第119話 地下にあるもの

 コウと髭なしドワーフグループのダンカンの二人は、アイダーノ山脈の開通トンネルの地下深く、洞窟の硬い岩盤層のさらに奥へあると思われる空間を目指して、掘り進めていた。


 普通なら採掘上手のドワーフでもこんな硬い岩盤は、道具と時間の無駄になる確率が高いことから掘るのを避けるものだが、コウは能力に『超掘削』に『超怪力』持ち、さらにその手にする道具は超魔鉱鉄製、一等級のツルハシときていたから、掘り進めるのは容易であった。


 一緒に掘っているダンカンも掘削能力はドワーフの中でもかなり優れていて、道具もコウが作った無印の超魔鉱鉄製のものを持っていたから、コウの足を引っ張らない程度に採掘を進める。


 とはいえコウの掘削速度は、尋常ではなかったから比べようもないのであったが……。


 コウが穴の中心を豪快に掘り進め、ダンカンがその周囲を綺麗に削っていくという役割分担で坑道は斜め下に続いていく。


 時折、コウが金槌を取り出して、『鉱脈探知』で掘る方向、高さにズレがないか確認しながら、掘り進めた。


 二人の掘削作業の間、待機していたダークエルフのララノアと村長の娘カイナ、剣歯虎サーベルタイガーのベルは暇を持て余すところであったが、二人が食事の用意や寝床の用意などをして時間を潰す。


 ベルはコウに呼ばれるまでは、待機を決め込んで、広間で寝ているのであった。


 何時間が経過しただろうか?


 コウとダンカンは途中、ララノアとカイナが用意した食事を食べたり、少し休憩とばかりに睡眠を取る以外は、ずっと掘り続ける作業を行っていた。


「ダンカンさん、もうすぐ空間に届きそうです」


 コウは『鉱脈探知』能力でその感触を掴むと、ダンカンに伝える。


「この固い岩盤を数時間でここまでよく掘れたもんだよ。いよいよか、どんな鉱脈のある空間に届いたのか楽しみだな!」


 ダンカンはドワーフとして血が騒ぐのか疲れているはずなのに、その目は輝いている。


 それはコウも一緒であった。


『鉱脈探知』では空間を確認できても、何かに妨害されてそれ以上は確認できなかったのだ。


 これは、きっと未知の鉱物か、『遺産の部屋』である可能性がありそうだと考えていたから、コウも最後の掘削作業とばかりにペースを速めて掘るのであった。



 コウがツルハシを岩盤に突き立てると、大きな穴が開いた。


 ついに確認していた空間に届いたのだ。


 驚いた事に、その穴から光が漏れてくる。


 これは、『遺産の部屋』でもなかった経験だから、光る鉱物なのかもしれないとコウとダンカンは目を見合わせて期待した。


 穴を広げて、二人はその穴に顔を突っ込むと、中を覗き見る。


「「これは!?」」


 二人の想像では大金になる鉱物の山を想像してのだが、そこにあったのは、明らかに人が住んでいた形跡のある人工物であった。


 それは文字通り地下の街だ。


 大きな空間の一面に家々が立ち並び、天井や壁は薄っすらと光を発している。


「……こいつはとんでもないものを見つけたかもしれん。これは遥か昔、古代の時代に存在したという逸話が残っているエルダードワーフの街かもしれない……」


 ダンカンは、穴を潜るとそのドワーフの街に足を踏み入れる。


 コウもその後に続いて中に入った。


 そこに、変化に気づいて駆けてきたベルが二人に追いつき、ベルを追いかけて、ララノアとカイナがやってきた。


 一行は目の前に広がる立派な古代遺跡に、驚きの表情で周囲を見渡す。


「……よく見るとやはり古い遺跡なのだと思うのだが、それでも数年前まで人が住んでいたかのような佇まいだ……。みんなどうする? 見て回るか?」


 ダンカンは遺跡を冷静に観察して安全かどうか確認したそうだ。


「ここまで来たら、見て回る以外の選択肢はないですよ!」


 コウはダンカン同様、ドワーフとしての好奇心があったから、当然賛同する。


 それはドワーフではないララノアも未知の遺跡に好奇心いっぱいであったから一緒であった。


 一行は全員一緒に行動するという確認をして、この遺跡を見て回ることにした。


 この遺跡は意外なことに、第一印象と違ってあまり大きくなかった。


 というのも、広がっていると思っていた景色は壁に描かれた絵だったのだ。


 だから、街レベルの大きさと思った広さは錯覚でしかなく、多分、村くらいという感じである。


 だが、大きな建物も結構あり、村にしては立派なのは確かだ。


 コウとダンカンが先頭に、それらの建物内部を一つ一つ確認していく。


 確認したところ、当然だが長いこと人が住んでいた気配がない。


 と言ってもこの村が、どのくらい前から存在したのかわからないので、住んでいた気配も風化していて当然ではあった。


「それにしては、やけに綺麗ではないですか? 掃除が行き届いているような……」


 コウはそう言いながら、ハッとする。


 それは、こんな地下深くにあって、空気が淀んでいないわけがないのだ。


 だが、この空間は、それを感じさせない。


 コウはそれをみんなに指摘する。


「確かにそうだわ……。どこか空気口みたいな穴でもあるのかしら?」


 ララノアが匂いを嗅ぐ仕草をしながら、周囲に視線を向けた。


 そこに剣歯虎のベルがピクリと反応する。


「どうしたの、ベル?」


 コウはベルの反応にすぐ気づいて問う。


 いや、そう聞いた次の瞬間には、何かが動いていることに気づいた。


 コウはすぐに魔法収納鞄から自慢の戦斧を取り出す。


 ダンカンも背負っていた戦斧を手に取る。


 ララノアは腰の刀に手をやり、カイナは杖を掲げた。


 建物の壁からこちらに接近してくる複数の音が近づいてくる。


 一行が緊張でゴクリと息を呑んだ次の瞬間。


 そこに現れたのは、ドワーフより小さい人型の石の塊、ゴーレム達であった。


 ゴーレム達はコウ達を気にすることなく、近くの建物にそれぞれ入っていく。


 後を追って室内を見ると、ゴーレムは各自で掃除を始めた。


「……もしかして、長い間、主のいないこの村で掃除をやり続けていたのかな?」


 コウが少し、ゴーレムに同情するようにつぶやく。


「そうかもしれんな。だが、それよりも、ここが古代に存在したというエルダードワーフの村ならば、滅んでからもずっとこのゴーレムは動き続けていたことになる。それはとんでもないことだぞ!?」


 ダンカンが、驚きの表情でそう指摘した。


 確かにダンカンの指摘通りそれが事実なら、このゴーレム達の耐久性は世の中に存在するゴーレム技術などよりはるかに優れているということになる。


 それは古代の技術がいかに優れていたか、さらには差別対象であるはずのドワーフの祖先がいかに優れていたかを証明するものであった。


「失われた技術……ね。──コウ、このゴーレム達、あちらの大きな建物の方から来たのかしれないわ。見に行ってみない?」


 カイナが村で一番大きな建物を指差す。


「そうだね。──ダンカンさん、見に行きましょう!」


 コウはカイナの提案に賛同するとダンカンを誘ってその建物へとみんなで向かうのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る