第120話 管理者
コウ達一行は地下奥深くに実在した古代遺跡を発見、その中で未だに動くゴーレムの存在に当然ながら強い興味を持ち、その秘密を調べるべく遺跡で一番大きな建物に向かった。
その建物はこの遺跡である村に似つかわしくない程の大きさで、コウも最初からずっと気にはなっていた。
「近くまで来るとさらに大きいですね……。何の為の建物なんだろう……」
コウは外から眺めているだけで圧倒されるのであった。
「ああ……。ポサダの奴の『
ダンカンも眼前にしてその大きさに唖然とすると、エルダーロックにある髭なしドワーフグループの一人であるポサダが経営する宿屋と比較する。
「本当ね。エルダーロックの村では、あそこが一番大きな建物だものね」
ダークエルフのララノアも二人に賛同して頷く。
「中が気になるわ。みんな早く行きましょう」
村長の娘カイナはこの中では一番可憐に見えるのだが、好奇心は一番のようだ。
「どんなゴーレムがいるかわからないし、僕が安全確認の為に先に入るから、みんなは待ってて」
コウは仲間が危険に遭遇しないように、一番負傷しても損害が少ないであろう自分が、警戒しながら不思議な物質で来ている大きな扉を開いて中に入っていく。
そのコウの視界に広がったのは、明るい室内に並ぶ数多くのゴーレムであった。
それもただ、並んでいるのではない。
胴体や腕や足など部品が並んでおり、それが台の上に置かれている状態だ。
それを見て前世の知識があるコウの頭に最初浮かんだのは、『ゴーレムの工場』である。
ただし、動いている様子がないので稼働はしていないようだ。
だが、塵一つなく掃除が行き届いており、いつでも動きそうな状態にはある。
その時であった。
この『ゴーレムの工場』の室内にベルが鳴る。
「え!? 何!?」
コウは驚いて周囲を見渡した。
すると奥の部屋からコウより小さいゴーレムが数体出てくる。
もしかすると自分が侵入したから排除しようと動き出したのか?
そう警戒するコウであったが、そのゴーレム達は、広い室内の各場所に移動すると、そこでピタリと止まる。
そして、
『敷地内にて一体のゴーレムが、破損しました。近くのゴーレムは速やかに破損したゴーレムを回収してください。なお、緊急事態の為、緊急対策である自動補充機能を発動します。速やかに一体を製造して直ちに元の管理状態に戻してください』
と工場内に機械的な音声が響いた。
すると、直ちに配置についていたゴーレムが再度動き出し、工場内の機械を作動させる。
ベルトコンベアーが動き出し、そのベルトコンベアーの一番最後の多分、完成工程のところだろう、そこに一体のゴーレムが排出された。
その近くにいたゴーレムが、排出されたゴーレムに歩み寄り、手にした石を胸部分のくぼみにはめ込んだ。
するとその石は胸内部に吸い込まれていく。
そして、ゴーレムは自分で動き出し、何事もなかったように大きな扉から外に出ていくのであった。
それをコウが見送っていると、次は二体のゴーレムが壊れたゴーレムを運んできた。
そのあとにダンカン達が室内の様子を気にして扉から中に入ってくる。
ゴーレム達は壊れた仲間を奥の部屋に運んでいく。
コウはどうするのか気になったのでそれについて行った。
そこは、修理道具と思われるものが沢山並んでいる部屋であったが、ゴーレム達自身での修理は不可能なようで、部屋の隅に大量に壊れたゴーレムが積み上げられている。
長い間、修理されることなく、壊れたゴーレムはそのまま放置されていたのだろう、それを見たコウはなんだか切ない気持ちになった。
どうやら、修理自体は当時のこの工場の従業員が行っていたのかもしれない。
ゴーレムには自分を修理する機能が無いのか、もしかしたら、あえて出来なくしてあるのかもしれない。
しかし、工場が稼働しているところを見ると、工場自体の整備は可能であり、壊れた分は緊急事態ということで工場を稼働し新たに補充することは可能なようだ。
「ゴーレムが慌ただしく動き出したから、コウに何かあったのかと思ったのだけど、違うみたいね?」
ララノアがコウに駆け寄って、声をかける。
「うん、ゴーレムが故障したから補充の為に工場が緊急稼働したみたい。多分、長い間、壊れるたびに数を補充する形で動き続けていたみたいだね」
コウは先程のアナウンスや状況からそう判断して報告した。
「たまげたな……。こんなもの、現在の技術ではありえんぞ?」
ダンカンが驚いた様子で、室内を見渡してそう独り感想をつぶやく。
「カイナとベルは?」
コウはカイナと
「カイナは中を見て回っているわ。ベルはそれを守るようについて回っている」
コウの疑問に答えると、ララノアも興味深げに周囲を見渡すのであった。
「コウ! こっち来て! 多分、この施設の中心みたいよ!」
そこへカイナの大きな声が工場内に響く。
ゴーレム達はすでに奥の部屋に戻ると起動を停止していたから、誰も邪魔する者はおらず、コウ達もカイナの声がする奥の部屋に向かう。
その部屋にはL字型の大きな箱があり、前世の知識で言うところの管理室だろう。
ここから工場全体を管理しているのであろうことは、コウでも予想がついた。
コウは、その大きなL字型の箱を見渡すと、ボタンらしいものがないので、手の付けようがないと思ったが、コウがその表面に手を置くと、何もなかったところにボタンが出現する。
「私が触った時は反応しなかったのに」
カイナが驚いてコウの横でその様子を窺う。
コウは出現したボタンを押すと、次に手のひらを表す絵が机の上に浮かび上がる。
「こういうのって登録者以外がやっても反応しない気がするんだけど……」
コウはそう言いながらそこに自分の手を重ねてみた。
すると、
『関係者以外の情報を確認しました……。──前任者の最後の認証からすでに大幅に任期を越えているので、新たな登録を求めます……。よろしいですか?』
機械的な音声が箱からすると手のひらをかざしたコウに確認してきた。
「はい……?」
コウは疑問形で応答すると、
「承知しました……。情報から&%$ドワーフであることを確認……。新たな適任者と認めます……。──登録完了しました」
と機械的な音声は答え、あとは沈黙する。
「え? えっと、もういいのかな?」
コウは音声に聞き返す。
しかし、応答は一切ない。
もしかしたら、自動音声で登録されたものなのかもしれない。
「……何が起きたの?」
カイナは傍で見ていたが、理解が追い付かず、コウに確認する。
ララノアとダンカンもそれは一緒であったから、コウに説明を求めた。
「えっと……。ここの前の管理者が、最後に応答してからかなり時間が経っていて、管理者としての任期を越えていたから、新しい管理者を求められたので、僕が代わりにその管理者になった、ということなのかな?」
コウもよく理解していなかったが前世の知識がある分、みんなよりは理解するのは早い方ではあったので、あとは想像を踏まえて答えた。
「「「えー!?(ニャー!?)」」」
ララノア、カイナ、ダンカン、ベルはこの未知の施設の管理者になってしまったということに驚くしかないのであった。
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