将来を担うこの村の子供達の教育に力を注ぐべきだと熱く語ったのだ。


 コウは子供の頃から働いていたし、両親の死後は『半人前』として最近まで鉱山での屑石運びもやっていた。


 前世の知識を得て、勉強しなくても必要なレベルの学力を備えているが、それまでは読み書きがあまりできないドワーフだったから、色々と困ることは多かったのである。


 それだけに、今の子供達の気持ちもわかるから、勉強の重要性をゴーレムを入手したこの機会に提案したのであった。


 実際、子供達の間では読み書き計算ができると重宝される。


 中には親も読み書きができない者もいたから、ヨーゼフが作った小さい学校には子供だけでなく大人まで混じるようになってきていた。


「これまでは、読み書きできない者はできる者に頼っていた現状があるからな。コウの言う通り、今後の村のことを考えたら識字率は上げておくにこしたことはないな。それもこれも、ゴーレムを発見して持ってきてくれたコウ達のお陰だ。ありがとう」


 村長ヨーゼフはコウに、改めてお礼を言う。


「いえ、結果的にはそうなりましたけど、遠からず村長も同じことをしたと思いますよ。僕達ドワーフは差別されて下に見られている分、知識を付けて頭良く立ち回らないと、生き残れませんから」


「ああ、そうだな。私もそれをわかっていたからこそ、学んで利口に立ち回ってきたのに、他のドワーフのこととなると思いが至らなかった。──これを機に他にも何か提案はあるか?」


 村長ヨーゼフはこの頼もしい若者に意見を促した。


「そうですね……。ドワーフの中で魔力持ちは珍しく貴重ですから、村人全員に適正テストを行ってもらって、個性の一つとして村長が把握しておいた方が良いと思います。イッテツさんの下で働いている職人さん達もそのお陰で斡旋してもらったわけですし。あとは現在、持ち回りになっている門番や警備役を専門職にして、いつでも問題に対処できるようにした方が良いと思います。ここはすでに自治区扱いになってしまったのでバルバロス王国の庇護下にはないのですから」


 コウは気になっていたことを指摘した。


「確かにな……。つい、村の発展が目覚ましくてそちらにばかり力を注いでいたが、それらを守る為の警備隊を発足させた方がいいだろうな……。──イワン! メンバー選考をするから手伝ってくれ!」


『太っちょイワン』こと村長ヨーゼフの右腕であるイワンに声をかける。


 イワンは村長とコウの話の邪魔をしないように距離を取っていたが、内容は把握していたのだろう、


「わかった。推薦したい奴が何名かいる」


 とすぐに応じるのであった。


 こうして人口が日増しに増加している『エルダーロック』の村は、その体裁を整える為に着々といろんなことを形にしていくことになる。



「コウ、帰ったぞ。俺が留守の間に、この村はまた、面白いことになっているじゃないか! 聞いたぞ、ゴーレムの件」


 鍛冶屋で作業をしていたコウの下に外から久し振りに戻ってきた大鼠族のヨースが訪れていた。


「あ、ヨース、久しぶり!」


 コウは汗を拭うと、作業の手を一旦止めて、あとをシバに任せる。


 シバはコウに頷くと金属の鍛錬作業に移るのであった。


「それで、ゴーレムは金になりそうか?」


 商売人であるヨースはそれが一番気になるようだ。


「村で使用する分にはね? 間違ってもあれを外に出したら性能が違うことも気づかれるから、そんな危険なことはしないでよね?」


 コウはこの種族の違う友人に忠告する。


「もちろんさ。見る限り俺が知っているゴーレムとは性能が違う気がしたから、どんなものかと思ったんだが、やっぱり、外に知られたらマズいくらいの性能か……。まあ、この村の役に立つ範囲で使用できるのなら、問題はなさそうだな」


 ヨースは鍛冶仕事を手伝うゴーレムを見て、残念そうにそう告げる。


「それで、ヨースは戻るの遅かったけど、どうしてたの?」


 コウはヨースが結構な時間、村を留守にしていたので理由を聞いた。


「それはもちろん、商売の為に決まっているだろう。コウが見つけたきた胡椒もどき、『鉱椒こうしょう』の宣伝と取引に手間取って大変だったんだぜ? 最初王都で取引先を探していたんだが、香辛料組合が難癖付けてきてな。胡椒の偽物を持ち込んで市場を乱す鼠野郎って決めつけられて参ったよ。結局、新種の香辛料として『鉱椒』の名称が認められたんだけどな。申請登録やその為の根回しに苦労したんだぜ?」


 ヨースは大袈裟な溜息を吐くと苦労を口にした。


「そうだったの? 人族相手に良く認めさせたね?」


 コウはヨースがどうやらかなり苦労したらしいことに驚くと、興味を示した。


「本当だぜ。俺も最初、思わぬ反対と言い掛かりに困ったんだけどさ。オーウェン王子に泣きついて、その人脈を紹介してもらうまで大変だったよ」


 ヨースは王家を利用していたことをあっさり話す。


「ええ!? 王子を頼ったの!? というか、よく会えたね?」


 コウもこれには呆れ返る。


「ああ、俺も会えるとは思っていなかったし、何より、人族って俺達大鼠族の見分けが出来ない奴がほとんどだからな。顔を合わせても気づかないことの方が圧倒的に多い。だが、驚いたことに王子は俺に気づいたんだよ。例の料亭前でさ」


 ヨースは笑ってコウの疑問に答えた。


 どうやら、ヨースは会える機会が以前出会った場所である料亭くらいしか思いつかず、そこで待ち伏せていたらしい。


 そして、王子の乗る馬車がやってきたので、声をかけたそうだ。


「それで、『鉱椒』の話をしたら、興味を持ってくれてな。胡椒は高価すぎるから価格を下げる為にそっちも協力しろってことで、何人か人を紹介してもらって上手くいったってわけさ!」


 ヨースは粘り勝ちした俺の勝利! とばかりにモフモフの胸を張る。


「……ずっと思ってたんだけど、オーウェン王子って噂とは全く違うよね?」


 コウは噂では厄介者扱いされているはずのオーウェン王子の実態について実像と乖離が激しいことを指摘した。


「だからこそ、俺も頼ったのさ。世間の噂と違うのは、実際に会った時にわかっていたことだろう? あっちはコウ達には借りがあるから、できることはいつでも協力するって言ってたぜ?」


 ヨースは今後も頼る気満々なのかニヤリと口元に笑みを浮かべる。


「相手は王子だから、程々にね?」


 コウは商魂逞しいヨースに苦笑して、釘をさすのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る